鬼っ子7
「おかしいよ、それって」
「なぜ?」
「だって、食べ物を摂るために歩いたり走ったりするんだろ?
でも、歩いたり走ったりしたら、お腹が減るんじゃないの?」
師匠は、ちょっと黙って、やがて笑い出した。
「そうだな。変だよな。何やってたんだろう?」
そのころから、五年はたった。
ヒカリはずいぶんとおとなになった。
だからもちろん、以前よりはいろいろなことを、広く深く、理解できるようになった。
葉緑素を獲得すると、人々は、労働から解放された。
なにしろ、日光と水と二酸化炭素があれば、栄養を生産できるのだ。
食料の調達も、料理も、食卓の準備も、しなくなった。
日光を遮るので、服を着ることもなくなった。
家も、必要ない。
何かを購入する必要が無いのだから、お金を得るために働くのはナンセンスだ。
たくさんのビジネスも、農業や漁業や林業も、次々に放棄された。
人間らしい楽しみを楽しめばよいのだ。
芸術活動をしたり、おしゃべりを楽しんだり、恋愛したり、ひたすらぼーっと空を見上げたり。
光合成の効率は、激しい運動を支えられるほどではないので、スポーツは敬遠されるようになった。
旅行をすることも、一時的に流行った。
光を遮らないように、屋根をとりはらった車や電車に、何も荷物を持たない、緑色の裸の人々があふれんばかりに乗り込んで、嬉しそうに、どこかを目指していった。
ところが、乗り物は出て行った切り、戻ってはこなかった。
燃料や電気を生産する者がいなくなったせいで、どこかで止まったら、それっきりだったのだ。
しかし、それも、深刻な事態ではなかった。
人間の脅威になるような大型の獣は、とっくに絶滅していた。
乗客たちは、何の不安もなく、どこででも、野宿することができた。
そうやって、あちこちに、緑の人々のコロニーが生まれた。




