少女6
「嘘じゃないさ」
師匠の声には、憐れみがこもっている。
「本当に、何にも知らないんだな。
しかしここまでくると、怠慢としか言いようがない」
「くそっ……」
ヒカリは、師匠たちに背を向けて、その場に寝転がった。
「この子には、名前がない。
わたしは、カオス、と呼んでるがね。
カオスは、間違いなく、マツヨイ族のトキと、カタバミ族のランの子どもだ。
ヒカリ、おまえは、ランから生まれ、カタバミ族で育った。
カオスは、トキから生まれ、ここで、独りきりで育った。
だれとも話せなかったから、言葉を知らない。
巨人以外の、他の人間の姿も、習慣も知らない」
師匠の声は淡々としている。
ヒカリはかたくなに背を向けていたが、師匠の声はいやでも耳に入ってきた。
姉妹だったなんて。
姉妹同士で交接することは避けた方がいいらしいが、禁止されているわけではない。
特に、お互い離れた場所で育ったなら、あまりうるさくは言われなかった。
それよりも、姉妹だったことで、少女に対するヒカリの気持ちが、かなり盛り返してきた。
「カオスは、生まれた時から、このように白かった。
トキは、異常な苦痛の中で、産後すぐに亡くなった。
ランと同じように。
マツヨイ族たちは、恐れおののいた。
古くからの言い伝えにある子どもが、本当に生まれてくるなんて。
しかも、自分たちの一族から。
一族の年寄りたちで何日も話し合って、結局、塔に渡すことに決まった。
カオスは他の子どもたちのような綿毛をもたなかったので、シカがここに運んできた。
塔は、カオスを迎え入れると、自ら閉じた。
巨人たちが塔を囲んだ。
巨人たちが持ち場を離れないように、その周りをアザミ族とクサギ族が囲んだ」
師匠の声が止んだ。
しばらく耳を澄ませていたヒカリは、なかなか続きが始まらないのに業を煮やした。
疑問が、次々に浮かんできて、胸がはち切れそうだ。
がまんできなくなったヒカリは、とうとう起き上がって、師匠と少女の方に向き直った。
師匠の膝の上でうつらうつらしている少女の髪の毛を、師匠の手が優しく撫でていた。
そこにひどく親密な関係を嗅ぎ取ったヒカリは、いらいらした口調で、
「なんで?
こいつを、なんでそんなに守らないといけないの?」




