母上
貴族達からの挨拶地獄はヘトヘトになったけれど、ユアンさんがサクサクさばいてくれてなんとかやり切った。ユアンさん、シゴデキ。
あとはもう立食パーティーになるので、私達の仕事は終了らしい。
みんなのいる所に戻ると小さなタキシードを着た最高にキュートなクロム君が私の所に来てくれた。(スカーレットさんマジいい仕事する)
臣下の前で抱きしめられないので、しゃがんで頭を撫でる。
「おじょ、きれい」
「これクロム、もう妃殿下とお呼びなさい。ダメですよ」
婚儀が終わったことで私の呼称が妃殿下に代わり、ミリーナさんがクロム君に注意をする。
「ひで?ひで、か」
かんわいぃぃい~言いづらそう!!
「いいよいいよ!お嬢でもママでもお母さんでも母上でも良いんだよ——!!!」
「あんた、最初の以外全部母親呼称じゃないか……」
お母さんが呆れて言う。
アイラさんだって、私にお母さんと呼ばせてくれるのに!
「なりません妃殿下!!!」
ミリーナさんが慌てて、お母さん以外のみんなは口がぽかんと開いている。ユアンさんまで固まってる。
「ははうえ……?」
「なあに?クロム君。ケーキ食べる?クッキーにする?」
「ははうえ」
「うんうん、なぁに?」
「はは、うえ」
「うん、クロム君、おいで?」
クロム君は無表情のまま私にしがみついて、額を擦り付けてきた。
少し震えてる。泣いてるのかもしれない。
「リヒト様、ちょっとクロム君とお散歩に行きたいの。王族庭園に連れていって?」
臣下の前とかもう関係ない。クロム君を抱き上げてリヒト様にお願いする。
「お…………おぅ」
会場を抜けてゆっくり歩く。貴族達がみんな見てる。
クロム君は顔を完全にくっつけているから表情は見えないけどおとなしい。
「まだ工事中だぞ?」
「ん、知ってる。いいの。三人で歩きたかっただけ」
王族専用庭に私がいい思い出が無いだろうと、リヒト様が全面改修してるのを知ってる。レイス様の時も、見知らぬ番グループのご令嬢の時も、同じ庭だったから。
クロム君の頭のてっぺんに時折りキスを落として、背中を撫でながら歩く。竜の子は体が本当に小さくて重さは全然感じない。ひきつけのようなしゃくりあげる小さな息遣いだけが伝わる。
リヒト様は私が歩きやすい道を選んでゆっくり歩いてくれる。
庭に着く頃にはクロム君の体温が高くなっていて、泣き疲れてうとうとしているようだった。
リヒト様が手で何か合図をすると庭師の人達が一斉に下がっていった。
お仕事の邪魔をして申し訳ないけれど、今日だけは許して欲しい。
まだ残っていたガゼボに座るとリヒト様が口を開いた。
「お前達は気持ちが繋がったとしか思ってないだろうが…………つむぎはクロムの後ろ盾になったということだぞ」
「うん。貴族の世界はよく分からないけど、ミリーナさんが慌ててたから何となくそうかなって思ったよ。でも私はこの子を守りたいし、同じことでしょ?」
「孤児が急に王弟妃を母と呼ぶんだ、王宮がざわつくな」
「離れには、どうせ聞こえないもの」
「ありがとな」
「お礼を言いたいのはこっちだよ。ここに来てから、私はずっとこの子に助けてもらったから……」
すぅすぅと可愛い寝息が聞こえる。
子ども特有の高い体温と、ミルクみたいな匂いが心地いい。
「家出しても、連れていっちゃうからね?」
「は!……もう一人斥候を雇わないとだな」
リヒト様はクロム君ごと私を膝に乗せて楽しそうに笑う。
どちらからともなくキスをする。
触れるだけの優しいキス。誓いのキス。
「母屋の部屋の奥に、クロムの部屋をつくるか」
「!!??!リヒト様!大好き!!!!」
「~~~~~~!?おっ前、今までやったプレゼントの中で一番喜びやがって!!」
「一番嬉しい!!!!あ、テトのお庭も嬉しかったよ?」
「はぁ、婚約指輪やった時は身構えて顔が曇ったのにこの差は何なんだよ…………」
「ふふふ、リヒト様のお嫁さんになれて、幸せだね。私は」
「よし。今日はこのまま母屋だな」
「却下です。みんながまってるよ」




