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ホット・ミール  作者: 灯坂ゆいら


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第11話「毒は誰の手に残る?」

町の中は思ったよりも栄えており、石畳が敷かれた道路は十分な幅を持ち、陽光もよく当たっている。立ち並ぶ家屋は、1階が店舗で2階が住居というものが多く、さまざまな商品が立ち並んでいた。


「お腹でも空いたのかい?アレク」

「いやいや、違うよ。あまり見慣れない景色だったからつい物珍しさで眺めていただけだよ。」

「物珍しいか?よく見る町並みだけどな。」

「うーん、王子だったからかな〜。なんちゃって」

「記憶喪失で何も覚えていないけどね。」

「うう…でもこういう町の雰囲気は好きだな。」

「うん、分かるよ。様々な商品を眺めているだけで楽しめるよね。」


そこからしばらく歩いていくと、綺麗な装飾の衣類を店頭に飾った服屋に目を奪われた。それはステラも同じだったようで、「少し見てくる」と言って歩いて行ってしまった。その様子が年相応の女の子っぽくて、何だか微笑ましい。


「アレク、俺らは見られないようにしよう。」

「え?どうして?」

「可愛い女の子には気をよくしてくれる店主は多いけど、男連れとなると違うからね。さあ。」


そういうと、ハイネは俺を連れて、隣の店舗に近寄り、ステラとはあくまで別団体として振る舞った。


「わぁ、綺麗。」

「一級品だからな。」

店主はステラを見ずに自慢げに答えた。きっと店頭の服は客寄せのためで、その服にお客が引き寄せられるのを店主は知っていたのだろう。

「これはどこで手に入れたのですか?」

「これはな...」

店主は振り返ってステラの灰色の肌を目に入れると、一瞬言葉を詰まらせた。

「ううん!これはブルジョンド王国の貴族が身に着けていたものだ。なんでも隣町に向かう途中で車の足が悪くなった際に、通りがかった商人が手を貸したお礼にともらったそうだ。仕立ては丁寧で豪華な装飾までふんだんにあしらわれている。」

「どおりでとてもいい品だと思いました。」

「ああ。しかし嬢ちゃんの肌色に合わせるには少し色が薄すぎるかもしれないけどな。」

店主は意地悪そうな目をして、少し声の大きさを抑えてそう言った。

「ええ?それってどういう意味ですか?」

店主の言葉に対してステラは全く悪意に気づいていない様子で不思議そうに答えた。


「ハイネ、あいつステラに対して...」

「まぁアレク、落ち着いて。大丈夫だから。」

「でも!」

「まぁ見てなって。」


俺はとても嫌だった。人を差別したり、傷つけたりする人間とは仲良くできない。ましては、自分によくしてくれた人間が悪意にさらされているのを黙って見ているのはとても嫌いな行為だった。今すぎにでも、ステラのもとに駆けていき、その場から離れさせたかった。


「どういう意味って、それは...」

意外な事に店主は、先ほどまでの態度を取れなくなっていた。よく見ると、店の中には、綺麗な女性がおり、服のしわなどを伸ばしていた。さっきまでとは明らかに態度が変わったところを見るに、あの店主はその女性の前では悪い人物ではいられないのだろう。


「あらホーリー、綺麗な身なりのお客様ね。」

「あ、ああ...」

女性に声をかけられた店主はバツの悪そうにステラの前を空けた。するとその女性は流れるようにその場を奪い、ステラとの会話を始めた。


「お嬢さん、その服が気になるの?」

「はい!とても綺麗で、他のどのお店の衣服は目に入らなかったのに、この服だけはどうしても目が離せなくて」

「ふふふ、素直でいい子ね。それに可愛い。」

(ああ、確かにステラは可愛いだろう。奥さん。)

「お兄ちゃんから、舞踏会に向けて新しい衣装を探すように言われてたの。」

「そうなのね。でもこの辺は、あまり舞踏会向けの服は置いてないわよね?」

「はい。そんな中ようやく見つけた品で...」

「いいわ。この服譲ってあげるわ。」

「ええ!?いいんですか!?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ!それはとても高価なもので...」

「ホーリー、あなたは黙っていなさい!」


慌てた様子の店主に対して女性はピシャリと言った。


「お客様を大切に出来ない人間は商人失格よ。それにこの服は私が貰ったはいいけど、サイズが合わなかったから飾っていただけで、あなたの商品ではない。」

「ううむ...」


そこからは、奥さんとステラの楽しそうな会話が続き、店主は奥に引っ込んでいった。


「ハイネはこうなることが分かっていたの?」

「いや、こんな結末になるとは思ってもいなかった。」

「そりゃそうだよな。でも!天然無垢なステラがあのまま店主に嫌な言葉をかけられ続けたかもしれないのに!」

「天然無垢?あはは!面白いこと言うね。」

「え?だって店主の嫌味に全然気づいていない様子だったじゃん。」

「あれは敢えてさ。ああいった感じで、僕たちに嫌味を言ってくる人はたくさんいる。この肌の色はとても珍しいと共に、生き物らしさの感じられないってことで差別の対象になってきたんだよ。」

「そんな...。間違っているよ、そんなの...」

「そうだね。でも、全ての人間がアレクのように優しいわけではない。人は群れることで脅威から逃れてきたからね。群れをつくる際に、同じ特徴を持たないものは危険と感じてしまう部分があるのだろう。でも、それも遠い昔の人間の在り方さ。お互いに意思をかわせるようになり、そして言葉を交わせるようになり、考えをかわせるようになった。そうすることで、相手のことを脅威に感じなくなったわけだ。それでも、なお自分とは違うというだけで差別的な態度をとる人間は許されるものではないね。でもそんな彼らも、群れの一部でなければならない。そうじゃないと脅威から逃れられないからね。」

「群れの一部...」

「そう。群れ。ここでいう群れは正義の群れだ。人は理性的で間違ったことをすれば罰せられ、最悪の場合、脅威とみなされ排除されるからね。あの店主は一対一では嫌味を言うことが出来たけど、奥さんが出てきたら言えなくなった。」

「あんなことを言っておきながら、自分は正義で悪者ではないってことにしたいのか。」

「そうさ。だから、あんな風に嫌味を言ってくる人間には、天然な振りをして聞き返すか、聞こえなかった振りをして、もう一度大きな声で、周りの人に聞こえるように言わせるといいよ。大抵はこれで解決する。」

「そうなのか...。」

「大切な事だからもう少しだけ続けるとね、嫌味を言う人間はわざわざ毒の準備をして、それを相手に受け取らせ、苦しんでいる様子を見ようとするんだ。だから、嫌味に対して、ムッとして言い換えしたり、困って黙り込んだりするのは相手の思うつぼなんだ。だってそれは用意した毒が、相手に届いて苦しんでいるのが分かるわけだからね。目的は達成されるわけだ。だけど、その毒を受け取らなかった場合、その毒は誰のものになると思う?」

「毒は...用意した本人の手元に残る。」

「そう。だからね、毒である嫌味は受け取らないのが一番効果的なんだよ。ステラはそれが分かっていたから、あえて天然な振りをしたんだよ。そうすることで、店主ははっきりと、肌の色で差別したことを説明しないといけなくなるし、ましてはそれを他の人間に聞かれたらこの町という群れから排除されてしまうかもしれないからね。」


正直、とても感心した。自分はどちらかというと、嫌味を言われると黙り込んで、苦しむタイプだった。もっと早く知りたかった。ステラやハイネはいつ、気づいたんだろう。あの奥さんも分かっていたのかな?嫌味を言われて苦しんでいる人にこのことを教えてあげられたらいいな...

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