少女4
さっきまで、自分はあの口をうまそうに貪っていたのだろうか?
ヒカリは、顔をそむけて、口元を素早くぬぐった。
さすがに、恋人の目の前で、熱烈な接吻を交わした口をごしごしとこするのは、ためらわれた。
もう、無理だ。
さっきまでの情熱が、急激に冷めていくのを感じる。
ここを、出よう。
ちょっと変わった夢を見ただけ。
それだけのこと。
そっと立ち上がりかけると、少女が食物を手に握ったまま、駆け寄って来た。
しまった。
少女は、ヒカリの目を見つめながら、ヒカリの胸に、食物をぐいぐいと押しつけてくる。
ヒカリは、吐き気を覚え、少女をできるだけ優しく押しやった。
「だめなんだ。……おれは、食べられないんだよ。ほら、おまえがお食べ」
少女は哀願するような声を出しながら、なおもヒカリに食べ物を差し出す。
「いらないったら! あっちにいけ!」
がまんできなくなったヒカリが、邪険に突き飛ばした。
少女は驚いた顔のまま後ろに倒れた。
「ごめん。……でも、いらない」
と、ヒカリは言いながら、言葉が通じないのか、と思い直して、
「い・ら・な・い」
そう言いながら、口元を隠すように、手を交差させた。
少女は、倒れた格好のまま、うなだれた。
その姿を見ても、ヒカリは何も感じないのだった。
ああ、こんな簡単な会話さえできないんだ。
ヒカリは、面倒くさくなってきた。
「おれは、行かなきゃならない。
元気でね。……さようなら」
どうせ通じないだろうけれど。
そう思いつつ、ヒカリはほっとしていた。
異なる習慣や言葉をもつ人間は、感性もまた異なる。
ヒカリが暮してきたところでは悪とされるふるまいも、この子にとっては、そうでもないだろう。
初めて出会った人間に飛びついてきて、すぐに交接をねだるなんてことをするくらいだから。




