見送り
犯罪者であるレイス様を運び出すということで、王宮の正門ではなく忌み物や汚れ物・死亡者を運び出す為にある特別な門からのひっそりとした見送りとなった。
レイス様は私が到着した時にはもう簡素な馬車に乗せられていて、顔を合わせなくて済んだ。
私達といつものみんなしかいない、簡素なお見送り。
「此度の失態、重ねてお詫び致します。痴れ者はラディアンにて重い処罰がなされるでしょう。恩赦に感謝を」
ユリウス様が跪き謝罪の意を述べている。
「礼はいい、立て」
「番の君としばし話をさせていただいても?」
「はぁ~、まぁいいが、悪あがきはやめろ」
ユリウス様がまっすぐ私を見る。ブルーの澄んだ瞳が悲しげに揺れている。
「つむぎ、最後に一つだけいいだろうか。私は……君の気持ちが知りたい。……貴方が私から離れた原因は、嫉妬だったのだよな?私はあの女に騙され、君を失った。諦められない」
私が?レイス様に嫉妬した??
そうだっけ?私はどう思っていた?
頭がぐるぐるする。
言葉がまとまらない。
「つむつむが過去に自分をちゃんと好きだったか知ってどうすんのさ~」
「あんなカッコいいんだから、次に行けばいいのに!弱ったあなたを守ってあげたい♡とか言われるんスよ!あの顔は!!」
ルース君とリツさんの言葉にもユリウス様は動じない。じっと私を射る、澄んだブルーの瞳。
何て言えばいいのだろう。私はあの時どう思っていたのだろう。好きって、何だっけ。
リヒト様を思うだけで感じる、あのじわじわ幸せが生まれてくる感じ?
「何すか!殿下は何で何にも言わないんすか!ビシッと言ってやればいいのに!!爆発しろって!」
「リツ、あれを見なさい」
「!?」
「紬嬢が無意識に殿下の上着の裾をつかんでおります」
「「「「 ……噛み締めてらっしゃる 」」」」
「リヒト様、笛文、持ってる?」
なぜかぼんやりしているリヒト様に声をかける。隣にいてくれるだけで心強い。
苦手な笛文も多分大丈夫。
「ぅお?あ、あぁ、あるけど」
「使い方、教えてくれる?」
「今?いいけど……」
そう言って胸のポケットから試験管みたいなガラスの笛文を出して渡してくれた。
「魔力があれば使える。魔力操作はいらないから、紬でもできる。指でなぞって、文章を思い描くだけだよ」
「ん」
言われた通りにやってみるとすぐに出来た。
砂鉄がジワジワと想像した文字の形に集まっていく様な感じ。
心が痛い、あの文章。
~~ いつもの場所でまってる レイ ~~
そのままユリウス様に笛文を渡すと、ユリウス様は訝しげに受け取って目を見開いて固まった。
「急なお仕事が入ったと、書いてあるのですよね?」
「っ————————!!」
「私はユリウス様が出かけるたびに、国立公園へ行きました」
「!!!」
笛文を見つめていたユリウス様が跳ねるように顔を上げて私を見る。
「同じ店同じ席、貴方の背中とレイス様の私をあざける笑いを見てから帰りました」
「——————」
「嫉妬は、無かったと思います。悲しくはありましたが」
ユリウス様はしばらくじっと目を閉じて、それからまた私をまっすぐ見て言った。
「よく分かりました。貴方を傷つけてしまったこと、お詫び致します。私は……私は自業自得だったのですね。元々貴方の心は私に無かったのに、既に手に入れたものと、思い込んでおりました」
「レイス様と、お幸せに」
「あの者と心を通じる事はもうありませんよ」
「そうですか……では、どうかお幸せに」
私の言葉に苦笑してからユリウス様は踵を返し、出発の号令をかけた。
馬に乗ったユリウス様の銀色の後ろ姿が門から出ていくのを最後まで見送り、私も過去を終わらせる。
「殿下、行きますよ」
「おぅ?おお……」
ユアンさんがリヒト様に声をかける。
リヒト様はなんだかフワフワしたよくわからない表情をして真っ直ぐ前を見ているけれど、もうユリウス様達はいないしどこに焦点があってるのかよく分からない。
「「「「まだ噛み締めていらっしゃる」」」」
いつの間にか掴んでいたリヒト様の軍服の裾をそっと離す。
「??リヒト様?お腹すいた?この後クロムくんと約束してるの。離れにご飯、食べにくる?」
「「「「 行きます 」」」」
「っあ!?お前らは呼んでねぇよ!!」




