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王花  作者: 小野島ごろう
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 まてよ。

 おれはなぜ、話を聞かなかったのかな。



 そうだ。


 あらたまった調子で、これはお前にしかできないことだ、などと話を切り出されたら、警戒しろ。

 聞いたら最後だから、聞いちゃいけないって。


 そう、言われたから。


 師匠から。



 師匠は、それは、おれを死神に渡す相談だと言っていた。


 だから、おれは、てっきり……



 ヒカリは顔を上げて、師匠の方を見た。




 師匠は、素早く岩壁に駆け上がった。

 だん、と力強く岩壁を蹴飛ばして、天井にとりつき、また反対側の岩壁に飛び移る。

 何回も、何回も、少しずつ位置を変えながら。



 ふだんの姿からは想像しにくい俊敏な動きに、ヒカリは思わず見とれた。


 見つめていると、師匠は、四角い光の枠を中心にして動き回っているのがわかった。

 光の枠の内側に、だんだん、クモの巣のようなものが張られていくのが、ぼんやりと判別できる。



 師匠は、あんなことをして、どうするつもりなのだろう?



 そのうち師匠は跳躍を止めて、軽く弾んだ息を整えた。


 自分が張ったクモの巣から垂れ下がった縄の端を手に取ると、マントの中から取り出した小さい(つぼ)の中にそっと落とし込んだ。



 師匠がその場を跳び退(すさ)った瞬間。


 縄の端から火が走り始めた。


 火はぼぼぼと音を立てながら、見る間に岩天井に迫る。



 師匠が、マントをひるがえしながらヒカリに駆け寄ると、飛びつくように覆いかぶさってきた。


 ヒカリは、師匠にきつく抱き込まれて、目を白黒させた。


「ひ、ひひょう……」

「動くな!」



 があん、と、師匠の身体越しに、大音響が(とどろ)いた。

 がたがた揺れる二人の身体。

 がらがらっと大きく崩れる音に、ヒカリは身をすくませた。


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