マムシ1
たぶん、それは、こういう風に始まったのだろう。
薄暗い森の奥深く。
きれいに掃除した平らな岩の上で、青い色も鮮やかな柔らかい生き物が、うめき、もがいていた。
肥大してぶよぶよした身体がのたうつ。
波打つ身体に、少しずつくびれができる。
くびれは深くなり、大きい部分と小さい部分をつなぐ、細いひものようになった。
大きい方が、くびれに手を伸ばし、小さい方をちぎり取った。
その瞬間、小さい方に自我が宿った。
だからその瞬間から、周りの出来事は、小さい方、それ自身の身に起こった事に変わった。
大きい方が、息を整えながら、小さい方に呼びかけた。
「マムシ。
おまえの名は、マムシだ」
母親の脇腹の、ぎざぎざの深い傷口から、じくじくと透明な体液がしみだしていた。
母親の名は、タケル、といった。
タケルは、毎日マムシを連れて、森の中を移動した。
マムシの運動能力は、最初からタケルと同じだったので、後をついていくのは難しくなかった。
地面をずるずると這い進む時には、親子は落ち葉やキノコ、生き物の死骸などを身体に取り込み、栄養を吸い取って排出した。
周りの様子を知りたいときは、枝伝いに移動することもできた。
やがてタケルは、マムシをある洞窟に連れて行くようになった。
洞窟の中は、かび臭い書物でいっぱいだった。
「これは、わたしの母親の母親の母親の、そのまた母親のころから集めて、受け継いできた貴重な書物だ。
この中には、この世界の真実が記録されている。
これを読むと、世界がなぜこうなったのか、自分は何者なのかが、理解できるはずだ」




