一人旅6
「クサギ族」
「クサギ族?」
「そう。クサギ族」
思わず聞き返したヒカリを、不審そうに見ながらも、若者は律儀に繰り返した。
草と木の一族かと思っていたが、まさかの、臭い木だったとは。
「師匠……」
ヒカリは、脱力した。
もっと丁寧に説明してほしかった。
全く心構えもしてなかったのに、この衝撃はひどすぎる。
それとも、きちんと聞き返さなかったヒカリが悪かったのか?
しかし、クサギ族は、一つ目の目標ではある。
なんとか着実に目的地に近づいているらしい。
「この先に、アザミ族がいる?」
「そんなこと、おれには答えられない。
長に聞いてくれ」
若者は、体をひねって、奥を指し示した。
その指先に、ぶうん、といやな羽音を立てて、カメムシが止まった。
「あっ」
ヒカリは、思わず声を上げた。
そうか。
やっぱり、ここにはカメムシが多いんだ。
だから、このひどい臭い!
若者は、カメムシをあっさりつまむと、口の中に放り込んで、じゃりじゃりとかみ砕いた。
新鮮な、強烈な臭いが、今までの臭いをさらに強めた。
バカになりつつあったヒカリの鼻だが、鼻というよりはもう、頭痛がしてきた。
一連の動作を呆然と見つめていたヒカリは、我に返った。
「な……なにをしたんだ……?」
「なにって、なにが?」
若者は、楽し気に歯ごたえを惜しんでいる。
「カメムシを、食べた……?」
「それが、なにか?」
「ありえないだろう?」
「ありえないって?」
どうも、話が通じない。
ヒカリは、ちょっと考えて、
「うまいのか?」
「う~ん、うまいかって聞かれたら、ビミョウだけど、これは、われわれの神聖な仕事だから」
神聖、という言葉が、これほど似合わない臭いがあるだろうか?
「神聖って、なぜ?」
「まあ、そこらへんも、長に聞いてくれ」
若者は、面倒くさそうに、奥をまた指さした。
この、たくさんのクサギ族が立っている奥へと進むのか?
どれほどの臭気が待っているのだろう?
ヒカリは、思わずへっぴり腰になった。




