追放
判決が言い渡されるとコンスとマーネは狂喜した。
コンスの父パネブは任を解かれたアルウに替わってテーベの職人長に抜擢され、マーネは現アドス職人長がアルウの監督不行き届きで解任されると、目論見通り職人長に昇格した。
さっそくマーネは邸宅にコンスを招待して作戦の成功を祝った。
「乾杯!」
二人はアラバスター製のジョッキになみなみと注がれたビールを、喉を鳴らしながら一気に飲み干すと、お互いを見合って大笑いした。
「あんたは職人長だ」
コンスが笑うと、
「あんたの親父も職人長だ。そしてあんたが世襲する」
マーネも笑ってコンスの肩を叩く。
二人の前の広いテーブルの上に、鳩の丸焼きや白身魚のフライ、モルヘーヤのスープ、白パン、そら豆のコロッケ、レタスとオリーブのサラダ、ケーキ、リンゴ、ザクロ、スイカ、プラム、メロンといった豪華な食事が次々と家人によって並べられる。
次々と出てくる料理に二人は舌を鳴らす。
マーネ婦人や子供達も一緒に料理を楽しんだ後、マーネは人払いをしてコンスと今後のことを話し合った。
「これでアルウはおしまいだ」
マーネが鋭い目で言うと、
「いや、奴は悪運が強い」
コンスの目が険しくなる。
「まさか、無期限鉱山労働だ、もう生きて帰れないさ」
マーネはそう言ってビールを一口飲んだ。
「オシリス神があいつを守っている。死刑にならなかったのもそのせいだ」
コンスの不安は収まらない。
「奴を殺すのか」
「こん棒で百叩きの時、奴の神の右手を砕いてしまえばあいつの職人としての命を絶てる」
そう言ってコンスはジョッキを握った。
「ハハハハ! そいつは名案だ!」
マーネもジョッキを握る。
「乾杯!」
二人はニタリと笑い、ビールを一気に飲み干した。
その頃、パロイはオシレイオンでの大事故のことで怯えきっていた。
ボスであるマーネからの指示だったとはいえ、崩壊したオシリスの頭部を制作したのはまぎれもなく彼だったからだ。
勿論、パロイは自分が制作したオシリスの頭部が、レプリカだったとは思いもしなかった。だからなおのこと彼は捜査の手が伸びやしないかと恐れたのだ。
ところが裁判が終わってしまうと、全ての罪はアルウにあると判決され、彼に捜査の手が及ぶことはなかった。
「俺に責任はない」
そう思いながらもパロイはアルウに後ろめたさを感じた。
「俺は命じられた図面通り制作しただけだ。大事故が起きたのも設計が誤っていたからだ」
パロイは自分が法廷に立って証言すべきだと感じていた、だが、罪が自分に及ぶことを恐れ動こうとはしなかった。
「だいたい、泥棒なんかしていたあんな馬鹿な奴に、こんな大きなプロジェクトを任せたことが間違いだったんだ」
パロイはアルウが盗みを働いたことを軽蔑し自分を正当化する口実にした。
法廷で判決が下りた翌日の早朝、アルウの刑は執り行われた。
彼は上着を剥ぎとられ、神殿内の刑場に引きずり出されると、両手を縄できつく縛られて地べたに土下座させられた。それからすぐに鞭で百叩きの刑が執行されたのだ。
刑の執行人はコンスから賄賂を貰っていたので、アルウが痛みから繰り返し悲鳴を上げても手加減しなかった。
それどころかコンスから依頼をされていた通り、アルウの右手を太いこん棒で打ち砕こうとした。
ところが、いざ棍棒を振り下ろそうとすると、刑の執行人は片足を滑らせて地べたに転倒した。
「くそ」
刑の執行人はすぐに起き上がり、力まかせにこん棒をアルウの右手に振り降ろした。
「あっ!」
またしても刑の執行人は足を滑らせ地べたを転がる。
「くそ」
執行人はよろめきながら立ち上がり、もう一度渾身の力を込めてアルウの右手を砕こうと試みた。
「ギャー」
とうとう執行人はこん棒で自分の左の脛を打ち砕いてしまった。
刑の執行人が足を骨折したことで、これ以上刑を続行することが困難となり、アルウの右手は奇跡的に助かった。
アルウが牢に戻されると、セバヌフェルは差し入れをアルウの独房に密かに持って行こうとした。
ところが今度は監視の目が厳しくて容易に彼に近づく事が出来ない。
刑の翌日、異例の早さでアルウは神殿から連れ出され、ヌビアの金の鉱山に奴隷と変わらない扱いで送り込まれた。
ペンタウェレトは刑が執行された二日後、何食わぬ顔でアビドスの神殿にやってきて、
「王子からの火急の書簡です」
ブテハメンに手紙を渡した。
無表情で手紙を読んだブテハメンは、
「オシリス像の制作総指揮の責任は免れ得ないのです」
と返事をしたためた。
コンスとマーネは嫉妬と利権のために、ペンタウェレトは物欲のために、大神官ブテハメンと宗教警察は、自分たちの面子と保身のためにアルウに全ての罪を被せたのだ。




