マムシ2
「それで、世界の真実は?」
マムシは尋ねた。
タケルは、淡々と答えた。
「世界はあまりにも広く、深淵なのだ。
わたしの代ではまだまだ理解できない。
わたしにできたのは、書物の要点をまとめ、注釈をつけたことくらいだ。
おまえのため。
この場所と、書物と、この研究を引き継いでいくおまえが、いずれ世界の真実を暴けるように」
成長すると、マムシは独りで行動することが増えた。
時には、何日もタケルに会わないこともあった。
森の中を気の向くまま移動しているうちに、マムシは、森の端に行くことを好むようになった。
そこにそびえる大木の枝に上がると、緑の人間たちのコロニーが、よく見えることに気づいたのだ。
彼らは、美しかった。
緑に輝く身体いっぱいに日光を浴び、さまざまな色に光る長い髪をなびかせ、たおやかに手や身体をしならせる。
抱き合ったり、楽器を口に当てたり、大きな綿毛を飛ばしたり。
風向きによっては、彼らの歌声や、楽しそうなさざめきが、心地よくマムシの耳を撫でることもあった。
日光に当たるとやけどをしてしまう、日陰者のマムシたち親子とは、全く違う。
世界から祝福され、満たされ、幸せに浸る人々。
彼らは何を話しているのだろう。
なぜあんなに幸せそうなのだろう。
彼らの歌や話を間近で聞きたくて、いてもたってもいられなくなったマムシは、ある日、日が落ちてから、こっそりとコロニーを目指した。
夕闇に紛れて近づけば、目立たないだろうと高を括っていたが、すぐに気づかれてしまった。
近づいてくるマムシの姿に気づいた緑の人々は、叫び始めた。
叫び声は次々に伝染し、大きな怒号になって天地を揺るがした。
悪魔だ!
怪物だ!
ぼうぜんと立ち尽くすマムシの上に、何かがひゅっと音を立てて飛んできた。
石だ。
緑の人々がわめきながら、あっちでも、こっちでも、石を拾っては投げつけてきていた。
マムシはすぐに逃げ出した。
石はすぐに届かなくなった。
マムシは背を丸めて、とぼとぼと森に帰った。




