二度目の冒険へ
ストマメラ大陸の冒険を終えた勇者パーティーは、始まりの街にある宿屋で、永遠に近い休息を取っていた。
「この剣も、魔物がいなければどうにもならないな」
勇者リーベルは、剣の刃先を見つめながらポツリとつぶやいた。
「平和の証ですよ、よかったじゃないですか」
僧侶のトリスティが、なだめるように言う。しかし、その手には教皇の十字架が握られたままだった。
「あたしもリーベルの言うとおりだと思うわ。またアブソリュートゼロで、魔物共を凍りつかせてやりたいのに」
魔法使いパーシバルも、氷結の杖を振り回しながら言った。
「パーシバル、はしたないですよ」
「なによ、トリスティこそすまし顔しちゃって」
ケンカしそうになる二人を見て、リーベルがふふっと笑った。
「なんですか、リーベルまで」
「なに笑ってんのよ」
二人がいっせいにリーベルに食ってかかる。リーベルは釈明するように首を振った。
「いや、悪かったよ。ただ…ちょっと、むなしくなってしまってさ」
二人が今度はそろって首をかしげる。リーベルは続けた。
「ぼくたち勇者パーティーは、ストマメラ大陸に巣食う魔物を退治し、魔帝ヨーイカまで倒したのに、物語が終わってしまったとたんに、すべての時が止まってしまうなんて…って、そう思っただけさ」
トリスティもパーシバルも、なにも言えなかった。まるで使い捨ての冒険者のように、自分たちの時は止まってしまったのだから。
「…いつかまた、冒険に出られるとしても、ぼくは剣を握ることができるのだろうか」
黙りこくるトリスティとは対照的に、パーシバルが大声でまくしたてた。
「当たり前じゃない! だってあんたは、勇者リーベルなんだよ!」
「物語の中でだよ。…物語が終わってしまったら、ぼくはなんの意味も持たない。ぼくたちは、子どもたちに読まれて初めて存在できる。そんな、儚い存在なんだ」
口をパクパクさせるパーシバルだったが、やがてトリスティと同じように、口を閉ざしてしまった。
三人の間に長い、長い沈黙が流れた。暗い顔で、愛用していた武器を見つめる。と、そこに街の若者が、息を切らして飛びこんできた。
「リーベル様、大変です! 新大陸が発見されたそうです!」
いっせいに顔をあげる勇者パーティーの面々。しかし、トリスティが心配そうにリーベルの顔に目を向けた。
「リーベル、どうされるおつもりですか?」
パーシバルも不安そうにリーベルを見る。リーベルは迷いを断ち切るように、勇者の剣を一振りした。
「行こう、二度目の冒険へ! ぼくたちを待っている世界が、人々が、そして…たくさんの子どもたちがいるんだ。新大陸へ乗り込もうじゃないか!」
トリスティとパーシバルが、一気にわきたった。武器は輝きを増し、これからの冒険を祝福するかのようであった。
『勇者リーベルの冒険2 〜新大陸への航路〜』
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