第7話「チャメッケ」
「盛大にやったな」
目を擦りながら、声のする方を見ると、いつの間にか離れた位置にいるハイネはニヤニヤしながら、楽しそうにしている。
「ハイネのやつ避難したな!」
「うう…」
この嫌そうな声の主はステラだ。俺は咄嗟にハイネのいる後ろ振り返ったわけで、無様にくしゃみした瞬間はその反対側を向いていたわけで…
「ごめん!ステラ!」
「汚いの〜」
振り返ると、俺のくしゃみを正面から受けてビシャビシャなツノウサギと、そのツノウサギのシールドで防ぎきれなかった唾と黄色っぽい粉を髪に付けたステラがいた。
「本当にごめん!」
「いやいや。いいのいいの。イタズラしたの私だし。それにしても予想以上に盛大に…」
「…それにしても今のは?」
「うん。ツノウサギはね、危険が近づくと刺激のある魔粉をばら撒くの。大抵の生き物はその粉を吸うと段々と身体が痺れて動けなくなるの。」
「痺れて動けなくなるの!?」
「ああ!大丈夫!人種にはあまり効果が無いの。稀に他の生き物同様に痺れる人もいるけど軽度だから。」
「何だかアレルギーみたいだね。」
「アレルギー?」
「ああ、いやこっちの話」
無闇に元の世界の知識を出して、身元を怪しくするのはまだ怖いからね。もう少し打ち解けてきてからにしよう。
「気は済んだかい?ステラ。」
「ハイネがやるように言ったんでしょ!?」
「ええ〜?そんなこと言ってないよ〜」
「ちょっとハイネ!違うからね!まだ不安そうなアレクに少しでも元気になって貰おうとかそういうのではないからね!」
「それ全部言っているのでは?」
「もー!茶化さないでよ」
どうやら2人に気を遣わせてしまったらしい。こんな何気ないやり取りであっても、どこか日常感を思い出し、心の底から安心してしまうのだから、相当俺の神経はピリついていたのだろう。優しいな。この2人は…
それから、ステラは手慣れた様子でツノウサギから魔粉を取り出し、クリーム色から白色に変わったツノウサギをハイネに手渡してその後の処理を任せた。その間俺は、まだムズムズする鼻やら目を洗うために近くにあった川に向かった。
目や鼻を水でよく洗っていると、段々と不快感が取れ始めた。川面には見慣れない顔の男が映っていた。茶色のミドルヘアーに端正な顔立ちの青年だ。きっと元の世界だったら、この顔を武器に戦えるのでは?と思える位には整っている。まあ、結局は顔とか関係なく、泥臭く働いていた気がするけど。そうか…俺はもう…
「お!戻って来た!あんまり遅いから、迷子になったのかと思ったよ。」
「うん。探しに行こうか話して今出ようかと思ってたんだよ。」
「ごめんごめん。ちょっとボーッとしてしまって。」
「まあ亡国の王子は悩みが耐えませんよな〜」
「ああ、国滅びたんだった…」
「ちょっとハイネ!」
「あれ〜?予想とは違うことで悩んでいる上に、思い出させて傷抉ってる?僕?」
「ふふふ。冗談ですよ。2人のやりとり見てたら、つい。」
「「もう〜!」」
そこから、俺はステラとハイネと談笑しつつ、2人が調理を進めていたツノウサギ料理の完成を待った。




