表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

あの子と話せた、あの坂の上へ

高校二年の春。

桜の花びらが舞い散るなか、成瀬悠真なるせ ゆうまはいつもより少しだけ早く教室を出た。

「今日は……話せるかな」


そう心の中でつぶやきながら、校舎裏の坂道を登っていく。そこには、毎日同じ時間にベンチに座っている少女がいた。


彼女の名前は椎名七海しいな ななみ

同じクラスで、同じ学年。でも、これまで話したことは一度もない。


ただ、初めて見たときからずっと、目が離せなかった。


七海はいつもその坂の上で一人、文庫本を読んでいる。

春の風が彼女の長い髪を揺らすたびに、悠真の心も揺れた。


「七海さん……!」


小さな声で名前を呼んで、でも届かないのがわかっていて。結局、彼は何も言えないまま、ただ数メートル離れた場所で風景を眺めるフリをする。


でもその日、七海が本から目を上げて、こちらを見た。


「……成瀬くん?」


突然名前を呼ばれて、悠真は心臓が止まりそうになった。


「えっ、あ、はい……」


「いつもここにいるよね。何か……話したいことあるの?」


その瞳はまっすぐで、優しくて、少し寂しげだった。


悠真は、ずっと飲み込んできた言葉を、ようやく口にする。


「君のことが……気になってた。ずっと、前から」


七海は数秒の沈黙のあと、ふっと笑った。


「じゃあ、今度一緒に本読もうか。同じ場所で、同じ時間に」


世界が少しだけ色を変えたような気がした。

それが、ふたりの恋のはじまりだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちはー 偶然、ふるまるさんの作品を見つけたものです、 作品読みました、 僕も、現実恋愛小説を書いているのですが、 ふるまるさんの作品、僕よりめっちゃ、次を期待させる感じがあって すごく面白そう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ