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2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜  作者: 雨香
番編

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13/30

出発


 ユリウス様の所を出てから初めての休日が来た。今日、きっと私がいない事にユリウス様が気づく。

 今日までメイド達も気付いていなかったはずだ。食堂ぐらいしか顔を合わす機会は無かったし、それもずらした時間に行くようにしていたから。

 そもそも一週間ぐらいは誰とも会わないなんて普通だった。


 ユリウス様は何時ぐらいに侯爵邸にお戻りになっていたっけ?朝だったっけ、昼だったっけ?どうせ〝いつもの場所“に呼び出されて行ってしまうけれど、休日は律儀に帰って来ていた。


————「何をそんなにソワソワしている?」


 やっぱりバレてしまう。お兄さんは私の心の機微にとても聡い。


「えっと……今日はユリウス様が来る日だなって。だから今日私がいない事、バレると思って……」


「ふーん」


 あ、あれ?それだけ?もっと機嫌悪くなるかなと思ったのに。

 お兄さんはやっぱりよく分からない。私を振り回して遊んでるだけのような気もする。大人の男の人は、よく分からない。


「また余計な事考えてるだろ」


 抱き上げられて、肩に担がれる。


「へっ!?何!?こわい!」


「落とさねぇよ」


 お兄さんは私を担いだまま外に出て湖畔に座らせると、後ろから抱き込む形で自分も座った。


 靴が脱げて裸足になった足先が水に浸かって気持ちがいい。


「俺が守るって言ったろ」


「それは、そうだけど……ユリウス様は近衛騎士様で、多分、すごく強くて」


「…………俺の腕の中で他の男の名前を呼ぶな」


「えぇ……?」


「まぁでも紬が不安なら急ぐか。俺としても願ったりだ」


 よく分からない返答に戸惑っているとテトが横に来て水を飲み始めた。お兄さんの腕の中で、隣にテトがいる事にひどく安心を覚える。


「テルガード、いけるな?」


 ブルンッとテトがわななく。


「な、何?」


「テルガードはもう元気だよ。獣医に見せたから確実だ」


「でも、横になる事が多いよ?」


「あ゛~、それな、お前に甘えてただけだとよ。ったく心配かけさせやがって」  


「テト!もう元気なの!?良かった!良かったねぇ!」

 

 思わず立ち上がってテトの顔を抱きしめると、テトも腕の中でスリスリしてきてすごく可愛い。


「おいテルガード!俺より熱烈な愛情受けてんじゃねぇよ!こっちこい!つむぎ!」


 お兄さんは長いため息を一つついて軍服の胸ポケットから笛文(ふえぶみ)を出すと、上から人差し指をすっとかざして魔力を込めたようだった。


 ガラス管の中の古びた紙に文字が浮かぶ。


〝迎えに来い すぐに出る”


文字はすぐに消えてまた新しい文字が浮かぶ


〝御意に”


返信の文字はすぐには消えないようだった。


~ いつもの場所で待ってる レイ ~


嫌な思い出が蘇る。


笛文(ふえぶみ)が気になるか?俺の国についたら紬にも新しいのをやるよ」


「い、いらないっ!!!」


「つむぎ?」


「いらない、それは、嫌!」


「どうした…………?」


 テトが安心させようとグリグリと顔を押し付けてくる。

心臓がバクバクと煩い。

 

 テトを抱きしめた私を、ひょいと引き剥がして横抱きに抱き上げてくる。そのまま強い力で抱き込められて、今度はお兄さんが私の首元にグリグリと額を押し付けて来た。


「何があった。教えてくれ、ちゃんと知っておきたい」


「——っ、あの筒は、嘘しか映さない。見たくないの」


 涙ばかりが出て来てうまく言葉が出てこない。



◇◆◇



 迎えに来たリツに小屋の後始末を任せて、泣き疲れて腕の中で眠った紬と一緒にテルガードに騎乗する。


 あの後涙ながらに語った紬のトラウマに、全身の血が沸騰しそうになるのをスヤスヤと眠る紬の愛らしい寝顔を見て何とか抑える。


 テルガードもわかっているのかなるべく揺れが起きないように配慮して動いているのが分かる。俺も、愛馬も、この小さな可愛い生き物に夢中になっている。


 テルガードの上で何度か起きかけた紬の耳元で「大丈夫だよ」と囁いて髪をすいてやるとまたくぅくぅと深い眠りに付く。

 俺の腕の中で、俺の声に安心しているつむぎを見るのはひどく気分がいい。歓喜の波が俺の心の奥底まで満ちていく。


 近くの街で馬車を用意した部下達と合流する。馬車を用意させておいて良かった。騎乗になれない紬を、もう少し寝かせてやれる。


「お前ほんとにリヒトか?また怪しい惚れ薬でも飲まされたんだろ。ほら、解毒薬飲め!」


 乳兄弟で俺の側近のクロードが小さな瓶を出してくる。紬を馬車に寝かせ、テルガードの側に戻った俺を全員が驚愕の眼差しで見ている。


「クロード、既に解毒薬は渡しております。まだ私もリツも信じられませんが今回は本気のようです」

ユアンがやれやれというように答える。


「お前ら何で解毒薬ばっかりもってんだ。アホか」


「そりゃ~殿下の周りのご令嬢達怖いも~ん!計略・謀略・罠に服毒までなんでもござれで殿下をねらってくるじゃ~ん、護衛の俺らみんな解毒薬常備よ?」


 側近のルースの言葉に苛立ちが増す。


「紬は俺が口説いてんだよ!絶対に邪魔すんな」


「ほんとにお前誰だよ!!!」


「クロードうるせえ!紬が起きるだろうが!」


「溺愛~!マジで洗脳系の魔法を疑った方が良さそう~!古代魔術じゃね?誰も解呪出来ない~!」


「ルース、とりあえず解毒薬はお茶に混ぜて内緒で接種頂いております。古代魔術の線で調べておきます」


「わ~お、ユアンさん、やるぅ~!」


「お前ら、うるせぇ!!」



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