現実
「殿下!陛下のことで急ぎお知らせしたい事がございます!こちらへ!」
王宮に入ってすぐに、すごく焦って息を切らしている獣人の男性がリヒト様の姿を見て慌てて声をかけてきた。
「兄上の侍従だ。ちょっといってくる。すぐにユアンをよこすから紬はここにいろ。夜会の時間までに戻らなければ王族の園庭で待ってろ。迎えに行くから」
「ん、わかった。いってらっしゃい」
王宮の冷たい大理石の廊下でポツンと取り残されてしまった。ユアンさんが来るまでどうしようと思いながら窓の外を見ていると、艶めかしい女の人の声がかかった。
————「貴方が噂の方ね?少しお話しがしたいの。いいかしら」
振り返ると、天女風の着物を着た女性の二人組。
一人は金髪の丁寧に巻いた髪を今日の私と同じ様に高い所でポニーテールにしていて、ツンとした印象の綺麗な方。
もう一人は長い緑の髪を海外女優の様に巻いた大人の女性、という感じのグラマーな女性。
「すぐそこの部屋が使えるわ?少しお話ししたいだけ。どうかしら」
特に断る理由も無いので頷くと、二人はにっこり笑ってから部屋へと私を連れて行った。
「人と会う予定だったのです。ドアを開けておいても?」
「かまわないわ?こちらへ」
ユアンさんならこれで私の存在に気づくだろう。
示されたソファーに座ると対面に二人の女性が座り、金髪ポニーテールの女性が自己紹介をしてくれた。
「リヴィアル公爵家のアマリリスと申しますわ。こちらはガイナ伯爵夫人」
「紬・玲林と申します」
あんまりいい雰囲気じゃないなぁ。
面接を受けているみたいな気持ちになる。
「担当直入に言うわ?私たちの番グループにまだ貴方が入っていない事が心配なのよ」
「つがいグループ……」
聞き慣れない単語が出て来たな。
「えぇ、殿下の仮の後宮のことよ?」
「後宮……」
馬鹿みたいに単語を反復する私に苛立ったのか、金の眉がピクリと動いた。
「爵位の高い私が管理をかってでているわ。いつもはユアン様が私に繋いで下さるのだけれど……今回は手違いかしら、珍しいわね。ユアン様が見落としなど」
話の内容から真実は見えているのに気持ちが一生懸命否定する。あの人はそんな人じゃない、と。
二人の顔が見れなくて、アマリリスさんの華奢な手にはめられたごつい金の指輪をぼんやりと眺める。
「私達、皆殿下に愛されておりますの。私の夫が亡くなった時はそれはもうお優しく寄り添って頂きましたわ?」
ガイナ伯爵夫人と名乗った海外女優のような女性が、扇子を広げて口元を隠しながら話す。
涙ぼくろが妖艶で、壮絶な色気がある。
「あら、私が一番夜のお呼びの回数が多いのですよ?あの方が王になられた暁には、番グループの全員が後宮にあがるのです。私は正妃になりうる身分ですので、後宮の管理を任されるはず。貴方のような手違いがあると困るのです」
「……手違い…」
————「紬嬢!!!!!」
凄く焦ったユアンさんが部屋に飛び込んできて、その後ろにリツさんが青い顔をして控えているのが見えた。
「まあユアン様、ごきげんよう。なかなか彼女の繋ぎがありませんので心配しておりましたの。ご覧の通り私の方からご説明致しましたので心配ありませんわ?」
「~~~~~~!?!?」
ユアンさんが青い顔をして絶句するなんて珍しいなとぼんやりする頭で考えた。もうここから出たくて立ち上がり、失礼しますと言って頭を下げた。
「あら、あなたもそれを頂いたのね?やっぱり私達のお仲間じゃない。私達、みんなそれ頂いているわよ?誕生石をそれぞれ変えてプレゼントして下さったの。ね?だから抜け駆けはよくなくってよ?皆平等に愛して下さっているのだから」
二人の令嬢の視線が私の銀の髪飾りにある事に気がつく。
あぁ、そうだったんだ。
可愛くてお気に入りにだった髪留め。
その他のご令嬢達と宝石違いの同じ物だった。
素直に喜んでしまった。
あの人は心の中では笑っていたんだろうか。
「失礼します」
部屋を出てスタスタと歩き出す私に、ユアンさんが焦って話しかけてくる。
「紬嬢!誤解なき様!殿下にとって貴方は特別です!」
「唯一ではなかったみたいですね」
ぼんやりした頭でとっさに言い返してしまった。とにかくここから出たい。
「リツ!紬嬢を庭園に!私は殿下に報告に行きます!!」
後ろの方でユアンさんが指示する声がする。
庭園でまってろと言っていたっけ。
会って彼の口から本当のことを聞いた方がいいんだろうか。もう百パーセント黒っぽいけど、意味はあるのだろうか。
「天女さん、あの、庭園はこっちっス。俺、こういう時なんて言ったらいいのか……でも!殿下の天女さんへのお気持ちは本当で!!」
リツさんの後に続いて庭に向かうか迷って足が止まってしまう。
彼の口から本当の事を聞くのは、もっと辛いんじゃないのかと気がついて足がすくむ。
リツさんが悲壮な顔をして私を待ってくれている。
「離れに戻ります」
そこでちゃんと考えよう。もうパーティーに出る様な気分ではないし。
「そんな!お願いします!!庭園でお待ちください!!」
リツさんの悲痛な叫びに迷いながらも頷いて、また歩き出した。
王族専用庭の入り口には兵士が二人立っていて、リツさんは私を中のガゼボに通した後、退出して行った。
広い庭園にまた一人取り残される。
私はどうしたらいいんだろう。




