梅の園遊会1
「何でうちが梅見の園遊会なんて開かなきゃなんないんスか?めんどくさい!」
昼に開かれる歓迎の茶会の為、雑事に追われるリツが嘆く。
「しょーがないよ~国と国の外交だしね~表向きは要請にのっとって親切にはぐれ竜人を返還したって事になってるしね~」
表向きは返還のために訪れた使節団の為に、国として歓迎の意を示さねばならない。リツの言う様に面倒ではあるが。
「ユアン、今何人だ」
「八人帰国して解除済みです。残りの五人、年配の夫婦と乳児のいる夫婦のため到着にはまだ日数がかかるでしょう」
「ちょうどいい、茶会で少し揺さぶるか。ヴィクトランの女にドレスを手配しとけ。適当でいい」
「御意に」
「つむぎは?」
「離れにていつも通りお過ごしです。園遊会の間は手の空いたクロムをつかせる予定です。殿下も、お支度を」
◇◆◇
王宮の庭に梅の花が咲き誇っている。
着飾った宮女達がラディアンの騎士達を案内していく。
「あれか」
「おぉ~二番目ちゃんも綺麗なご令嬢だねぇ~、腹の中は真っ黒だけど~」
ヴィクトランと第二の番の女を認めて近づくと、二人とも地面に片膝を付き、礼をとった。
「いい、立て。この場で礼は問わない。楽しんでくれ」
俺の言葉に立ち上がった狼は、まっすぐに俺を見て言う。
「本日は、番の君は」
「お前の知ったことではない。そこの女、名は?」
「はいっ!はい殿下!レイス・マリージョアと申します」
女はそう言って膝を折り、ユアンに適当に選ばせたこちらの国の着物の裾を広げラディアン風の礼を取る。
「よく似合っている」
多分。よく見てないが。
「プレゼントを受け取った時は天にも登る気持ちでしたわ!わざわざわたくしのために、ありがとうございます」
この女から血液の秘密を聞き出す為に、香水の匂いに惹かれている演技をしなければならない。
入念に付けているのか紬のフェロモンの匂いが濃いが、この女のフェロモンと混ざっているのでどうということもない。偽物だとすぐ分かる。
似ている匂い、という感じか。
「あちらに花見のための王族の庭がある。マリージョア嬢を誘っても?」
「光栄にございます!ユリウス、いってくるわね?」
「ああ、殿下に可愛がってもらえ」
やだよ。こんな女。
エスコートまでする義理はないのでスタスタと歩き始めると、女はやや後ろをかしましく庭を褒めながら着いてくる。
梅の花と牡丹が見頃の王族専用の庭園に入り、花見用の縁台の椅子を目線で促す。
花園の入り口にはクロードとルース、俺のすぐ後ろにユアンが控え、リツが給仕を始める。
「なぜ私をお誘いくださいましたの?」
ねっとりとした視線。それには答えず、こちらから質問をする。
「マリージョア家は、公爵家だったか」
「はい。我が家の事をご存知ですのね?父が外務大臣を務めております」
「公爵令嬢が仕事をするなど、珍しいな」
「ええ、好きが高じて。ですが高位令嬢としての心得もマナーも履修済みでございます」
暗に俺の嫁にどうかと自らを売り込んできて反吐が出る。
「そうか、お前の匂いは好ましい」
お前についた、紬のにおいが。
「うふふふ、私舞い上がってしまいそうですわ?」
手で合図をおくり、ユアンとリツを下げる。
「だが俺の番程の物でもないな」
女の顔が歪む。出されたティーカップに入った紅茶はリツが用意した物だ。薬物を仕掛けることは不可能だ。
「私、フェロモンを抑えておりますの。強すぎるものですから」
「抑える?」
「ええ、私の職業をご存知ですよね?」
「医師だろう?」
「厳密には医師ではなく、薬師ですわ?患者の状態に合ったものを処方するのです」
「それが?」
「東方の端にある猿の国オズマルで最近見つかった花があるのです。とても貴重で、十年に一度しか咲かないとか。その花がフェロモンを抑える効果があると分かりまして」
「聞いたことないな」
「今ご覧に入れますわ。中和剤を持っていますの」
来たか。これを取り上げれば何か分かるはず。
「興味がある。見せろ」
「あら残念、奥歯に仕込んでございまして——」
俺の言葉に、女はニターっと嫌な笑いを浮かべた。
「ユアン!やられた!!女が何か飲んだ!!」
体が燃えるように熱い。目の前の女から信じられない程かぐわしい匂い。
「ぐっっ…………うあ゛ぁああ……」
————目の前の女を俺の物に
————誰かに取られる前に早く!早く!!
「ハァ……ハァ……くそっ!!」
体が勝手に獣化を始め、うっとりとそれを眺める女が見えた。
「……うあ゛ぁああ……!!……お前、逆だろ……その花」
「あら、バレてしまいましたの。さすが竜国王弟殿下、ユリウスの様にはいきませんわね。えぇ、フェロモンの薄い猿獣人が大金を払ってでも手に入れたくてたまらない物。ピラーの花というのですわ?フェロモンを何倍にも、何十倍にもしてくれるのです。それに気がついた所で、もう遅いのです。貴方は私の虜になるのですから。そんな事、些細な事でございましょう?」
女から薫る紬の強烈なフェロモンに脳が焼き切れそうになる。紬の血液に花の成分を混ぜてこの女自身が摂取していたのか。
「ゔぁ、あ゛ぁあああああ!!」
「殿下!!!」
ユアンの声が遠くに聞こえる。
————目の前の女を俺の物にしなくてはならない。




