酒泉
「はぁ~いい匂いだねぇ。私の娘は親孝行だよ。何たって旦那の金払いがいい」
お母さんの台詞に苦笑して、乳白色の温泉に浸かる。日本酒っぽい匂いがして、いい匂いだ。他にも嗅いだことないような酸っぱいお酒や、ドロドロのお酒の温泉など何種類かある。どれもお酒を加えたわけではなく、地中から湧き出ているらしい。
「母上!アイラちゃんのお部屋に誘われました!俺たちがいないと寂しくて泣いてしまうそうです!祖母上を助けなければなりません!!」
「おねしゃん、いっしょ、ねる」
お母さんに誘われたのがよっぽど嬉しいのか二人が報告してくるのが可愛い。
「ふふふ、行っといで。二人ともいい子でね?」
「美形の孫まで両手に抱いて寝れる。こんな幸せないよ」
向こうの方でクレアちゃんとレアットちゃんが青い色がついた温泉でキャアキャアと楽しそうなのが見える。
すぐ横の温泉バーではバスローブを着たルルリエさんがカウンターで利き酒をしている。
みんな楽しそうで嬉しい。
「私が今幸せなのは全部お母さんのおかげ。私を助けてくれた事も、一緒にエルダゾルクに来てくれたことも、レスターの出産も」
お母さんはケラケラと笑う。
本当の子供である息子さんがいるにもかかわらず、私のそばにいてくれる。
「それに、家出先があるんだって思えるのが実はすごく有難い」
「大物兄ちゃんには聞かせられないねぇ」
お母さんはそう言ってまた笑う。
クレアちゃん達が向こうで手を振っているのが見える。
楽しくて、幸せ。
◇◆◇
婆さんに手を繋がれて部屋に戻った紬は顔が赤く、どこかふわふわしている。
「風呂に入っただけなのに、こんなになっちまった。じゃあとはよろしく頼んだよ!わたしゃイケメンが二人も待ってるからね!」
上機嫌な婆さんが部屋に紬を押し込んで颯爽と去って行った。
「は?おまえ酔ってんの?風呂の湯飲んだ?」
「のんでない~ふわふわする」
「蒸気だけで!?人間弱すぎだろ!」
人間という生き物がいかに弱い生き物か紬といると実感する。虚弱であって、力もない。アルコールの蒸気だけで酔う。
「リヒトさま?キスして?」
「~~~!?いい、けど……」
触れるだけのキスをすると番の甘い匂いが鼻をくすぐる。
「お前その顔誰か他の奴に見せたか?」
「やめないで。もっとキスして」
「は?」
「今日ね~お母さんにまた三人お揃いのワンピースもらったの~」
「っお?おう、よかったな?」
中に着てるの~!と言って肩にかけたバスタオルや羽織りをバサバサと下に落としていく。
「つ、紬さん?」
躊躇なく帯をほどき浴衣がストンと下に落ちると、真っ白なドレスを着た紬がいる。
「可愛いでしょ~スタンドカラーがリボンになっててね、首の後ろで結んで留めるの~でね~~じゃ~~~ん!」
くるりと後ろを向いた紬が、自分の肩越しにこちらの様子を伺っている。
「は?」
「可愛い?背中がぱっくりあいてるんだよ~~~!」
トコトコと近づいてくるフワフワした外国の服を着た紬は、俺の首に手を回して言う。
「でも暑いから脱がせて?」
「色々やばい色々やばい色々やばい!!」
「リヒト様、らいすき」
「え?これ据え膳?この状態で俺行っていいの!?」
スリスリと首元に頬を擦られる。
自分でリボンをほどき、脱ぎ始めた紬は上機嫌だ。
「リヒト様ぁ、肩にキスして?お花のとこ。あれ、好き」
「っあ!?わ、わかった任せろ」
象徴華にキスを落とすと、どんどん力が抜けていく。くたっとした紬は恐ろしく官能的で、匂い立つ番の匂いに抗えない。
「番の匂い、薄れちゃうの、こわいの」
「薄れてない今めっちゃするヤバいするお前もう怖い!!」
徐々に薄れてきたと感じていた番の匂いが何故か信じられない濃さで部屋中に充満している。
「っは!? お前フェロモン出してんのか!!!」
「ふぇろ?ぎゅーして?」
「こんなん抗える男いんの!? 対俺の最終兵器かよ!!!」
◇◆◇
「あれ?何で私、裸?」
「紬、お前朝は風呂に入るな」
リヒト様なんで目が座ってるんだろう。
「えぇ?なんで?朝風呂入りたい!」
「とにかく風呂は禁止だ。部屋のシャワーは普通の水だから許す。とりあえず換気だ!!もう無理お前まじ怖い!」
朝から何意味わからんこと言ってるんだろう。
「私昨日すぐねちゃったの?疲れてたのかなぁ。覚えてないや」
「だろうと思ったよ!!!いいけど!!やることやったし!!!」
えぇ?何で怒ってんの?
◇◆◇
「殿下、リオット侯爵家が私財を投げ売りここを買い取る」
鼻に詰め物をした口調の変わったルース君が言う。何で鼻血?
「黙れ王家が買い取る。邪魔したら反逆罪にしてやる。いや、公共事業案出してパイプ通すか。エルダゾルクまで湯を引く」
「最高です。忠誠を誓います」
「馬鹿ですか。我らは全員既に誓っておりますし、その様な案が通るはずもございません」
お、おう……ユアンさん、馬鹿って言った……
「クレアちゃん、昨日の夜ルース君と利き酒しに行ったんでしょう?どうだった?」
「う、うん。なんか、途中から記憶なくて、気づいたら朝だったの……」
「私も!温泉入ったとこまでは覚えてるんだけどなぁ……」
レスター 「祖母上!」
アイラ 「祖母上も悪かないけどね。あんたらはアイラちゃんとお呼び」
レスター 「はい!アイラちゃん!」
クロム 「アイち……アイ……アイ」
アイラ 「…………お姉さんも許可する」




