竜国国王陛下
宴はあの後三日三晩つづいて、今日の朝方やっと終わったらしい。
私のいるリヒト様の邸の離れまでは音が届かなかったので私とクロム君は普通に日常を過ごしている。
約束していた陛下への謁見が今日あるらしく、朝からミリーナさんは私を変身させるのに忙しい。
何枚も着物をさかねてグラデーションを作って、胸の下で結ぶ帯は銀色だ。桜柄の薄桃色のジャガード織の羽織をはおり、透けるストールを天女風に腕にかけて着物は完成。
髪は三つ編みを輪にしてこれまた天女風。垂らした髪の所々に梅の花を散らして完成の様だった。疲れた。
合間にルルリエさんの診察があって、連続で治療を施すなと釘を刺された。
「魔力は体力よ!?つむぎちゃんの体力はダンゴムシ級なのよ!!?無茶しようとしたらあんたが止めなさいモモンガ!」
モモンガと呼ばれたクロム君がコクンと頷いていた。モモンガで返事するんだ。竜の誇りどこいった。私もダンゴムシに納得してるけど。
この三日間で変わったことと言えば、またクロム君の怪我で私が取り乱さない様にと、手合わせは私の見えないところで行われる様になってしまった。それはそれで心配になるのに。
今日はルース君とクロードさんがクロム君を迎えにきた。
「クロム坊、手合わせにいくぞ~」
「あ、ちょっと待って下さい。今クロム君に補食をあげてて。よかったらお二人も食べます?」
いつもお腹を空かせているクロム君に、食事回数を増やしている。一日五回 朝と朝補食、昼と、オヤツ、夕ご飯。 調子がいい様で、ずっとお腹が空いてる状態は脱した様だ。
私がリヒト様と母屋にいるときは宮廷の食堂で食べているそうなので、それだけだと足りないクロム君のためにいろんなものを作り置きもしてる。
「今日はクロム君の大好物の肉まんなんです。ちょっと変わった味かもしれませんけどどうぞ」
「やっとツムツムのご飯にありつける~!」
「今まで散々リヒトに自慢されてたからなぁ」
クロム君は縁側に出した小さなテーブル前でお食事エプロンをして、ちょこんと座ってる。
両手に肉まんを持って口の中に詰め込んで、モモンガとリスのハイブリッドみたいで可愛い。
「くあ~~~~いい匂い!!!」
「うおっ、これすごく美味いぞルース!!」
「ふあ~~やっば~!うっっっまっっ!クロム、毎日こんなん食ってんのかよ!!!」
モグモグたべながらこくんとクロム君が頷く。多分今食べてるの四個目。あの小さな体のどこにそんなに入るのか分からない。
「クロム君、お昼、帰ってこれないかもしれないからお弁当つくってあるよ。お昼になったら食べてね?お昼になったらだよ」
またコクンと頷いて了解の意を伝えてくるけど、お弁当の日は結構な確率で早弁してるのを知ってる。食事回数をふやしてからは無くなってきているっぽいからいい傾向だ。
「クロムちょっと愛されすぎじゃない?」
「うおっ!クロム坊がわらってる!!?」
ここ最近クロム君が稀に笑う様になって、そっちもいい傾向だ。(にっこり顔、めっっっちゃかわいい)
「つむぎ、準備できたか?」
「あ、はぁい!」
リヒト様の声に振り向くと、私を認めて目を細める軍服のイケメンがいた。
「はあ、めっちゃ可愛い。目が溶ける。兄上に見せたくない。絶対面倒なことになる。ユアンに今から女装させるか……」
またバカなこと言い始めたな。
「リヒト様、褒賞の事はお願いね?」
「ああ。紬は俺のだってちゃんと言う」
あ、やっぱり聞いてないな。
「坊ちゃん、しゃんとなさいまし!!」
ビシッと言ったミリーナさんの声で、リヒト様と、なぜか縁側のクロードさんまで背筋が伸びて可笑しい。
王宮まで二人で歩く。抱かれて飛んでいくのもいいけれど、二人で手を繋いで歩くのも好きだ。私の好きな、大きな手。
「そういえば私の象徴華って、王家の華なんだよね?って事は私は陛下の番でもあるの?」
「んな訳あるか!!紬は番の匂いが分からなくてもこっちはわかるんだよ。番が同じ国で二人はありえないからな」
そんなもんなんだ。
「陛下ってどんな人?」
「ん?あ~、ちょっとポンコツな甘えん坊か。仕事はまぁちゃんとこなすぞ。よく泣き付いてはくるが」
「兄、なんだよね?」
「おう、俺が弟だぞ」
なんだかんだおしゃべりしている間に謁見の間に着いてしまった。ここにくるのはユリウス様達使節団を迎えた時以来だ。
「ちょっと緊張する」
「そうか?大丈夫だよ」
扉の横の警備兵がリンと鈴を鳴らすと、中から両開きの扉が開いた。
王座の壇上には陛下が座っていて、今日は御簾は最初から上がっていた。
リヒト様はどんどん中に入っていく。
私も慌てて後ろに続く。
陛下のいる正面三メートルくらいの距離でリヒト様があぐらをかいて座り、脇にさした刀の大小が板張りの床に当たってガシャンと音を立てた。
私もリヒト様の横に着物の裾を意識しながら座る。この国の文化に正座はないそうなので足は中で崩してる。
陛下は金の髪を後ろに流し、口元と顎に無精髭はあるけれどげっそり痩せていたのが嘘みたいに健康的に見える。リヒト様とはあまり似ていないけれど優しいお顔をしたイケオジで、紫の瞳が美しい。
「リヒト、私にもう一度生を授けてくれたお前と、そこの天女殿に感謝を」
「もったいないお言葉、痛み入ります」
(ん?別にポンコツじゃないよね)
「あーすっごく可愛いお嬢さん、デートしてくれないかなぁ。リヒト、だめ?」
(あ、ポンコツかも……)
「却下です」
リヒト様、めっちゃ普通に答えてる……
「えっと、お兄ちゃんの頼みでも?」
「駄目です」
(こんな感じか~兄弟逆ならよかったねぇ)
『ほら、仲良くはんぶ「しません」』
(被せたな)
「お兄ちゃん初恋だよ!?応援して!?」
「そうですか。おめでとうございます。是非次への糧にして下さい。我ら臣下、世継ぎの誕生を心待ちにしております故。これより国策により兄上には降る様な縁談話がまいりますよ」
「弟が冷たい!!!」
「駄目です」
「まだ何も言ってないよ!?」
(……………………)
「兄上、紬は褒賞を物ではなく世界を見てまわりたいと。つきましては私に休暇をいただきたい」
『あのーー、それ、元気になった僕がいっちゃ「駄目です」』
(被せるの上手いな。もうなんかどうでも良くなってきたな)
「つむぎちゃ~ん、僕も番の匂い感じちゃったとか言ってもいい?」
「駄目です」
お、おう、リヒト様、駄目ですしか言わない……
「私の番に手を出す様でしたら、未だ兄上の仕事を私が請け負ってる分、全てお返し致します」
「ヒィッ!!!鬼!!!!」
残念なイケオジだなぁ。黙ってれば優しさあるワイルドイケメンでカッコいいのに……
「それでは兄上、御前失礼致します」
「あの~ちょっとだけ二人でお話とか……」
「駄目です」
最後の駄目ですを言い放ってリヒト様は私を片手で抱き上げてスタスタと謁見室を退出した。
「な?大丈夫だったろ?」
「あれは大丈夫というの?」
「まぁあれはあれで大丈夫なんだよ」
ふふ、なんだか変な兄弟。




