第5話「一呼吸」
その少女はステラと名乗った。
俺はステラとの会話を通して、心拍数が元に戻っていくのを実感していた。この世界に来てから、波瀾万丈で落ち着いて人と話したのは初めてだった。もう安心してもいいのかもしれない。
「あれ〜、ステラ何しているの?」
「ハイネ…」
「お前が俺たち以外と一緒にいるところなんて久しぶりに見た。」
急に現れたその男は、剣呑とした雰囲気で話し始めた。ステラとは仲がいいらしい。
「えっと、あなたはステラの友人ですか?」
「友人というか、家族だ。」
「家族ですか。ステラのお兄さんですか?」
「兄?いや、単純に家族だ。それよりお前は何者だ?」
「え?僕は…」
そうだ。俺って何者なんだろう?中身と容れ物の違う存在?記憶喪失者?王子?追われるもの?分からない。どれを答えるべきなんだ?しかしこういうときは同情を買って、助けてもらえるようにしないとか?
「実は自分が何者なのか自分でも分からないのです。」
「ん?それはどういう意味だ?」
「記憶がないんです。」
「記憶がない?」
そこから俺はごく短いこちらの世界での記憶を語った。
「そうか〜。そいつは不憫だな。」
「可哀想…」
久しぶりに話したステラは可哀想と哀れな子を見たかのような反応をした。いや、そうなんだけどステラに言われると何となくいたたまれないきもちになる。
「お前。どうしたい?」
「え?」
「お前は今後どうしたいんだ?」
とりあえず生き残るのに必死で、この後のことを考えられていなかった。
「とりあえず、この世界を知りたいです。正直今のまま死んだのでは、納得いかないです!」
「そっか。じゃあお前、俺らと一緒に来いよ。」
俺は悩む。この人達は信用できるのか?優しい言葉をかけてくれて、独りの寂しさを紛らわせてくれる。確かにこの人たちはそういう存在だ。しかしそれは、今この場においてはそうだというだけだ。
俺は王にセバスに、希望を託された。その俺は成り行きで行動していいのか?いいはずはない。しかしだからといって、どうしたらいいかも分からない。
この2人は話を聞いてくれる。それだけで、今は十分なんじゃないか。
「ボーッと考えてどうした?」
「行きます!一緒に!俺何も分かってないけど、それを知るためにも」
「よっしゃ!じゃあ改めて、俺はハイネだ。よろしく。」
「アレクです。よろしくお願いします。」
こうしてようやく、この世界での生活が本当の意味で始まった。




