冬の坂道、初めての〇〇
12月。街にはイルミネーションが灯り始め、吐く息も白くなる季節。
それでも、ふたりの読書会は続いていた。
校舎裏の坂の上、あのベンチに、成瀬悠真と椎名七海は並んで座っている。
今日は本を持ってこなかった。
七海が「何もしない日もあっていいよね」と言ったからだ。
風が吹くたび、七海の髪が揺れる。その香りに、悠真の心がざわつく。
七海は、マフラーに口元を埋めたまま、空を見上げていた。
「……寒いね」
「うん。でも、嫌いじゃない。この空気」
「どうして?」
「なんだろう……澄んでて、心が静かになるからかな。君といると、そういうの、よく感じる」
悠真は、言葉に詰まる。
言いたいことがある。でも、どう言えばいいか、わからない。
七海が、こちらを向く。
「成瀬くん、顔、赤いよ?」
「え、うそ……」
「もしかして、風邪? それとも、照れてる?」
「いや、あの……その……」
「ふふ、かわいい」
その一言に、悠真の心臓が一気に跳ね上がった。
勇気を出さなきゃ。
今言わなきゃ、きっとまた、日常に飲まれてしまう。
だから、静かに、言った。
「……七海さん」
「ん?」
「好きです。ちゃんと、言葉にしたかった。君のことが、本当に大切で……ずっと、そばにいたい」
七海は、少しだけ驚いた顔をして、それから、ゆっくりと笑った。
「私も、だよ」
そう言って、七海はマフラーを少しだけ外した。
頬が赤く、目が潤んでいた。
そして――ふたりの顔が、ゆっくりと近づいた。
寒空の下。
誰もいない坂の上で、ふたりは初めてのキスをした。
それは、震えるくらい静かで、
けれど、心の奥まで火を灯すような、優しいキスだった。
風が吹いても、冷たさは感じなかった。
七海が小さくつぶやく。
「今までの冬で、一番あったかい」
悠真は、そっと彼女の手を握った。
「来年も、その次の冬も、一緒にいような」
七海は何も言わず、ただ強くうなずいた。




