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七海の涙

その翌週も、ふたりは坂の上でいつものように本を読んでいた。

けれど、七海の表情はどこか曇っていた。ページをめくる手がゆっくりで、時折、遠くを見つめるように目を伏せる。


「……七海さん、どうかした?」


悠真の問いに、七海は「ううん」と首を振る。


「ただ、ちょっと疲れてるだけ」


けれど、その声は少しだけ震えていた。


それ以上は聞けなかった。悠真には、彼女の不安の深さが、まだわからなかったから。



次の日、七海は学校を休んだ。


その次の日も、その次も。


悠真は授業中も上の空だった。七海の席がぽっかり空いていて、坂の上のベンチも、誰もいなかった。


金曜日の放課後、思い切って七海の家の近くまで行ってみた。

でもインターホンを押す勇気は出なくて、ただ家の前の公園のベンチに座っていた。


すると、すぐ近くの道から、ゆっくりと歩いてくる七海の姿が見えた。


マスクをして、帽子を深くかぶっていたけれど、すぐにわかった。


「七海さん!」


声をかけると、七海は一瞬驚いたように止まって、でもすぐに目を伏せた。


「……どうしてここに」


「学校、ずっと来てなかったから、心配で」


「……わたし、検査入院してたの」


「え……」


「また、ちょっと体調が不安定になって……お医者さんには、もう少し通院じゃなくて、定期的に入院した方がいいかもって言われた」


七海の声は、どこか遠くの空に向かっているようだった。


「だから、学校も、坂も……ちょっと、お休みしようって思ってたの」


「……なんで、言ってくれなかったの?」


「だって……きっと、迷惑になるって思った。……それに、成瀬くんが、わたしのせいで心配したり悩んだりするの、嫌だったから」


七海の目に、涙が浮かんでいた。


「わたしね、昔からずっと、自分のこと“重い”って思ってたの。病気だし、体力もないし、いつどうなるかもわからない。……だから、誰かに期待されたり、好きになられたりするのが、こわいの」


悠真は、迷わなかった。


そっと彼女の手を取って、静かに言った。


「七海さん。俺はね、君の“いま”が好きなんだ」


「……え?」


「未来のことは、誰にだってわからない。けど、今、君と話せて、手を握れて、気持ちを伝えられることが……俺にとっては、すごく大事なんだ」


七海の目から、ぽろっと涙がこぼれた。


でもそれは、悲しみだけの涙じゃなかった。


「……バカだね、成瀬くん。……でも、ありがとう」


その夜、七海から初めて自分からメッセージが届いた。


「また坂の上で、本の続き、読もうね」


悠真はその言葉を何度も読み返して、そっとスマホを胸に抱いた。

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