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王花  作者: 小野島ごろう
13/49

一人旅3

「そうだ、やめようっと」

 ヒカリは声に出してみた。


「おれがどうしようが、どうせ、だれにもわかりっこないし。

だれも知らないところに行くんだから」


 だれも聞いていない声は、この荒野の中では、いかにも弱弱しく、無力だ。

 かえって胸が痛んできたが、ヒカリは無視した。


 もう少し、声を張り上げる。


 負けるもんか。


「おればっかり、不公平だ。

こんな体に生んでくれって、頼んだわけでもないのに」


 そうだ、その通りだ。


「あ~あ、や~めた、ばからしい。

死ぬときは、みんな一緒さ。

それが幸せってもんだ。


さあ、どこに行こうっかなあ?」




 ヒカリは立ち上がって、思い切り伸びをした。

 周りを目を走らせた時、目の端に異様なものが映った。


 ヒカリはあわててそっちを見直した。




 まだまだじりじりと照りつける日差しに、一面、枯草色のカヤの荒野。

 その中に、真っ黒な(かたま)りがある。


 さっきは、たしか、あんなものはなかった。



 ヒカリが伸び上がるようにして見つめると、それは、ゆっくりと動き始めた。


 だんだん大きくなる。

 ということは、こっちに向かってきている?




 ヒカリは、急いで草履を履いた。

 水筒も全部腰にくくりつけた。

 そうして、背をかがめ、カヤに身を隠してじりじりと後ずさりする。




「逃げずともいいんだよ」

 黒い塊りが、おっとりした優し気な声で呼びかけてきた。


 ヒカリは、黙って警戒を続ける。




「お前のことは、よく知っているよ、ヒカリ。

大変だったねえ。

かわいそうに。

こんな子どもが、たった独りで旅するなんて、ひどい話だよ。


無理しなくていいんだよ。

うちに来て、ちょっと休んでいかないかい?

すぐ近くだから。


お前が知りたいことを、わたしなら教えてやれると思うよ」



 そう言いながら、頭の黒い布を脱いだ。


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