旅路3
「今日の夕方また移転に乗る。そしたらもう竜国だぞ」
昨日あの後夕方もう一度移転して、また大きなホテルに泊まった。
移転の時はまたキスされて、移転酔いとかはよくわからないうちに終わってのぼせただけだった。
ホテルでも同室になるかならないかで揉めて、結局また一人部屋になったけど、お兄さんはしゅんとしてた。
「今日はテルガードにのるか?」
「わ!わぁ!乗りたい!」
結局テトに乗らないままここまで来てしまったので嬉しい!
お兄さんはわたしを片手で抱いたままふわっとテトに騎乗して横抱きに変えてくれた。人外の力持ちさをこういう時感じる。お兄さんはこともなげに人一人持ち上げてしまう。
「今日のテトはかっこいいねぇ!!イケメンさん!」
テトのツヤツヤの立て髪をなでてやる。
今日のテトは装飾のついた馬具と鎧を付けていてとってもかっこいい。
「今日おまえをのせるっつったら、大人しく装備しやがった。カッコつけたいんだろ」
「ふふ、かわいい」
「馬車も飽きたろ、今日は街も通るし飽きないと思うぞ」
「ん、嬉しい。番なんて最悪な物から解放されたら、この世界を見てみたいなって思ってたの」
「そりゃよかった。これからも、俺がどこにでも連れて行ってやるよ」
上を向いて笑顔で返事を返すとそのままキスされて抱え込まれる。
「……ぷはっ!お兄さんは上級者かもしれないけど、私は初心者なの!!」
「慣れろ」
みんなの視線が痛くてお兄さんの胸にうずまって隠れたけれど、ここにいればいるほど恥ずかしい気がする。
◇◆◇
「おーあれ、ラズウェルで一番高い山だぞ、今日は天気がいいからよく見えるな」
富士山みたいなもんだろうかとお兄さんの指し示した先を見ると、クリスタルの様に透明な輝きを放つ山が見えた。山というか、山の大きさのクリスタルの原石といった感じでキラキラして眩しい。
「わぁ!綺麗な物がおおいね、この世界は」
「お前が一番綺麗だよ」
甘い。お兄さんがずっと甘い。見る物全てを説明してくれて、結局最後は私を褒めるか、好きだと言ってくれるか、キスされる。
ドキドキしてのぼせそうになる。
「つむぎ、いるか?」
「ふぇっ?な、何?」
ぼーっとしていたら街中を通っていた。
馬上の人や馬車の人用なのか、籠を持った物売りが私達のそばでフルーツジュースをうっていて、甘い匂いがただよっていた。
「美味しそう!」
「ひとつくれ」
お兄さんはテトを極力ゆっくり動かす。
物売りのお姉さんは早足で移動しながら私に竹筒のコップに入ったジュースを渡してくれた。
「支払いはどうやってするの?」
「リツがする。物売りもそれはわかってるから大丈夫だ」
この世界の常識はいまいちよく分からない。すこしづつでもわかっていけたらいいと思う。
「そういう事、教えてくれる?」
「なんでも教えてやるよ。俺はお前には甘いからな」
「ゔぅ、またそういうこと言う」
「紬はぼんやりしてるから、直球で行かないと落とせないことがわかったからな」
「悪口!!」
二人で笑って、キスされて、また新しい物を説明されて、食べさせてくれて、抱きしめられる。
「今日はずっとここがいい。テトの上で、お兄さんと一緒がいい」
「いいよ」
紺色の瞳が優しく揺れて、こめかみにキスを落とされる。
お兄さんといる時間が好きだ。濃度が濃くなって、じわじわ幸せが生まれてくる感じ。
「お兄さんが、好き」
私の言葉にお兄さんは目を見開いている。
上を向いて私からキスをせがむと強い力で抱き込まれて、深いキスをされた。
甘い甘い、ドロドロにとけた蜂蜜みたいなキス。
「——っ、わりぃ、不意打ちで理性が飛んだ」
「ふふ、初心者だから、ゆっくりね?」
「~~~~~っ無理そう……」
◇◆◇
「テルガードに乗ったまま移転に乗るのか?」
「ん。今日はここにいたい」
「——っ、いいけど、怖かったらしがみついとけ」
この移転装置をくぐればエルダゾルクに入国する。エルダゾルクの国の端に出るそうで、そこからまた二日かけて王都へ移動するんだって。
「ん、抱きついてる。ここにいたい」
「~~~~~っっ……」
いつもみたいにリツさんが受付に入っていくのが見えた。
多分お兄さんの地位が高いから、最優先にされてるんだと思う。列に並んでまったことがないもの。
お兄さんの背中に手を回して抱きつく。
石鹸の匂いと、ちょっぴり香るタバコの匂い。上を向くと、溶けちゃうみたいな顔で私を見てくる。すごく甘い顔。私を甘やかす顔。
テトが動き出して虹色のオーロラの中を通る。一瞬周りが明るくなって、グニャッとした感覚を覚えた。




