お披露目の夜会
「婚約するぞ」
私の離れに来たリヒト様がおもむろに言う。
「付き合ったばかりだよ!?」
「関係ねぇよ。なんで人間は我慢大会ばかりしようとする?とにかく、次の夜会にお前を伴って出る。そこで婚約者として披露目だな」
まだ付き合ってニヶ月も経っていないうちに婚約なんて。リヒト様の事だって、知らないことの方が多いのに。
「何だ、不服そうだな」
「そりゃそうだよ。強引だし、早いし」
私の膝の上で、目をまんまるにしてリヒト様と私を交互に見ているクロム君を抱きしめて答える。
「私、リヒト様の事まだよく知らないのに」
「婚約した後に知ればいい」
「わ、私は、リヒト様の事が好きだと自覚したばかりで、もっとちゃんと知り合って、通じ合う時間が欲しい」
「はぁ~~~~~~これ以上何を知るってんだよ。おいクロム!お前は仕事に行け!」
私の膝のクロム君をむんずと掴んで庭に投げ捨てると、シュバっと着地して母屋の方に消えて行った。
リヒト様は私を横抱きに抱えると縁側に運んで座った。
縁側に、プレゼントの山。
クリスマスのオブジェみたいだなとぼんやり思ってリヒト様を見ると、私の好きな紺色の瞳が大切なものを見る様に優しく細まり、金の瞳孔が揺らめく。
「俺はお前が好きだよ。俺の至宝、俺の全て」
「にしても、プレゼント、多い」
「嫌か?」
ニヤッと悪いお顔で笑う。
「嬉しいよ。私の国にはこういう文化がないから戸惑うけど」
獣人の男の人は、女の子へのプレゼントが愛情表現だ。記念日とか、ホリデーとかじゃない、好きだから、贈る。女の子からは贈らない。受取るのが、気持ちを返すという事らしい。
「ふぅん、お前の国の男は可哀想だな」
そういうもんだろうか。プレゼントの山の一番上にあった小さな小箱をとって、リボンをほどく。
「わぁ!可愛い!!」
銀でできた繊細な植物モチーフの髪飾り。真ん中にカラカラと揺れる宝石が丸ごと閉じ込められている。私の誕生石のペリドット。
「気に入ったなら、良かった」
「すごく可愛い、ありがとう」
光にかざすと宝石が揺らめいてキラキラ光が漏れる。
「急かしたい訳じゃないが、あまり焦らさないでくれ。愛してるから、早く婚約したい」
「うん。私も、リヒト様が好き、だよ」
触れるだけのキスが贈られて、ぼんやりした頭をリヒト様の胸に預ける。
「はぁ、婚約はまだ待つよ。夜会にはパートナーとして出ればいい。それぐらいは許せ」
「うん、ありがとう」
「はぁ、俺はお前に甘いなぁ……」
ガリガリと頭をかいて、ため息をつく彼が愛おしい。
「ふふ、夜会って何するの?ダンス?」
ダンスだったら困るなぁ。盆踊りすら踊れないのに。
「最近調子のいい兄上の臣下への顔見せがメインだな。うちの国にダンスの習慣はないから、楽団が来たり立食で飯が出るぐらいで大したことはやらない」
「恋人として隣にいられるのは、嬉しい、よ?」
「~~~~~~!?!?俺の番可愛い、やばい、俺の理性とけそう!!」
「理性、弱すぎない……?」
◇◆◇
夜会用にと、薄地の白い裾が広がる着物にたんぽぽのような淡い黄色の短い打掛をかけて、胸の下から腰までぐるぐるとコルセットの様に銀のリボンで留められた。胸元にもシャラシャラと揺れる金の花飾りをつけてやっとおしまい。
髪はミリーナさんがまた輪っかに結おうとしたので、先日もらった銀の髪飾りを付けたくて、高い所でのポニーテールに変更してもらった。
パチンと音をたてて、繊細な装飾が髪に留まる。カラカラと動くペリドットが可愛い。
リヒト様はいつもの軍服だけれど、胸に褒章がたくさん付いていてかっこいい。
「俺の番超可愛い、誰にも見せたく無い。行くのやめよう」
「えぇ、王様が悲しむよ?お披露目したいのかしたくないのかどっちなの……」
「はぁ~~~~~~見せたくないけど、見せびらかしたい。いや、見せたくない……」
なんなのか。
なんだかんだ言って、私をエスコートして王宮へ向かったので、行く気はあるようだ。
今日は私のそばにリヒト様がいるので、クロム君はお留守番だ。離れに夕ご飯を置いてきたので安心。
「いってらっしゃいませ」
後ろからミリーナさんの声がする。
この世界でパーティーに出るのは初めてだから、楽しみで、ちょっと緊張する。
——リヒト様が隣にいてくれれば、大丈夫。




