一人旅3
「そうだ、やめようっと」
ヒカリは声に出してみた。
「おれがどうしようが、どうせ、だれにもわかりっこないし。
だれも知らないところに行くんだから」
だれも聞いていない声は、この荒野の中では、いかにも弱弱しく、無力だ。
かえって胸が痛んできたが、ヒカリは無視した。
もう少し、声を張り上げる。
負けるもんか。
「おればっかり、不公平だ。
こんな体に生んでくれって、頼んだわけでもないのに」
そうだ、その通りだ。
「あ~あ、や~めた、ばからしい。
死ぬときは、みんな一緒さ。
それが幸せってもんだ。
さあ、どこに行こうっかなあ?」
ヒカリは立ち上がって、思い切り伸びをした。
周りを目を走らせた時、目の端に異様なものが映った。
ヒカリはあわててそっちを見直した。
まだまだじりじりと照りつける日差しに、一面、枯草色のカヤの荒野。
その中に、真っ黒な塊りがある。
さっきは、たしか、あんなものはなかった。
ヒカリが伸び上がるようにして見つめると、それは、ゆっくりと動き始めた。
だんだん大きくなる。
ということは、こっちに向かってきている?
ヒカリは、急いで草履を履いた。
水筒も全部腰にくくりつけた。
そうして、背をかがめ、カヤに身を隠してじりじりと後ずさりする。
「逃げずともいいんだよ」
黒い塊りが、おっとりした優し気な声で呼びかけてきた。
ヒカリは、黙って警戒を続ける。
「お前のことは、よく知っているよ、ヒカリ。
大変だったねえ。
かわいそうに。
こんな子どもが、たった独りで旅するなんて、ひどい話だよ。
無理しなくていいんだよ。
うちに来て、ちょっと休んでいかないかい?
すぐ近くだから。
お前が知りたいことを、わたしなら教えてやれると思うよ」
そう言いながら、頭の黒い布を脱いだ。




