梅の園遊会2
昼前にクロム君が来たのでテトと三人で遊んで、縁側でおやつを出してあげた。
生クリームを添えたシフォンケーキ。
「クロム君、こっちにおいで」
言うと素直にちょこんと膝に座る。今日も非常に可愛い。
お兄さんから反物が沢山届いたので(シルクばかりで困った)ガーゼっぽい生地を見つけてクロム君のお食事エプロンを沢山作った。シルクの方は私の着物に仕立てるそうで、ミリーナさんがどこかに持って行った。
色んな色で名前の刺繍もして、わりと上手にできたと思う。よだれと食べこぼしの多いクロム君には必須だ。
「はい、これプレゼント。後ろで結んで使うよ。お洋服が汚れない様にね」
クロム君は小さな軍服を着ていることもあるけれど、大半は真っ黒の忍びみたいな着物を着てる。小さな忍者みたいで可愛い。
「僕?くれるの?」
「そう、プレゼント。いつも私と仲良くしてくれてありがとうと、大好きのしるし」
クロム君はお食事エプロンの端を握ってじっとしてる。
「僕も、お嬢、だいしき」
「可愛い!可愛い!可愛い!!」
ぎゅうぎゅうとクロム君を抱きしめて、うなじに顔を埋める。お日様とミルクみたいなけしからん匂いがする。
「お嬢、これ、泡?」
「生クリームだよ。ケーキと一緒に食べると美味しいよ。こんな味」
私の分のお皿から指で少しすくって口に入れてやるとまた両手がほっぺたにくっついたので、案の定気に入ったみたいだ。
生クリームは幸せの塊ですから。
「今日はゆっくりできるんだね?お仕事は大丈夫?」
膝から降りる気配がないのでクロム君の分のケーキ皿を持ってやると、ぎゅっと握ったフォークで器用にケーキを食べ始めた。
「もぐ、僕、見張りのお仕事、今日、ない」
「そうなの。お休みの日かな?いつも頑張ってるもんね」
「お仕事、狼と女の、監視。今日、主達が見てる」
ユリウス様の監視??
「女の人?」
「金色の女 医者」
「っ————————レイス様………………?」
「ん。」
ユリウス様がレイス様を連れてきていたんだ!
「リヒト様と…………会ってるの…………?」
声が震えるのを悟られない様に、何でもないように言う。クロム君はケーキに夢中で私の変化にまだ気がついてない。
「だから、僕、しごと、ない」
「…………どこで、会ってる……?」
喉がカラカラして、体温が下がる感覚がある。
「梅の園庭。王宮」
「行かなきゃ……」
「お嬢?」
私の言葉にクロム君が膝から降りて私の顔を覗き込んでくる。
「い、行かなきゃ。クロム君はここにいて!」
「だめ 危ない」
クロム君の言葉が頭に入らない。そのまま庭に出て、走り出した私の後ろを慌ててついてくる音がする。
走って走って、庭伝いに王宮を目指す。ギラギラした金の屋根の方を目指せば良い。
走っていくと木戸があって、木戸番なのか軍服を着た男の人が門に立っていた。
私を見てびっくりした様な、呆気に取られた顔をする。
「お嬢、戻って!!!」
何度も目の前にクロム君が立つ。それを避けて前に進む。門衛の男の人が私をとらえようとして、クロム君に気絶させられているのが見えた。
何箇所か大きな門をくぐって、その度にクロム君が門衛を気絶させていく。まるで私に触らせない様にしているみたいに。
息が切れてきたころ梅の花が見えて、ガヤガヤとした人の声が聞こえてきた。
「クロム君お願い、リヒト様がいる場所を教えて!お願い!!」
「……危ない、てとのとこ、かえろ」
絶対に近くにいるはず、庭園中探せば見つけられるはず。
パーティーを催しているようで、梅の花が咲き誇る庭園の端から、会場中を見渡す。
————その時、後ろから懐かしい声がかかった。
「………………会いたかった」
振り返ると、騎士服を着たユリウス様が立っていた。
「っ、ユリウス、様」
ザッとクロム君が私とユリウス様の間に入り、ユリウス様をにらみつけている。短いドスの様な短刀を両手に持って。
「竜の子、少し話をしたいだけだ。何もしない。収めてくれ。私は丸腰だ」
ユリウス様がクロム君に話しかけるけれど、クロム君は答えない。じっとユリウス様を見てる。腰を落として、すぐに飛びかかれる姿勢のまま。
ユリウス様ははぁとため息を一つついて、私の方を見てまた話し始めた。
「つむぎ、私の番。私の元に、帰ってきて欲しい」
「……………………嫌です」
「君だけだ、君だけを想うと誓う」
「レイス様とお幸せに。私の事は忘れて下さい」
「何故だ!貴方を優先してきたはず!少し待てば私は貴方の元に帰ったのに!」
「レイス様とも、番っていたのでしょう?」
「それは…………!」
そうだと思った。レイス様のあの勝ち誇った顔。
いそいそと出ていくユリウス様。私に説明した様なデートだけで終わる関係じゃなかったはず。身体をつなげた恋人同士だったはず。
「もういいじゃないですか、大好きなレイス様と一緒になれるのです」
「その女は今、竜国王弟殿下といる。既に番っているだろう」
「……………………そんなの、嘘です」
「信じられないなら、ついてくるといい」




