いびつな告白
心地よい揺れで目が覚めた。
「起きたか?」
「ん、ここどこ……」
お兄さんの膝の上で抱き込まれて眠っていたようで、知らない場所で起きた。カタカタと柔らかい振動がお兄さん越しに伝わる。
「俺の国に移動してる。もうラディアンを出ているから痣、見てみろ」
「うん………………怖い」
もし消えてなかったら、一生ヴィクトラン家の象徴華を付けて生きていく事になるんだろうか。
「大丈夫だ、そばにいる」
「テトは?」
「はっ!テルガードも近くにいるよ。軍馬のくせに、お前の馬車を引きたがって大変だったぞ」
ゆっくりゆっくり包帯を解く。最後の一巻きを取るときに少し指が震えた。
「消え……てる……!!消えてる!!!お兄さん、ありがとう!!」
「ん、良かったな」
「これでもう番から解放される?ユリウス様に会わなくてすむ?居場所も分からない?」
「ああ」
嬉しい。やっとあの人達から解放される。GPSをつけられている感じがしてとても嫌だった。
もう忘れたい。
蔑ろにされていた過去も、
甘んじて受け入れていた弱い自分も。
◇◆◇
大きな高級そうなホテルに入って、お兄さんからまた部下の紹介を受けた。
「うっわ~~かっわいい子だね~!!黒髪の天女ちゃんだねぇ!ルース・リオットだよ~ルースって呼んでね!二十五歳だよ!」
「リヒトが夢中になるわけだな。俺はクロード・セリュタだ。歳はリヒトとユアンと同じ二十七だ。よろしく頼む」
タレ糸目でピンクブロンドのルース君は腕を頭の後ろに組んで、何だかチャラそう。髪は長くないのに、ハーフアップにゆってる。みんな180センチ以上ある中で彼だけが小柄。私よりは全然高いけど。
リツさんと同じくらい大柄のクロードさんは赤髪の短髪で、ハシビロコウみたいなリツさんとは対照的にクマさんみたいな柔和な方だ。
「お前らうるせぇ殺すぞ。つむぎ、俺の側近のルースとクロードだ。別に覚えなくていい」
「えぇ……?つむぎ・玲林です。よろしくお願いします」
後ろからお兄さんがぎゅうぎゅう抱きしめてきてお辞儀がしづらい。
「殿下、つむぎ嬢が動きづらそうですが」
ユアンさんが冷めた目で言う。
「んなことねぇだろ?」
「え?うん、ちょっと、動きづらい」
「ワハハハハハハハ!!!マジかよ!?殿下に全然なびかない女の子初めて見た!!!」
ルース君がお腹を抱えて笑い、クロードさんが異星人でも見るような目で見てくる。何なのか。
「チッ、おまえら俺と紬の部屋から早く出ていけ、邪魔だ」
「え?お兄さんと同じ部屋なの?何で?」
「ギャハハハハハハハハ!!!!」
ルース君は今度は床を叩いて笑ってる。
「つむぎ、お前……」
「古代魔術を調べるのは中断致しましょう。つむぎ嬢、殿下が瀕死ですのでそのくらいに」
「はぁ~~~つむぎ、もう一人紹介する。俺の乳母でクロードの母親のミリーナだ。つむぎ専属の侍女として付ける」
「ミリーナでございます。お嬢様、何なりとお申し付けくださいまし。坊ちゃんと愚息の不始末も、私めにおっしゃっていただければすぐに対処致しますわ」
五十代半ばぐらいだろうか。
紫の髪をひっつめにして、ふくよかで小さな人なのに、お兄さんとクロードさんが恐ろしい物を見る目で見てる。
「私に?わたし、どこかの街で降ろされるんじゃないの?」
「は?」
「えと、テトの褒賞は断ったし、もう痣を消すお手伝いもしてもらったよ?」
「は?」
「……?お兄さん?」
お兄さんが下を向いてぷるぷるしているので、怒っているのかと覗きこんだら、急にガバッと前を見てすごく低い声で指示を出した。
「全員下がれ。竜国エルダゾルク存続の危機だと思え」
「ギャハハハハハハハハハハ!!!!」
ルース君とクロードさんが大笑いして、ユアンさんとミリーナさんがため息をついて出て行った。
「お兄さん、私もだよね?テトの所に行ってくるね」
「お前………………何で落ちねぇ」
「え?」
お兄さんの声がすごく低い。お、怒ってる!?
「お前は俺と離れても平気なのか?」
「平気というか、また、たまに会ってくれたら嬉しいけど……テトに会いたいし」
「…………たまに………………テルガードがメイン…………」
「お兄さん?」
「俺はお前が好きだっていってんだろうが!」
「え?言ってないよ?」
「は?」
「そんな事、一度も……言ってないよ?」
「~~~~~~~~!!??」
お兄さんはリップサービスはすごいけれど、確信的なことは言ってくれたことはない。好きとか、付き合いたいとか。
リツさんやユアンさんの物言いからも、相当女の人に慣れている感じがあるし、女の子を喜ばせる達人なんだと思う。
「私、お兄さんの事何も知らないし、だから……」
「ほぉ?じゃあ今から懇切丁寧に全部説明してやる」
「えぇ……」
「俺はお前が好きだし、諦めない。ガンガン口説くって言っただろうが」
「リップサービスかと……」
「はぁ!?んな事するかよ!」
「う、うん……?」
お兄さんの圧がすごい。
魔王みたいな顔にだんだんと後ろに下がってしまう。
壁際まで追い詰められて、壁ドン姿勢で腕の中に閉じ込められる。りょ、両腕!?逃げ場がないのに目の前に壮絶なイケメンのお顔がある。
「んで?あとは何が知りたい?」
「いや、別に……」
「へぇ?じゃあ聞いとけ。俺は竜国エルダゾルクの竜王フォルド・リア・エルダゾルクの弟にあたる」
「あ……うん」
だから殿下って言われてたのか。
王弟殿下だったのか。やっぱり、雲の上の人だった。
「仕事は王国軍の大将だな。竜族は世界の中立者としての仕事を神から託された種族でもある。兄上はご病気で長い間伏せっておられるから、中立者としての仕事も俺が請け負ってる」
「………………」
もうファンタジーすぎて、自分との接点を見出せない。
「んでもって、お前は俺の恋人としてエルダゾルク入りする。」
「恋人…………」
「なんだ、嫌か?」
「い、嫌じゃないけど……」
お兄さんのことは、好ましくは思う。優しくて、落ち着く。
「何だ、何が不満だ?」
「う、浮気しない?お兄さんまで、同じだったら、私……」
「しねーよ!!!お前だけだって言ってんだろ!!!!」




