温泉郷3
海苔の年間契約を見届けて大満足の私とドン引きしてるリヒト様がみんなの所へ行くと、女性陣は泉の縁に腰掛けて足だけ水中に入れて下を覗き込んでいる。
私も中を覗くと浅瀬はなくて、水の始まりから水深が見えないぐらい深く、白い壁の水中都市が広がっていた。
「ひっ!怖い!」
リヒト様の軍服にしがみつく。何故みんな平気なのか。
怖くてジリジリと後ろに下がってしまう。
リヒト様ごと引きずって、みんなの後ろから人魚がいないか周りを見渡すけれど、ホラーな人魚は中で泳いでいるらしく見当たらなかった。
クレアちゃん達が、いた!とか見えた!?とか言ってはしゃいでる。
今日のクレアちゃんとレアットちゃんは前に着たキャミソールワンピースを着ていてすごく可愛い。足湯みたいに泉に足を投げ出すのも簡単そう。
お母さんが私の分も持ってきてくれたけど、リヒト様の妨害にあって着れなかった。
クレアちゃんの背中を見てまたモヤモヤした気持ちになる。何故なのかわからないけれどすごくモヤモヤする。
「ねぇ、リヒト様?翼っていつもは見えないけど収納してるの?」
「魔力で構築するから物理的に収納してるわけじゃねぇけど、折りたたんで背中に収納してるイメージはあるな。魔力でそれを出す感じか」
「ふぅん」
「つむぎ?どうした?」
なんだろう。すごくモヤモヤする。
クレアちゃんの華奢な背中。傷の跡。片翼。欠損。
フラフラとクレアちゃんに近づいて、背中に手をおく。
「ねぇ、クレアちゃん。産まれた時、卵を落とされて怪我した?」
「え?あ、うん。したみたい。わたしに記憶は無いけど」
「あのねクレアちゃん、私の事、好き?」
「えぇぇ!?それは大好きだよぉおお!!!」
スムーズな魔力の循環。私もクレアちゃんが大好き。右手の熱をクレアちゃんに流して私に戻す。グルグルとそれを繰り返す。綺麗な白金のカケラ。
「な、何?つむぎちゃん……??」
「クレアちゃん、つばさ、出してみて?」
「いい……けど、笑わないでね?」
クレアちゃんは立ち上がり、チラッとだけルース君を見た。
見られるの、恥ずかしいのかもしれない。
私はクレアちゃんの両手を握って祈る。
「あ…………れ…………?」
クレアちゃんの栗色の髪と同じ色、綺麗な翼。
————両翼。
「え…………なん、で……?」
「落とされた時の怪我が、癒着してる感じだった。うまく、言えないけど……」
ヘナヘナとしゃがんだクレアちゃんが、顔を覆ってハァハァと息をする。涙が盛り上がっていって、ボロボロと可愛い頬を流れる。
「過呼吸をおこしてる!!クレアちゃん!?ゆっくり吐くのよ!?吐くことだけを意識して!!」
ルルリエさんの叫び声がぼんやり聞こえる。
耳の奥で潮騒の音がする。
「クレア!!!大丈夫だ!!!俺がいる!!」
ルース君がクレアちゃんを抱き込んで、クレアちゃんの息が少しだけ落ち着いたように見えた。
泣きすぎて、しゃくりあげてはいるけれど。
どんどんみんなの声が遠くなる。
「ははうえ!!!!!」
お母さんの膝からクロム君が矢のように飛んできて、ぐらりと倒れた私の着物を引っ張って泉に落ちる寸前で止めた。すかさずリヒト様が抱き上げて下さった。
感覚がどんどん無くなっていく。
「紬っっ!!!!」
◇◆◇
◇◆◇
◇◆◇
目が覚めた所は母屋の私達の部屋だった。
リヒト様が隣にいて、私の髪をすいてくれているけれど何も言わない。
「リヒ、ト様?………なんで……泣いてる、の?」
「………………」
リヒト様の目尻にほんの少し涙がある。この人が泣いてる所なんて初めて見た。
「何か、あった?私、せっかくの旅行ダメにしちゃった?」
「つむぎ…………お前の体に、俺の子が宿った」
「…………え?」
「魔力の高すぎる子を宿したから、そっちに力を取られてる状態で治癒の力を使って倒れたんだ」
「ほんと…………?」
「まだ宿ったばかりだとよ。おまえはどこまで俺に幸せをくれるんだろうな。底なしだな」
「赤ちゃん…………リヒト様ににていたら嬉しいな」
お腹を触ってみるけれど、いつもと変わらない。
わたしと、リヒト様の赤ちゃん。
「クレアちゃんは?」
「ルースと一緒に毎日見舞いに来てるよ。お前が起きなかったから毎回断ってた。もうあれから三日たつ」
「三日…………そんなに?」
よく見ると右手に点滴の針が刺さっている。
「クロム君が、いない……」
「クロムは…………泣いて手がつけられなかったから、婆さんに預かってもらってる」
リヒト様が水を飲ませてくれる。口移しで流れる水が心地よい。もっともっととねだる仕草をすると、微かに笑って沢山飲ませてくれた。
優しいキス付きで。
「リヒト様、お風呂に一緒にはいろ」
「は?」
「体、だるいけどお風呂に入りたいの、入れて?」
「え?なんのご褒美?俺明日死ぬ!?」
「早くしてエロ竜」




