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王花  作者: 小野島ごろう
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マムシ3

 ある年の初冬、タケルは調子がすぐれないと言い始めた。

 日ごとに動きが鈍くなり、肌が乾燥し、しわが深くなり、身体がどんどん小さくなっていった。


 二ヶ月もたつと、タケルはマムシよりも小さくなって、洞窟の中に横たわったまま、何も栄養を摂らなくなった。




 マムシは時々様子を見に来ていたが、それもだんだん間遠になっていた。


 タケルが弱ってゆく姿は、悲しいというよりも、ただ恐ろしかった。

 タケルにとりついた死の影が、その手を、マムシにも伸ばして来るような気がした。


 だが、母親だ。

 それに、マムシしか看取るものがいないのだ。

 行かねばという義務感と、行きたくないという本音の間で、マムシは煩悶(はんもん)した。



 きんと冷え込んだ朝、マムシは意を決した。


 霜を踏んで、重い足を洞窟に運んだ。


 タケルは洞窟の中にいなかった。

 驚いたマムシが辺りを探し回ると、落ち葉が厚く積もった吹き溜まりに、タケルは身を縮めて、ひっそりと横たわっていた。



 マムシは慌てて駆け寄り、抱き上げた。

 タケルは重いまぶたを、やっと開けた。


「ここは寒い。洞窟に、帰ろう」

 涙をこらえながら、マムシがささやくと、

「ここがいい。

わたしは、もうすぐ死ぬ。

死んだあとは、大地に帰りたい。

だから、ここで死なせてくれ」



 タケルは、やせ細った震える腕を、マムシに伸ばした。

 マムシは、その手を両手で包んだ。



「……おまえは、緑のやつらを見に行っただろう?」



 知ってたのか。

 あの夜のことを。

 どこから見ていたのだろう?



 どうしようもない羞恥(しゅうち)の感情が、マムシを襲った。


 こんなことをなぜ、今、(いま)わの(きわ)に言い出すのか。


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