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王花  作者: 小野島ごろう
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支援者5

 ヒカリは、驚いて目を見開いた。

 とっさに身じろぎして逃れようとしたが、力が出ない。



 オレンジ色のたるんだ皮膚に埋もれた、青い小さな目が、すぐ目の前で、ヒカリの目を冷静に観察していた。




 師匠は自分の容姿を(あら)わにしたくないようだったので、今までヒカリはできるだけ師匠の顔を見ないようにしていた。

 しかし、つい油断して見てしまう時もある。

 その度に強烈な印象を受けて、ヒカリは罪悪感を覚えるのだった。



 今、ヒカリは初めて間近に師匠の目に見入って、その冷たい青さにぞっとした。

 何を考えているのか、どういう感情をもっているのか、まるで読み取れない。



 口は、話したり、歌ったり、詩を()したり、口笛を吹いたりするためのものだ。

 こんなに、くっつけ合うのは、伴侶同士だけだ。


 だが、師匠の目には、そんな甘ったるさはカケラもなかった。




 唇がなくて、ただぽっかりとした穴が、どろりと溶けたようなオレンジ色の肌の中に見え隠れする。

 その口が今は、ひんやりとすき間なく、ねばつくようにすっぽりとヒカリの口をふさいでいた。


 師匠の手は、万力のようにヒカリのあごをつかまえていた。 



 突然、口の中が柔らかいものでこじ開けられたと思ったら、激痛が走った。

 舌が熱くて、痺れて、痛くて、死にそうだ。


 太い(とげ)が何本も、ヒカリの舌を無慈悲に貫いていた。


 ヒカリは手足をばたつかせ、喉でうめいた。

 目からは涙が噴き出した。




 もう耐えられないと何度も何度も脳内で叫んだ挙句、やっとヒカリは解放された。


「いろい……」

 ひどい、と言いたいのに、舌が全く回らない。


「空腹は収まったろう?

口の中の傷は、すぐに治る」


 師匠は淡々と言うと、ヒカリの腕をとって、助け起こした。

「さあ、先に行こう」




 歩き始めてみると、確かに空腹は収まっていた。

 師匠は、栄養をわけてくれたのだ。

 ヒカリが今まで知らなかったやり方で。


 つまり、親切だったのだ。


 少し疑いかけたことを、ヒカリは恥じた。

 師匠のように高潔な人はいないのに。



 それにしても、あんな痛い思いは、二度とごめんだ。

 ちょっと口を開けるだけでも、唾をのみ込むだけでも、ひきつるような痛みが襲う。


 師匠の舌には、棘が生えているのだろうか?

 それとも、思いのままに棘を生やすことができるのだろうか?



 さっさと歩いて、地上に出よう、とヒカリは誓った。

 日光を浴びさえすれば、師匠に頼らなくても済む。

 

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