鬼っ子3
「こんなことじゃ、みんな枯れてしまう。
で、一族で話し合ったんじゃが」
ヒカリは、悪い予感がした。
「これは、お前にしかできない……こら、待ちなさい!」
ヒカリは、逃げ出した。
「ヒカリ、待ちなさい!
話くらい、聞きなさい!
きっと、後悔するぞう!」
コマの怒鳴る声が遠くなる。
ヒカリは、川の上流を目指して走った。
ススキ族、ヨモギ族、オオバコ族。
びっくりして見開かれた、たくさんの目の前を、構わずに突っ切って走り抜ける。
道なき道は、上り斜面になる。
山に入ったのだ。
ヒカリは、走るのを止めて、歩き始める。
ここら辺には、だれもいない。コロニーもない。
うっそうと木が生い茂っているせいで、光が足りないからだ。
ヒカリも、ここでは長い時間過ごすことはできない。
平地よりはいくぶん涼しい。
ヒカリは、息を切らせながらゆっくりと登る。
「師匠!」
ヒカリは、声を張り上げた。
「師匠! おれ! ヒカリが来ましたよ!」
木々の奥から、ずるずるっと何かが這い出してきた。
「あ、師匠! 師匠の言ったとおりだった!
チョウばあさんが、言ったんです!」
「そうかいそうかい。やっぱりだったろう?」
ヒカリの師匠は、緑のマントのフードを脱いで、オレンジ色のぶよぶよとした顔の中の、青い目をきらめかせた。
師匠と出会ったのは、もう何年も前になる。
山には魔女がいるから、決して近づかないように。
ばあさんたちから口酸っぱく言われれば言われるほど、ヒカリはどうしても魔女を見つけに行きたくなった。
何回も山に行って、あちこち探し回っているうちに、ある日突然、魔女の方から、姿を現したのだった。
いつのまにか目の前にいた人物を見て、ヒカリはとっさに逃げ出すところだった。
緑色のフード付きマントの下から、ちらちらとオレンジ色の、ぶよぶよした肌がのぞいている。
「お前が、『鬼っ子』かい?」
魔女は、意外にも、透き通ったきれいな声をしていた。
ヒカリは、かっとした。
「おれは鬼っ子じゃない。ヒカリだ。お前こそ、魔女だろ?」
魔女は、怒りもせずに、ヒカリをしげしげと眺めている。
だからヒカリも、遠慮なく魔女の観察を始めた。
ヒカリにとって、魔女の姿は、非常に珍しかった。
ヒカリは、無礼なくらい、興味津々に見つめた。
ヒカリが知っている人々は、大きさの違い、髪の毛や目の色の違いはあっても、みんな、緑色の肌をして、土の中から生えていた。
鬼っ子と言われる、土から生えていないヒカリでも、肌の色や姿はみんなと同じだ。
でも、こんなオレンジ色なんて!
しかも、今にも溶けだしそうに柔らかくたるんでいる。
それに、魔女の動き方は、ヒカリと同じように、二本の足で、歩いたり走ったりするのではなさそうだった。
頼りなげに立っている、その足元は、服の裾に隠れて見えないけれど、歩いているようではない。
魔女の通った後は、落ち葉や小枝がきれいに払われている。
ああ、この人は、「魔女」なんだ。




