着物
私とリヒト様の婚礼の儀に向けて、離れには沢山の反物が積み上げられている。
花嫁の色に指定は無いそうなので、私の希望で白ばかり持って来てもらった。
「殿下からは全て妃殿下のご希望通りにと伺ってるわ?何でも言ってちょうだい!!」
見た目はお洒落なおじさんで、心は乙女のデザイナースカーレットさんが、私のサイズを測りながら言う。
彼女(彼?)が私の婚礼衣装を担当してくれるらしい。
エルダゾルクで一番高級なブティックのオーナーなんだって。
ウサギ獣人なのにムキムキの筋肉の持ち主だ。体も大きくていかつい。ウサ耳が無ければ絶対ウサギ獣人って分からない。
匂い問題はいいのかとリヒト様に聞いたら「あいつは例外」と言っていたので、心が女性ならオッケーなんだろう。
「婚儀はまだ半年先だからどんなわがままも聞いちゃうわよ!?」
「わがまま……白で、この国の伝統的な花嫁衣装であれば……」
「あらそれだけ!?まだ何かあるでしょうその顔は」
「ゔっ……リヒト様に、内緒にしてくれる?」
スカーレットさんのオネェ言葉が心地よくて、私もどんどん敬語が外れていく。
「内緒~♡!!大好物よ~~~~~~!?♡♡」
私の内緒のお願いとクロム君のよそ行き着の洋装を沢山注文して、また一週間後に来ると言って風の様に去っていった。
縁側でクロム君がテトにリンゴをあげている。
庭からルース君が歩いて来て、ヴァルファデのお世話かなと思ったら真っ直ぐ縁側まで来た。
「つむつむ~、婚儀の招待状クレアちゃんにも出すっしょ~?」
「?うん、出すよ??」
「俺が渡してもいい~~?」
「?いいよ??ちょっと待ってね?」
私個人の招待客なんて、アイラさんとクレアちゃんとレアットちゃんだけだ。ルルリエさんは控え室に待機だって。
三枚しかないからあっという間に準備は終わってる。
「はい、これ。お願いね?」
「任せて~~~!」
「何なの……」
一人呟くと、私の頭にポスっと顎が乗って頭上でリヒト様が喋る。
「着物を贈るんだろ」
「!?クレアちゃんに!?ルース君が!?」
何それ!何それ!!
「珍しくマジでアプローチかけてるけど本気にされてないみたいだな。本気だって分かっても、ルースは侯爵家だし尻込みするかもな」
「私なんて王家に嫁ぐのに……」
「まぁ、竜人同士だと色々あんだよ」
ふぅん、すぐにでも女子会を開かなきゃ!
恋バナを聞かなくちゃ!!
「婆さんちに行くつもりなら、ルースを護衛に付けてやれ。喜んで連れていくだろ」
「考えてる事、バレた?」
「家出はすんなよ」
紺色の瞳が優しく細くなる。
「しても、迎えに来てくれる?」
「俺はお前に甘いからな」
上を向かされて、覆いかぶさるみたいなキスが降ってくる。
「腹減った」
「ふふふ、ご飯にしようか」
◇◆◇
「気まぐれだよぉぉきっと!!ルース様は歳上の彼女がいるって噂だし、私じゃ家格も釣り合わないもん!」
一生懸命否定しているクレアちゃんは顔が真っ赤だ。
「最近やけに糸目小僧が来店するのはそういう訳かい。娘の婚儀の準備に忙しくしていて私としたことが気づかなかったよ」
「リヒト様は、ルース君が珍しく本気だって言ってたよ?」
「~~~~~~!?!?」
「クレア、気になってる?」
レアットちゃんが直球だ。おっとり直球で聞くから逃げられない。
「お、お花をね、一輪ずつ、毎日くださるの……」
「「 何それ素敵!!!」」
私とレアットちゃんが声を揃えて、アイラさん改めお母さんは優雅に紅茶を飲んでる。
クロム君は白い半袖シャツに水色の蝶ネクタイ、紺色の半ズボンを履くという最高に可愛い格好で、お土産に作ったドーナツを一生懸命食べている。スカーレットさん、いい仕事する。もっと買おう。
「私同じ敷地にすんでるけど、ルース君が女の人といたところは見た事ないよ?ねぇ?クロム君」
クロム君は意味がわかってないのか、コテンと首を傾げた。可愛いから許す。
「クロム君が一番付き合いが長いよね?ルース君ってどんな人?」
「ルース兄、強い」
うんそれは知ってる。人格かわる系で強いよね…………。
「家格なんて気にすることはないさね。私の娘なんて王家に嫁ぐんだよ?」
あ、それ私も思った。一般人代表が王家に嫁ぐもんね!
「家格もそうなんだけど、私はだめなんだよぉ!」
「クレア、あの事気にしてるの?」
涙目のクレアちゃんにレアットちゃんが問う。
「しっかりおし!そんな事であんたの価値は下がらない!」
「そんな事?」
クレアちゃんは何か悩みがあるのだろうか。
「あの、あのね、私、生まれつき翼が片方しかないの」
「?そうなの?それがどういう……?」
「妃殿下、竜人の貴族はいいも悪いも体裁を重んじるから……」
「侯爵家には受け入れられないかもしれないねぇ。糸目小僧がどこまでクレアを守れるかね……」
当の本人は店舗前で警備中だ。
お店の休業日にクレアちゃん達と会うと言ったらノリノリで送ってくれた。
「だっ、だから、好きになりたくないっていうか、元々雲の上の人だし、私には、もったいないから!」
「クレアちゃん私達もう帰るけど、下まで送ってくれる?」
「ひぇ!う、うん、それは、行きたい……」
ふふふ、可愛いなぁ。お母さんもレアットちゃんも席から動かずニマニマしてる。
二人に目で合図してからクレアちゃんの手を取って階下に降り、ルース君を見つけて言った。
「ルース君!ありがとう!もう帰ります!ちょっとお化粧直ししてくるから待ってね?」
「ふわっ!!??」
慌てたクレアちゃんを置いて、クロム君ともう一度お店に入る。
「ふふ、クロム君、ドーナツもう一個食べてから帰ろうか」
意味のわかってないクロム君が、コクンと頷いたので私はまた二階にあがった。
階段の窓からほんのちょっと見えた二人は、ルース君がクレアちゃんの頭をポンポンとなでていて、恋人どうしみたいだった。




