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王花  作者: 小野島ごろう
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鬼っ子6

 根、という言葉に、ヒカリは反応した。


「根、って、足のこと?」


「ああ、お前たちは、足、っていうのか。

もはや、足ではなくなったのに。

……足と言えるのは、お前のような形の、移動に使えるものだけだよ」


「なんで、おれだけ、足があるの?」


「なんでだと思う?

お前が一番、そのことについて考えてきただろう?」




 確かに、足のことを考えない日など、一日もなかった。



「なんでか知らないけど。

邪魔じゃない。

うん、べつに、あってもいいし、むしろ、便利だよ。

だって、行きたいところに行けるだろ?

光が当たるところに移動できるし、喉が渇けば、水場にも行ける」



 師匠は、にこやかにうなずいている。

 ヒカリは、調子づいてきた。



「だのに、足じゃなくて根が生えたやつらは、おれのことをバカにするんだ。

鬼っ子だとか、生まれが卑しいとか、下品だとか、獣っぽいとか。


そのくせ、偉そうにおれに用事を言いつけるんだよ。

(くだ)しているくせに。仕方がないって感じで。


このごろじゃおれは、嫌なやつの頼みは断るようにしているんだ。

干からびようが、虫に食われようが、腐れ病(くされびょう)にかかろうが、いい気味さ」




「いにしえの人々は、お前のように、みんな足で移動していた、という言い伝えがある」

「ふうん?」


 ヒカリは、激しく興味をかきたてられた。


「いにしえ、って?」

「昔のことだよ」

「どのくらい昔?」


「何十代も世代が前の、遠い遠い昔だよ。

そのころの人々は、口から食べ物を摂るために、移動しなければならなかったそうだ」


「なんだって? 口から?」

「そう。鋭い歯で、獣や魚や植物を噛みちぎり、すりつぶして、飲み込んで、体の中で溶かすんだ」



 ヒカリは、思い出せる限りの人々の顔を思い出してみる。

 歌ったり、話したりするだけの、ごく小さい口。

 歯と言われるものはあるが、あの、あるかないかわからないような歯で、何かを噛みちぎることなどできそうにない。



 ああそうか。動物と同じだったんだ。

 ヒカリは、納得した。

 アリや、クモや、カマキリ。鳥や獣たち。



「でも、なぜ?」

「かれらは、自分で栄養を作れなかったんだよ。

だから、他の生き物を食べることで、体を作ったり移動の燃料にしたりしていたそうだ」


「ふうん」


 あまりうらやましい生き方とは思えない。

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