マムシ4
それでも、これがタケルとの最後の会話になるかもしれない。
マムシは黙ってうなずいた。
「かわいそうに。
おまえが、やつらに何をした?
かわいそうに。
わたしが、おまえを望んだばかりに。
……しかし、我が子を望んで、なにが悪い?
今のこの世界こそが、間違っているのだ。
罪もない幼子に、よってたかって大勢で石を投げつけるなんて」
マムシは、驚いた。
タケルが、そんなにマムシのことを気にかけていたとは。
母親はいつも、淡々と落ち着いていた。
激高したところはもちろん、喜んだ顔さえ見たことがない。
タケルが話すのは、生きるための知恵や、研究のことくらいだった。
「この世界は、一度破壊して、建て直さなければならない。
マムシ、それがおまえの使命だ。
ちょうど、もうすぐ、星が並ぶ夜が訪れる。
まさに、おまえのために準備された夜だ。
くわしいことは、一番奥の、一番上に置いた書物に書いてある。
おまえなら、どうしたらよいか、すぐに理解するだろう。
この汚らしい世界を噛み殺し、美しく正しい世界を創るのだ。
そうしたら、……おまえもきっと……」
きっと、どうなると言うつもりだったのだろう?
タケルは、終いまで言わずに、こと切れた。
マムシは、タケルのなきがらの横に、しばらく座りこんでいた。
これといって、特別な思い出などはなかったので、最後の言葉だけが、強烈にマムシの心に焼きついた。
硬く冷たくなったタケルの身体を、マムシはありったけの落ち葉で覆い隠した。
それから、二度とその場所に行ったことがない。




