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王花  作者: 小野島ごろう
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「ああ、もうそこだ」

 師匠が、弾んだ声を上げた。


 師匠のそんな声音(こわね)を聞いたのは、初めてだ。



 師匠の指さす先の岩天井(てんじょう)から、四角い線形に、光がもれていた。

 地下道は行き止まりのようだ。

 そこはいくらか広い空間になっていた。



 あそこから、外に出られるんだ。


 ヒカリは見回したが、その四角い光の枠の下には、階段もはしごも、なにも無い。

 足場を作れそうな岩も転がっていなかった。


 どうやって、あそこから出るんだろう?

 ヒカリは、師匠を振り返った。



 師匠は、周りを見回したり光を見上げたりしてしばらく考えている。


 そのうち、

「あっちでしばらく待機していなさい」

 ヒカリに指示した。



 ヒカリは、おとなしく来た道を戻って、壁によりかかった。

 ひんやりと、濡れたようになめらかだ。

 師匠の口を思い出したヒカリは、急いで壁を離れ、膝を抱えてうずくまった。


 さっきの続きを考えることにする。




 雑食の巨人たちが、クサギ族のコロニーを通り抜けて、その外に出たなら。


 ヒカリは、自分が通って来た道を思い返す。


 ヒカリが何十日もかかって踏破した道のりも、巨人たちには、数日の距離だろう。

 彼らだって、腹が減る。

 沢山動けば、日光だけでは足りないかもしれない。

 その時、何を食べる?



 丘や、荒野や山。川。

 その間に点在する、いろんな一族のコロニー。



 巨人たちが、草でもむしるように、大地から人々をむしりとり、口に運ぶ様子を想像して、ヒカリは血の気が引いた。


 巨人たちは、カタバミ族まで、来るだろうか?

 来ないとは言えない。

 来たら、もうおしまいだ。


 足をなんとか引き抜いたところで、そう遠くまで移動できやしない。

 年寄りなんて、あっという間に行き倒れ、しなびて、死んでしまうだろう。



 ああ。

 ばあさんたち。



 あんな、けんか別れみたいにして、飛び出して来てしまった。



 あれが、最後だったのかな。

 もう二度と、会えないのかな。


 

 ヒカリの胸がきゅうっと痛んだ。



 でも、おれを死神に渡そうとしていたんだから。



 いや、まてよ。

 ばあさんたちの口から、直接、そう聞いたわけじゃなかった。



「ヒカリ、話を聞きなさい!」

 チョウばあさんの叫び声がよみがえる。



 今までは、おれを死神のところにやろうという話とばかり思っていたけれど。

 本当に、そうだったのかな?


 話を聞くだけは聞いても良かったんじゃないかな?

 いやなことを強制されたのなら、それから逃げてもよかったのだから。



 話って、本当は、何だったのかな。




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