ルルの光
誰が来ても頓着しない私を見て、リヒト様は元の生活に戻してくれた。ルルリエさんも診察によくくるし、ミリーナさんもそばにいる。母屋と離れの行き来もできる。
卵を落とすのが怖いので、基本的には離れで生活をしている。
いつもと変わらない、私の好きな場所。
クロム君がいて、テトとルル達が行き交う。
「クロム君はルルをお願いね?」
「ん」
私のお願いで、芝ではなくてクローバーが植えられたテト達の広い庭は、小川まで作ってあるので庭に出るだけでピクニックができる。
大きな木の木陰に入ってテトに丁寧にブラシをかける。ルルはわりと人懐っこい子だったようで、クロム君とも仲良しだ。謎に背中に乗ってブラシをかけてる。
「あれ?ヴァルファデとアルトバイス?」
ルース君とクロードさんの馬が遊びに来て、小川の水を飲んでる。
「こんな近くまできてくれるの珍しいね。どうしたんだろ」
テトがブルンと低く泣くと、ヴァルファデとアルトバイスがこちらにゆっくりやって来た。
そのままクロム君の乗ったルルの前まで来ると、二頭とも深く頭を下げて止まった。まるでお辞儀をしているみたいに。
テトがまた低く鳴くと、二頭はまた厩の方へ帰って行った。
「クロム君、今の何?」
クロム君もルルの上でキョトンとしてる。
「え?クリストフ!?」
ユアンさんの馬のクリストフまでお庭に入って来たのでクロム君と目を見合わせる。
ヴァルファデとアルトバイスは私達の近くには来ないものの庭にはたまに遊びに来る。
けれどユアンさんの馬のクリストフは一度もこの庭に来たことは無いのに。
「どう、したのかな?なんだろ?お腹すいたとか?」
また真っ直ぐにこちらに来て、ルルの前で止まり同じように頭を下げて帰って行った。シルバーの毛並みが艶めいて、忠誠を誓う騎士みたいに見えた。
「なんだろう?ルルに何かあるのかな?」
クロム君が私の腕の中に降りて来て二人でルルを見つめると、ルルのお腹あたりがぼんやり光り始めた。光は二回瞬いた後ゆっくり消えていった。
「クロム君……リヒト様の所に連れて行って」
クロム君が飛びながら私の手を引き、お庭伝いに王宮へと行く。
リヒト様の執務室なんて行ったことがないので、知らない廊下や部屋ばかりだ。
大きな豪華な造りの扉の前でクロム君が止まると、中から慌てたリヒト様がドアを開けてくれた。
匂いで分かったのかもしれない。
「紬!?どうした!?」
「妊娠したかも」
「はぁ!!!??おま、誰の子だよ!!!————ちょっと待ってろ殺してくるから」
一気に目の座ったリヒト様に絶句する。
「てめぇ、俺に散々我慢させといてどういうことだ。とにかくその男を殺してくるから早く言え」
「~~~!!リヒト様の馬鹿っっ!!!!」
執務室の中のユアンさん達がびっくりしてこっちを見てる。超超恥ずかしい!!なんて事言うの!!
「妊娠したのは!ルル!!!!!」
「「「「 は? 」」」」
今度は後ろの幹部達が声を揃えた。
「びっくりさせんな!!!………………は?」
やや遅れてリヒト様が反応する。
「とにかく、獣医さんを呼んでほしいの!!」
リツさんが手配に走ってくれて、私達は離れに移動しながらさっきあったことを話す。
「天馬の繁殖に成功したってこと~~?ありえなくない~?マジなら世界初だよ~」
完全に口調が元に戻ってるルース君が言う。
「そうなの?」
「えぇ……過去に何回も各国で連携をとって雄雌のペアを作って試しましたが、成功したことはありません……」 ユアンさんは半信半疑な感じだ。
「おいリヒト、マジなら大ニュースになっちまうぞ」
クロードさんがリヒト様に言う。
「リヒト様?多分だけど、双子だよ」
「「「「 は? 」」」」
「ねぇ?クロム君」
クロム君はキョトン顔だ。二回瞬いたからそうかと思ったけど違うかな?
「つーかつむぎ、お前ガキはどうした?」
「たまごちゃん?お留守番してるよ?」
「「「「…………………………」」」」
何なのか。母屋も離れも周りをガチガチに警備してあるから世界一安心っていったのに。
「おるすばん……………………なんかお前が言うとルルの妊娠もあり得る話に思えてきた…………」
「え?うそじゃないよ?」
片手で私を抱きながらため息をつくリヒト様は余った手で眉間を揉んでいる。
みんなコンパスが長いのであっという間にお庭が見えてきて、テトが迎えてくれた。
ルルを探すと木陰で木にもたれて立っている。
「え?さっきまで普通だったのに……」
ルルのお腹がさっきより大きくふっくらしている。
テトがかけていって、ルルを気遣っているのがわかる。
「そんなことある!?!?」
ルース君が大声をあげる。
「天馬の生態は謎の事の方が多いです。これは……つむぎ嬢のお名前を出さずにどうやって公表すれば……」
「リヒト、各国からいろんな催促がくるぞこれ」
何なのか。みんなお祝いしてあげてよ!
「テト!ルル!おめでとう!!すっごくたのしみだねぇ!!」
私が二頭の所に駆け寄ると、ダブルスリスリが送られて可愛い。
駆けつけた獣医さんによって診察がなされて、ルルの双子妊娠が確定した。これから出産のためにチームを作るとか何とか言って大汗をかきながら帰っていった。
「ね?双子だったでしょう?」
「お前の規格外もここまでくるとすげえな……」
仕事にならんとそのまま離れに残ってくれたリヒト様は縁側で私を抱き込んで呆れ顔だ。
「いつ産まれるのかなぁ。たまごちゃんと同じぐらいかなぁ」
「俺の子はあと四ヶ月ってとこか。ルルは未知すぎて分からんな」
たまごちゃんの卵は少しだけ大きくなった。
卵のまま成長するらしい。卵自体が母親と自分の魔力を合わせて作り出した魔力体なんだって。幼体にしか作れなくて、産まれてしまえばその記憶は消えてしまうから作り方はわからないらしい。
「男の子かな?女の子かな?」
「男だな。気配でわかる」
「え!!??そうなの!?知らなかった!!」
「このまま何事もなく産まれればお前は王家の後継を産んだ英雄だぞ。褒賞が出る」
「また褒賞~?褒賞好きだね?この国」
「んなわけあるか!お前が規格外なだけだ!」
「あ!じゃあ陛下のお財布でクロム君の冬服思いっきり注文しよ~~!スカーレットさんクロム君可愛くする天才なんだよね~!!」
「……………………おまえ……」
テトの上で遊んでいたクロム君がこっちをむいてにっこりしたのが見えた。
「そういえば、ルルリエさんがね、もう大丈夫だってこの前いってたよ?我慢してたの?」
「はぁ!?!?そういう事はもっと早く言えよ!!」




