第6話「ツノウサギ」
ハイネは道中にこの世界について何も知らない俺に対して、1から丁寧に教えてくれた。
この世界にはエルフやドワーフ、獣人などの多くの種族がいること。その中でも、人族は最も非力な存在であり、その代わりに商いや政治といった分野で活躍するものが多く、大きな権力を持っていること。魔法は存在するが、あまり戦には使われていないこと。その理由としては魔法の発動には時間がかかり、そんなことをするよりも弓矢や剣を用いた方がよっぽど強いこと。といった異世界のよくある設定らしきものを聞いた。
「俺は王に未来を託された王子なんだけど、実際は国のことも敵のことも分かっていないんだけど、ハイネは何か知ってる?」
「うーん、あまり詳しくなくてな。俺たちは放浪の民であまり国とかの大きな話に興味がないんだ。」
「そうなんだ…君たちは放浪の民なんだとしたら、今から向かうのは君たちの国とかではないってこと?」
「そう。俺たちは一つの場所にとどまらないからね。今から向かうのは仮拠点だ。」
「ふーん。どれくらいの人がいるの?」
「俺とステラを入れて…何人だ?まあ俺たちの紹介は仮拠点についてからでいいだろう?」
「うん。」
大事な事ははぐらかされている気がするが、そう言われるとこれ以上ハイネ達について尋ねるのは野暮な気がして詮索できなかった。
そこからは道中遭遇した植物や動物、魔物なんかについて話してくれた。というかほとんどは魔物についてだった気がする。
「あ!ツノウサギいる」
「ツノウサギ?」
「ツノウサギは美味しい魔物なの」
「ステラはツノウサギの肉が好きだもんな」
「食べるんだ?可愛い見た目してるのに?」
「ん?僕だって肉は食べるよ?」
(いやツノウサギが可愛いという意味だったんだが、まあステラは確かに可愛いからいいか?)
ハイネはニヤニヤしながらこちらを見ていたが無視しよう。
「でもツノウサギも魔物なんでしょう?」
「攻撃してこない?」
「ツノウサギの場合は大丈夫だな」
「どうして?魔物は人を襲うって言ってなかった?」
道中のハイネの説明では、魔物は人を襲いその肉を喰らうとのことだったはずだが…
「確かに魔物は人を襲うんだが、ツノウサギだけは襲わない。そもそも魔物が人を襲うのは、人に脅威に感じていないからなんだけど」
「脅威に?」
「ああ。魔物は人よりも魔法の行使が得意な種族が多く、人を狩ることはあっても狩られることはほとんどないんだよ。でもツノウサギが使える魔法は人に害を与えないことが分かってからは、人はツノウサギを狩るようになったんだよ。」
「害を与えない魔法ってどういうものなの?」
「体験してみようか」
ニコニコしているハイネはステラに目を配ると、ステラはゆるりとツノウサギに近づくと、その耳を掴みあっという間にツノウサギを捕獲した。
「ツノウサギって無抵抗で捕まるんですね」
「いや、あれはステラの魔法によるものさ」
「え、今魔法つかってたの?」
「ああ、ステラの魔法は恐ろしいよ〜?一瞬で相手を夢の世界に誘うからね。」
「一瞬って…本当に一瞬…」
正直、俺は初めてステラに対して恐怖を感じた。今は友好的だけど、その気になれば一瞬にして無力なウサギの様にさせられてしまう。きっとハイネも同じくらいことは簡単にできるのだろう。忘れていたが、ここは人を簡単に傷つける世界なのだ。セバスはもう…
「アレク。目を閉じて」
「え?」
「危ないから」
「うん」
ボーッと考えていた俺の目の前にツノウサギを手にしたステラが立っており、言われたとおりに目を閉じた。
う、鼻がムズムズする。
「ハックシューン!!!」




