嫉妬
離れへの道が分かるわけもなくざっくりとした方角のみを見て庭伝いに歩くと、パーティー会場に行きあたってしまった。
もう始まっているはずの夜会が、ザワザワとしたおしゃべりだけの会になっている。
『王陛下の容体が急変したとか…………』
『まあ!それで王弟殿下もお姿が見えないのですね?いよいよかしら……怖いわ?』
『ここのところずっと調子が良いとおっしゃっていたじゃないか。何かのまちがいでは?』
『この夜会はどうなるのでしょう?陛下も王弟殿下もおられないなんて……』
周りの貴族達のお喋りから、大体の事情が分かった。王様の容態が急変したから彼は呼ばれて行ったんだ。
それならもうここには来ないかもしれない。どのみちパーティーどころではないだろう。
人混みの中、フラフラと離れの方角へ歩く。
不意に大きな男性に肩をぶつけられてよろめくと、力強い手に腕を掴まれて倒れずに済んだ。
お礼を言おうと顔を上げて息を呑む。
「っ——!ユリウス様……!」
「つむぎ、会いたかった」
「何故ここに!」
「本当はこの国にいるラディアンの大使が招待を受けていた」
ユリウス様は私の腕を掴んだまま話す。
「成り代わったという事!?何のために!」
一瞬泣きそうな顔をしたユリウス様は、私の目を見て優しい声で話す。
「つむぎの置かれている状況は調べて把握している。貴方が蔑ろにされているのは見るに耐えない。私にやりなおしの機会を頂きたい。共にこの国を出ましょう。ラディアンでなくてもかわまない」
「私は貴方の気持ちには応えられません!!」
なぜこんなにこんがらがってしまっているのだろう。
なぜみんな私の思いを無視するの。
その時、大きな怒鳴り声が私を襲った。
————「何をしている!!」
◇◆◇
国王が臣下の前に顔を見せる事は国内の安定に繋がる。容体が安定していれば多少無理してでも皆の前に出て気丈な態度を示さねばならない。
ここ最近安定していた兄上の容体が今日になって急激に悪化したことをうけて、パーティー自体が宙に浮いた状態になっている。
皆動くに動けずパーティー会場でザワザワと戸惑いながら待機している
(紬、どこにいる。まだここらにいるはずだ)
パーティー会場から番の匂いはするものの、人が多く小さな紬を見つけられずにいると男と紬の声が聞こえた。
——「貴方が蔑ろにされているのは見るに耐えない。わたしにやりなおしの機会を頂きたい。共にこの国を出ましょう。ラディアンでなくてもかわまない」
——「私は貴方の気持ちには応えられません」
「何をしている!!!」
意図せず大きな声が出てしまう。相手がヴィクトランだった事に俺の中で最大の警鐘が鳴って、いち早く俺の番を取り返さねばという感情が押し寄せる。
「二人で逃げるつもりだったのか」
地を這う様な声が出て、紬が怯むのがわかった。
「そんなわけない!!今の話、聞いていたでしょう!?」
「そもそもなぜヴィクトランと共にいる!お前は俺の番だ!身体に触らせるなと言ったはず!よりによってヴィクトランに!」
掴まれていた手を振り解き、なおも怯えた顔をする紬をみてどんどん自分が抑えられなくなる。なぜそんな目で俺を見る!
「お前にはやることがある、こちらへ来い」
手を出したがつむぎはその場から動かない。
————ヴィクトランの側から、動かない。
全身の血が沸騰していくのが分かる。怒りで手の中の銀の髪留めを無意識に握りしめ、バキッと音がして手の中で壊れた。
「は!つむぎは俺を信用できないんだろ!そんなに狼の野郎がいいなら、そいつについていけばいい!!」
紬の絶望した様な瞳と目が合う。
————「貴方がそれを言うの?この国に私を連れて来た、貴方が。そっか、七番目だったしね」
紬の言葉にざあっと血の気がひいていき、自分の言った言葉の残虐さに後悔が押し寄せる。
ヤバいと思った時には既にもう紬の表情から光が失われた後だった。
「違う、そうじゃなくて!違う!俺は!」
お前の事が大事だと伝えたい。
初めて女を好きだと思えたと分かって欲しい。
「いや、もういいや。良く分かった」
「違う!つむぎ!まて!」
「私に王様を治して欲しいんでしょう?行きましょうか」
「っ………………後で……ちゃんと話そう」
「………………」




