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⑥立てよ臣民! 帝都を魔王の尖兵らの手から守り抜くのだ!

 これまでは主に航空戦力にて攻める側の視点に立って説明しており、守る側は断片的にしか解説していなかった。故にここで述べてゆくとしよう。


 まずは城壁が、巷で云われているほどには役に立たないというわけでもないこと。要塞化した城塞都市には、たとえ航空戦力を用いても攻め入るは容易ではないというものである。


 無論これには対空能力を有しているというが大前提にはあるが、以前述べたように、側防塔を高射砲塔のごとき対空能力を持たせれば、充分に航空攻撃に対抗する防御施設となり得るわけである。


 それらをつなぐ城壁は、城内に敵の地上部隊が侵入するを防ぐはたらきをなしている。この壁を破れぬ限り、敵軍は梯子(ハシゴ)をかけてよじ登るか、城門を破ってそこより侵入するかのどちらかを選ばさせられるのである。──相手の選択肢を減らすというはたらきをなしているわけだ。


 リアル世界にては大口径砲が城壁を破壊し、それ故に土壁や土嚢、或いはコンクリート壁へと変化した。それ故に城壁そのものが完全に消滅したわけではなく、かたちを変えて生き残ったという見方ができる──ここまでが以前述べたことである。


 さてファンタジー世界に於いて、城壁を破壊する砲弾たり得るものは、なにか? 投石器、或いは魔法がこれに当たるであろうと仮定して、話を先に進める。──ここで砲弾の種類というものについて述べてゆこう。


 まず、徹甲弾というものがある。これは城壁や装甲といった硬く頑丈なものをブチ抜くものである。英語でいうとアーマー・ピアシング。略してAP弾とも呼ばれる。──投石器によって飛ばされる大岩もこれに含めてよいであろう。


 次に、榴弾というもの。これは炸裂弾、或いは炸弾という別名からも推測されるように、当たると炸裂、つまり爆発する弾である。破片で攻撃するものでもあれば、爆発にて火災を発生させる効果ももっている。英語ではハイ・エクスプロージョン。略してHE弾である。──爆発魔法はこのような効果をもつと考えてよいであろう。


 基本的に砲弾は大きく分けるとこの二種類に分類される。


 ここでいち度リアル世界に話をもってゆく。戦艦同士の撃ち合いに於いて、大口径砲たる主砲に用いられるは基本的に徹甲弾である。中小口径の副砲は基本的に榴弾だ。手法で敵艦の硬い装甲をブチ抜いて損傷させ或いは敵の砲を破壊し、副砲は艦上構造物を破壊し或いは火災を起こさせるといった使い方がされる。


 ところが戦争映画など見ていると、主砲弾が命中した際に爆発が起きている。──これは映画故に事実を無視して大袈裟に描いているものに非ず。徹甲弾の中に炸薬を詰めており、目標を貫通した後に内部で爆発するようになっているのだ。──これを徹甲榴弾と呼ぶ。近代海戦に於ける徹甲弾は基本的にこの徹甲榴弾である。


 徹甲榴弾にも種類があって、もうすこし榴弾に寄せた、つまり炸薬の量をふやし爆発力を高めたものがある。そのぶん貫通性能が落ちるため、区別して半貫通弾と呼ぶ。英語でセミ・アーマーピアシング。いわゆるSAP弾。日本軍では通常弾と呼んでいたものである。


 他には、榴弾の一種にて、弾の中に細かな粒状の弾がいくつも入っており、炸裂した際にその粒弾が散弾銃のごとくに人員を殺傷する榴散弾があり、また、対象を焼き払うことに特化した焼夷弾というものもある。


 ではここでふたたびファンタジー世界に戻る。


 このような砲弾の代わりたり得る魔法とは、なにか? 今いち度考えてみよう。


 その前にひとつ条件をつけよう。それは異世界からなにかしらを召喚するというものは除外することである。たとえば超常現象にも等しい規格外の力を持った、宇宙の法則を乱し無視するような邪神の類を解き放つことや、或いはリアル現実世界から80センチグスタフ砲などを持ち込むなどということは──無論、読者諸兄がそうした話を考えてつくるのは自由であるが──ここでは、禁止行為とする。話の根底が覆るからだ。


 その上で、考えてゆこう。


 榴弾は爆裂魔法、或いは爆発魔法であろう。火炎魔法も含まれるかもしれない。──もっとも火炎魔法は焼夷弾としての面がつよいやもしれぬが。そう考えると土属性の爆発魔法などは細かな石が飛び散って炸裂し、榴散弾のように使えるかもしれない。


 いづれにせよこれで榴弾は片づいた。──しかしここで疑問が生ずる。なるほど確かに炸裂する力は人員殺傷や、エルフの村など可燃物でできた住居を焼き払うのには適しているかもしれない。


 だが城壁はどうであろうか? 硬い石や煉瓦(レンガ)を積んだだけならばその爆発する勢いで破壊されるかもしれない。──だがそのような脆弱な構造では、地震や颱風で簡単に倒壊してしまうであろう。そのようなものは防壁たり得ぬ。当然ながら芯が通っているものと考えるが自然であろう。


 その芯は、なにか? 鉄筋もいいが、ここはもっと簡単に、土壁を芯としたほうがいいだろう。これならば生半可なものでは崩れぬ。表面で爆発したくらいでも。


 するとやはり城壁を破壊するには、徹甲弾が必要であると考えたほうがよいであろう。


 ではその徹甲弾に代わる魔法とはなにか? 硬い装甲をブチ抜くだけの貫通力をもった魔法とは、なんであろうか。


 氷の魔法であろうか。なるほど硬く凍った氷弾ならばそのはたらきをなすやもしれぬ。ゆっくりと時間をかけてじわじわと凍らせ、何層もに重ねられた氷ならば、求められたものを満たすやもしれぬ。──爆裂魔法や火炎魔法をを芯となる氷にエンチャントしておけば、徹甲榴弾として用いることもできよう。──その場合相当に高位の魔法使いが必要となろうが、ここは養成学校などのはたらきで解決するものとする。


 しかしながらその問題を解決したとて、その氷弾を、果たして敵陣に雨霰と撃ち込むことができるであろうか。氷弾ひとつを製造するのに手間がかかりそうである。──まあそこは魔法であるから、術者の力量で補うことができるものとしよう。


 だがそのぶん、術者にかかる負担は上がる。ひとりで何百何千と撃ち込むのはむずかしいであろう。ここは数をふやすことで補いたい。──信長公の鉄砲三段撃ち戦法のように、交代しながら撃ち込むことで擬似的に連発することを考えておくべきであろう。


 交代による休憩は大事である。術者も休まなければならない。魔力切れを起こしたらそれは弾切れと同じである。魔法を行使し続けたことによる肉体的疲労もまた同じ。──これは砲でも同じことが云える。あまりに連続して弾丸を撃ち続けすぎると砲身が熱を持って()けてしまうのである。


 銃砲も魔法使いも同じということであろうか。──ではやはり数を揃えなければならぬ。ここはふたたび魔法使い養成学校でこのような高位の魔導師を大量に育成するものとする。



 このように魔法にて、攻撃側は城壁を撃ち破りにくるものとして話を先に進めよう。


 では防御側はこれに対しどう戦うか?



 まず考えられることは、城壁を攻撃してくる砲を破壊、もしくは沈黙させること。ファンタジー世界に於いて砲に代わるは魔法使いである以上、その術者を攻撃することである。


 もっともわかりやすいのは文字通り沈黙させること。モンティノやサイレンスといった呪文封じの魔法にて、そもそも魔法を使わせないというものである。──しかしながらこれは妨害されたり、或いは解呪の魔法にて復帰させられてしまうことは明らかである。敵はグズでノロマな白痴のドン亀ではないのだから。


 そうなると手段は急に手荒くなる。負傷させて戦線離脱させるか、或いは殺害してしまうかである。──最も効果が高いのはやはり殺害である。死ねばそれでおしまいだからだ。(※註)故に間違いなく、敵の魔法部隊は防御側にとって最重要攻撃目標となる。──城壁を破られるまでは、他の敵地上戦力はそれほど脅威ではないからだ。


 ではどのようにして防御側は敵の魔法部隊をたたくか? まず候補に上がるは弓矢である。城壁の上という高所から矢の雨を降らせるは、他の敵地上戦力に対してもまず一番に行われる基本的戦法であるからだ。


 それら弓兵隊の中に、狙撃部隊を入れる。矢の雨に気を取られている隙を、狙いすまして突くのである。


 無論、魔法も有効である。特に範囲魔法ならば、ともすれば部隊ごと敵魔法部隊を壊滅させることも可能である。──それを嫌って敵が部隊を散開させれば、そこを矢で狙撃するのである。他の集団の中に魔法使いだけがいると目立つ。狙いをつけるにはこれほどのものはあるまい。──厄介な高位の魔導師ならば、即死魔法で確実に息の根を止めておきたい。


 とて、敵もそう易々とその手には乗るまい。先に述べたように、交代しながら攻撃しなければならぬのであるから。また、城壁を破るにはある程度集中し、かつ連続的に魔法を撃ち込まなければならぬという理由もある。すこし壊したくらいでは、工兵が修理して、せっかく開けた穴を塞がれてしまうからだ。──したがって火力集中の必要からも、各個撃破されるを避けるためにも、魔法使いはある程度集団で固まった状態でいなければならない。


 ではどのように魔法使いは己の身を守るのか? 一般的な冒険者パーティならば、僧侶が防御魔法を用いるか、鎧兜に身を固め防御力に優れた戦士が身を挺して守るというが一般的である。──ここから、魔法部隊をどう守るかを考えていこう。


 まず防御力を高めるという視点であるが、魔法使いを鎧兜で重装歩兵化するのは現実的ではない。装備が魔法に干渉し威力や精度が下がるという問題もあれば、ただでさえ低い機動力がさらに下がる、疲労がさらに溜まるという大問題が生じるがためである。散開して範囲魔法をよけることすら叶わなくなるであろう。


 では、どうするか? ひとつは比較的安全な後方へと下がらせることである。魔法部隊の前に頑丈にて防御力にすぐれるアースドラゴンなどの機甲師団や、鎧兜に身を固めた屈強な重装歩兵部隊を置いて、易々と攻め込まれないようにするのである。


 その上で、防御陣地を築く。土嚢を積んだり壕を掘るなどして、壁をつくるのである。これならばたとえ直撃を受けたとしてもかなり被害を抑えることができよう。


 また、機動力を上げて魔法の範囲外へと移動する手もある。魔法で素早さを上げるのもよいが、手っ取り早いのは馬や恐鳥やファフニールといった俊足生物に跨り、騎兵化することである。──ここに先ほどの交代戦法を組み合わせ、一発撃ったら速やかに移動し、その間別の部隊が一撃を放ち、また移動する。場所を変えたら直ちに準備にかかり、また放つ。撃てば移動し……をくり返せば、どこから魔法を撃ってきているかを相手には容易に悟らせない。


 このような戦法を取られたら防御側はお手上げ──とはならぬ。城壁という高所に陣を張っているが故、より遠くを見渡すことができるという優位をもっている。また、航空部隊からの偵察、報告により位置を割り出すこともできる。


 なんなら航空戦力にて上空より、魔法部隊をたたくこともできる。ドラゴンブレスで焼き払う、魔法竜騎士が魔法でたたく、空挺部隊が降下して魔法部隊の陣地に奇襲をかけ直接なぐりこみをかける、などなど。


 これらをを避けるためには攻撃側にも対空専門の魔法部隊が必要となる。戦闘隊が空戦にて迎撃するだけでは不足であるがためである。



 こうしてみると、攻撃側防御側という区別はあるも、戦況は目まぐるしく変化してゆく。文字通り攻撃側が押していると思えば、防御側が反撃しそこから攻勢をかけるといったように。


 航空戦力を持っているからと云って、城壁の価値が大きく下がることはなく、むしろ互いに持っていることによりその戦力が互角ならば、城壁という防御のぶんわずかに優位に立てるというところが大きそうである。


 だがこれは互角ならばということが前提にある。──もし防御側の対空能力が貧弱ならば? もし戦闘隊の能力が劣っていれば? そもそも航空戦力を保有していなければ? 城内を空挺部隊に奇襲され、飛行場を奪われれば?──そうなれば王都陥落の悪夢も現実のものとなる。


 故に備えは大事である。有事には速やかにたくさんの戦力を動員できる備えが。──ともあれこれは政治の問題にて、あらかじめそれが可能な態勢をとっておくというものである。魔法学校や航空訓練学校のような、教育・養成機関の設立といった。


 そして何よりも、都市や村を魔王軍の魔の手より守ろうという心構えである。これは士気の高さにも関わってくることである。傭兵に任せてばかりではここがよわくなる。自分たちの暮らす場所を自分たちで守るという、住民の意志が大事なのである。時には「立てよ国民! 国民よ立て!」と、呼びかけることも必要であろう。


 ──ともあれここまでくればもはや政治の話である。そのあたりの改革や整備は、王様や族長や元老院の各位に任せるとして、この話を終えることとする。


 ここまで長々と熟読いただいた読者諸兄には、まことに感謝する。

註:レイズデッドなどの蘇生魔法が存在するならば話は変わってきそうではあるが、しかし大筋は変わらぬであろうと思われる。以下にその理由をしるす。


このような大規模な戦闘ともなれば、戦死者が出るたびにいちいちそこで蘇生させている場合ではないであろう。蘇生には手間がかかる。生命はそのような軽いものではないであろうから──するとおそらく衛生兵が負傷者らとともに一旦後方へ築かれた野戦病院陣地と連れてゆき、そこで負傷者の治療のかたわら、蘇生させることとなるが自然と考えられよう。


すると結構な期間、戦線を離脱することとなり、(よほどの長期戦とならぬ限りは)戦死させたのと同じ効果をもたらすのである。

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