表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/6

 ②ファンタジー世界に於ける空戦とはいかなるものたり得るや

 我々の暮らすリアル世界にても、航空機が戦争のあり方を変えたところは多い。たとえば戦艦は敵艦を撃沈或いは撃滅、もしくは沿岸部の敵陣を攻撃するための大口径砲を搭載するものにあったが、航空機の脅威に対抗すべく対空砲を備えるようになっていった。巡洋艦も然りであり、アメリカなどは魚雷発射管を撤去して対空砲としても使える副砲の数々を搭載するに至った次第である。まこと、航空機は無視できぬ存在となったは、事実である。


 戦艦と云えば、航空機の誕生とともに時代遅れの無用の産物となった印象がつよいが、正確には正しくはない。航空機は一次大戦の頃に誕生したが、二次大戦勃発後もしばらくは、戦艦の優位はそこまで揺らがぬという考えがつよかったことは明らかである。


 それは、何故か?──さまざまな理由があるが、そこをひとつひとつ解説してゆくとしよう。


 前回、揚力について述べたが、これはいち度飛びさえすれば無限に得られるものではない。気流に乗り続けたり、一定の速度を保ち続けたりせねばやがては揚力を失って墜落してしまう。──いわゆる『失速』というものである。


 (トリ)などは自由に動かせる翼を持っているがため、羽ばたきによって揚力をふたたび得られるが、しかしそれでも一定の速度で飛び続けていなければやがて地面や枝などに降りる羽目に陥いる。固定翼機ならばなおさらであり、それ故にプロペラやジェットといったエンジンを搭載して推力を得ているわけである。


 この、一定の速度というものがなかなかの高速であり、そのため地上の目標に対し正確に爆弾を落として当てるというも、なかなか簡単なことではない。投下する爆弾にも飛行機の慣性がはたらいており、それ故に投下した場所と実際の着弾点には大きなズレが生じる。また、空中を吹く風の影響も受ける。ただ真上から物を落としたとて、狙った場所にはそうそう当たるものではないのである。


 動かない地上の目標でさえそうなのであるから、云わんや洋上にて揺れ動く艦船たるや。それも停泊状態を狙った奇襲ならばともかく、作戦行動中──つまり速度を上げて進んでおり、回避行動も取り、対空砲をこれでもかと撃ち放してくる頑丈な戦艦を、航空機のみで沈めることは不可能とされていたのである。


 実際にはマレー沖にてレパルスとプリンスオブウェールズが、レイテ沖にて武蔵が、徳之島沖にて大和という並いる不沈戦艦たちが作戦行動中に沈められることとなったが、しかしこれらにはある共通点があった。


 それは──『直掩機を伴っていなかった』ということである。


 直掩機とは、艦についている護衛の戦闘機のことである。敵機が艦を沈めんと攻撃してきた際、これらから艦を守るため迎撃しにかかるのである。──ここで、空戦が発生するわけである。


 戦闘機の話が出たがため、ここで軍用飛行機について説明しよう。


 偵察機:読んで字のごとく敵の様子を探る飛行機。敵に見つからないようにするわけであるから隠蔽性が高く、また速度もはやい。敵に見つかったときに振り切って自陣まで帰らねばならぬのであるから。


 哨戒機:簡単に云うと自陣をパトロールする飛行機。侵入してきた敵機を追い払うなりやっつけるなりする役目も帯びているから、空戦性能も求められる。(事実、二次大戦期のアメリカ戦闘機は哨戒機扱いであった)


 輸送機:武器弾薬や食料、或いは兵員を運ぶための飛行機。ものを多く詰めるようにするため大型であり、それ故に動きはにぶい傾向がある。


 爆撃機:爆弾を落として敵を攻撃する飛行機。B29やランカスターのような大型のものは『重爆撃機』とも呼ばれる。


 急降下爆撃機:単に爆撃機と呼んだ場合こちらを指すこともある。目標へ向かって急降下し、慣性の乗った爆弾を投下することにより命中率を上げるというもの。ミサイルなどの誘導兵器が用いられるまではよく使われた。


 雷撃機:ライトニングボルトのような電撃を放つのではなく、投下した魚雷で攻撃する飛行機。大型爆弾を積むこともできたので、『攻撃機』と呼ばれることも。


 大まかなところはこのようなものである。──そして『戦闘機』とは、これらをやっつけることに特化した飛行機である。故に攻撃兵器というよりは防御兵器としての面がつよい。攻撃能力を持たないとされる自衛隊が戦闘機を保有している理由である。


 空戦には基本的に戦闘機が絡んでくる。爆撃機同士、或いは雷撃機同士で空戦をやることは基本的にないからだ。飛んできた攻撃機を迎撃する、そうはさせまいとやってきた敵の戦闘機とこちらの戦闘機がドッグファイトをやる、というものがほとんどなのであるから。──領空侵犯してきた旅客機を戦闘機が撃墜するのは空戦とは呼ばぬ。


 空戦を行う関係上、戦闘機に搭載されている武器は空戦に特化したものである。基本的に武器は機銃、或いは機関砲であり、ミサイルを積むにせよ空対空のものがほとんどだ。爆弾を積んだ戦闘機もあるにはあるが、それは戦闘爆撃機(爆戦)と呼んで区別することが多い。


 速度ははやい。敵機に追いつけなければ意味がないからである。運動性能も高い。旅客機などではとてもやれない機動もやってのけられる。敵機の意表を突き、或いは敵の攻撃を回避するのに必要であるから。機体もちいさいほうがよい。そのぶん的がちいさくなるからである。


 

 ──ここまで読者諸兄が飽きて離れることを覚悟して延々とリアル世界の軍用機の説明をやってきたは、空戦、及び軍用機のはたらきがいかなるものであるかを理解していただくためのものである。


 ここより、これらをファンタジー世界に当てはめてゆく話となる。


 ファンタジー世界の空戦というもので、リアル世界の機銃や機関砲に代わるものはなにか。──まあそのまま用いてもよいのであるが、たとえば自動小銃や軽機関銃を持った天使や有翼人というものは、絵面の強烈なインパクトはあるが、人によっては珍奇に映り、剣と魔法のファンタジーにはそぐわぬと見ることも、あるかもしれない。重機関銃ともなれば──それはほとんど羽根の生えたシュワちゃんの領域であろう。


 ではドラゴンの背中にマクシム機関銃を据えつけてみてはどうだろう? なるほど新しい竜騎士のひとつのかたちかもしれぬが、絵面は新手のタチャンカにも見えるやもしれぬ。“おお(эх)タチャンカよ!(тачанка)キエフの娘よ! (Киевлянка)我らが(Наша)美しき(гордость)誇りよ! (и краса)ウクライナ(Украинская)娘らの(тачанка)四輪(Все)(четыре)廻る!”(колеса)


 ──共産主義ファンタジーとは新しい開拓世界やもしれぬが、皆が皆ソビエツキーソビエトの夢をよみがえらせ、同志書記長とともに資本主義の豚ども……唾棄すべきブルジョワを打倒したいわけではあるまい。


 得てして銃火器は血なまぐさい空気がつきまとうもの。それに無機質で、かつ無慈悲である。中には「ファンタジー世界に銃を持ち込むな」と主張する人もいるほどだ。──ここは剣と魔法の基本に立ち返ることが必要かもしれない。


 では、剣や槍というものならばどうなるものか。──地に足をつけぬ空中が戦場であるがため、平面的な戦法ではなく立体的な戦法になることは間違いはないが、しかしながら近接武器を使う関係上、たとえば有翼人同士ならば歩兵の、竜騎士やペガサスライダーならば騎兵の戦法というものが基本になるかもしれない。


 だが参考になるのはなにも人間同士の戦いに限らない。たとえばカラスは銃弾発射装置もレーザー砲ももたず、口嘴(クチバシ)という近接武器しかもたぬが、それでも真正面からのド突き合いのみならず、反撃のとどかぬ背中やケツを突くべく、巴戦つまりドッグファイトのような動きをみせることがままある。


 昆虫に眼を向けてみれば、足と嚙みつきという間合いの狭い武器なるも、その高速をもって相手の死角より飛来し、強烈な打撃を加えて抱え飛び去るという一撃離脱戦法を行うトンボがいる。


 また、蜂も参考になるやもしれぬ。互いに螺旋を描きながら高空へと舞い上がってゆく熊蜂、足にて摑み合い、さながら鎧武者同士の取っ組み合いのごとくに嚙みつきと毒針の刺し合いとなる雀蜂(スズメバチ)、集団で襲いかかり、大きな敵をも包囲し押し包む蜜蜂(ミツバチ)──と、多岐に渡っている。


 これらを取り入れるのはむずかしいやもしれぬ。文字にて表すにはあまりにも複雑怪奇であるかもしれぬ。しかしながら立体的な、すなわち三次元戦法となるがため、或いはあっと驚く新戦法を描くことができて読む者の眼を思わずうならせるものが産まれるやもしれぬ。──我と思わん人たちは、是非挑戦してみてはいかがであろうか。


 さてファンタジーのもうひとつ、魔法はどうであろうか。──こちらはリアル世界の空戦を多く取り入れることができるのではなかろうか。銃弾の代わりに火炎弾や氷弾の魔法を用いるのである。


 魔法という飛び道具は便利である。炸裂する巨大な氷塊や火炎球などは爆弾の代わりに使えるであろう。それこそ魔法をもってして『雷撃』を喰らわすのもよいかもしれない。術者の能力により追尾性能を得るともなれば、ミサイルのように使うことも可能であろう。


 ドラゴンになればブレスが魔法の代わりとなるであろう。火炎放射系は射程がみじかいやもしれぬが接近戦にては頼れる武器となる。火炎球や氷塊を射出する形式なれば砲や機銃、或いは大型爆弾のように使えるかもしれない。大型ドラゴンならば、さながら重爆撃機のごときはたらきをなしてくれるであろう。


 その爆撃機編隊を迎撃しに城より次々と上がってくる竜騎士編隊。機動性を考えるとドレイクなどの小型竜に騎乗するのが妥当なところであろう。無論、そのあたりは書き手の好みによって左右されるところが大きいが──大型竜同士の戦いになると空戦と云うよりはむしろ、空中に於ける艦隊戦に近いものとなるようにも思われる。


 空中に於ける艦隊戦をどのように描くかにあたっても、書き手によって変わってくるであろう。銀英伝の宇宙艦隊戦のように、互いに密集陣形をとった艦隊同士が睨み合うかたちにて主砲を撃ち合うかたちをとるのか、日本海大海戦のように互いに動きながらの機動戦となるのか、潜水艦隊同士の三次元戦法となるのか──これまた、無限の可能性が広がる空の大海である。


 航空戦力同士の空戦はこのようなところか。──次回からは地上の戦力も含めた、航空戦力のはたらきについてすこしずつ解説してゆくものとする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ