07 神様、政略に巻き込まれる。
予想通り、国王の口から出てくる言葉は重たいものばかりだった。
まず例の謁見のあと、私を勢力に取り込もうと考える貴族が現れ始めたらしい。今は国王が抑えているが、私を取り込みたいと考える貴族たちが増えて団結すればそのうち制御できなくなるらしい。
なんとも面倒くさいことに巻き込まれてしまった。最近の他の生徒たちの動きを見ればわかることだが、私を取り込むために自分の子供たちを使っているらしい。
私の親と比べたらそこまで最低でもないと思えてきた。親として終わってるランキング堂々の一位だよね。
「それで、私はどうやったらその勢力から逃げれるんですか?」
「セリアナ、そんな簡単に逃げれるなら誰も苦労しないぞ。」
やっぱり逃げれる方法はないのか、面倒くさいな。
「とりあえずはアルディック殿以外の貴族から婚姻話を持ちかけられたら必ず断れとしか今はいえないな。」
「待って、なんでアルディック?」
「それは、アルディック殿は邪なこと無しにセリアナ嬢と関わっているからだな。」
「なるほどね。アルディックは獣じゃなかったんだ。」
「獣ってなんだ、獣って。」
「え、男って女の子の体を狙ってる獣じゃないの?」
「そういうのは一部の男だけだ、普通は狙わないし獣じゃない。」
初耳だった、どうやら私は盛大に勘違いしていたらしい。
あれ、というか今のうちにアルディックと付き合えば変なことに巻き込まれないのでは?いや、やめておこう。
「王城に長居するのも他の貴族たちに怪しまれるか。そろそろ帰るか?」
「はい、そろそろ帰らせていただきます。行くわよアルディック。」
よし今すぐ帰ろう。私はすぐにシャキッとなり立ち上がる。行きと同じようにアルディックの腕を掴んで連れて行こうとする。
「わかったわかった、行くから。とりあえずその手を離してくれ。」
「あ、ごめん。」
私は力を入れて握っていた腕を解放する。
「腕が使えなくなるところだった…」
「大丈夫よ、腕の1本2本なら生やせるから。」
「なんだその秘術は、国がひっくり返るぞ。」
「気にしないで、なんかできちゃっただけだから。」
そう言って私は国王の部屋を出る。それを見たアルディックも慌てて私についてきた。
廊下を見ればキラキラとした照明が目に入る。ん?キラキラした照明?
完全に忘れていた。この王城には私の天敵がたくさんあるんだった。そのことを思い出した時にはもう遅く、次記憶が鮮明に思い出せるのは馬車に乗った直後だった。
国王は預言者か何かなのだろうか。私が国王から気をつけろと言われた日以降、呼び出されることが増えていた。
「それで、私をここに呼び出して何の用ですか?」
「君は世界統一に興味はないかい?君の力があればこの国を支配するのだって容易いし、それを有効に活用することができる。
そしてこの国を支配した後は隣国を、その次は周辺国をと段々と支配して行くんだ。素晴らしいだろう?」
うわぁ、出たよ面倒な人間が。こういう人って脅したらすぐ折れるよね。
「もし国を支配できたとして内政は誰がやるんですか?」
「それはもちろんこの僕がやるのさ、君は力を使っているだけでいいんだ。」
「そうですか。ちなみに言っておきますが私はやりませんよ。」
「何故だ!?君のような女は力だけ使っていればいいんだぞ!?」
目の前の人間は声を荒げて私に殴りかかってこようとする。
なんだ、ただの馬鹿じゃないか。自分の意見が通じないからって殴りかかるなんて。
はぁ。と私はため息をつきながらその拳を掴む。
「男だから力が強い、男は女になんでもやらせることができる。そう思ってるんですか?」
「え?」
私に拳を掴まれた男は素っ頓狂な声をあげる。
「残念でしたね。あなたが得ようとした力は、今あなたに向けられています。
私は世界征服になんて興味ありませんし、この国に反逆するつもりもありません。
ただ平穏さえあればいいんです。でもそれを壊そうとするなら私は全力で止めないといけない。」
私は掴んでいた拳を解放する。すると男は力が消え失せたように地面に座り込む。私を見る目には恐怖というただ一つの感情だけが感じ取れた。
「ああ、一つ言い忘れていましたね。この国では反逆は死罪なんですよ。死にたくなかったからさっさと失せてください。」
「は、はいぃ!」
私の言葉がよっぽど効いたのだろう。顔を真っ青にして逃げて行った。
疲れた。こんなキャラが濃い奴なんて中々いないぞ。
「お疲れセリアナ。相変わらずスッキリする断り方だったぞ。」
「ひゃっ!?」
考え込んでいたせいだろうか、いきなり声をかけられて変な声を出してしまった。
「びっくりした。アルディック、いつからそこにいたの?」
「いつからってさっきからだが、お前もそんな反応するんだな。」
「なによ、私がそういう反応しちゃいけないの?」
「いけないわけないだろ、ただ珍しいって思っただけだ。」
「いつも私は気配で近づいてきてるのがわかるからそういう反応しないの。
気づかなかったら私だってびっくりするわよ。」
「そんなに気づかなかったか?」
「うん。全然気づかなかったよ、どうやったの?」
「雷魔法を応用したんだ。前聞いたんだが、人から出ている微弱な雷を打ち消すようにしたんだ。」
なんだその技術、もしかしなくてもアルディックは天才なのか?
そしてその天才に人が微弱な電気を纏っているのを教えた奴は誰だ。あ、私だった。
「雷属性って色々扱いやすそうね。羨ましいわ。」
「お前は3属性も使えるんだからいいだろ。」
「水と火と風って絶望的に相性悪いと思わない?」
「確かに悪いが、それを使って入学式の時に爆発させたのは誰だ?」
「私です。」
「そうだな、でもセリアナは普通じゃ知らないような知識があるんだ。それを使えば相性が悪くてもなんとかなるはずだ。」
なにそのフォロー、イケメンすぎない?
「そうね。ありがとうアルディック、少しだけ気が晴れたわ。」
「そうか、ならよかった。」
「うん。でも今度からは気配を消して近づいて来ちゃダメだからね?」
「また可愛いセリアナが見たくなったらやるさ。」
やらなくていいからね?本当にびっくりしたんだよ?
言っても無駄な気がするので言わないでおこう。今度からは警戒を怠らないほうがよさそうだな。敵は案外近くにいるのかもしれない。
「やっぱり学校終わりは布団に寝転がるのが最高ね。」
部屋に戻った私は真っ先に布団に飛び込んだ。毎日のように告白を振るのは流石に疲れる、精神的な意味で。
いっその事この部屋を快適に改造してしまいたい。でもそんな事をするとセイに変な目で見られるだろうからやめておく。
せいぜいできるのは神の力で遊ぶことくらいだろうか。
私は右手を上に上げて火を出したり引っ込めたりさせてみる。なにが楽しいのかよく分からない。
「それで、さっきからあなたは隠れているつもりなんですか?」
私がドアに向かって言うと、それに返ってくる声があった。
「ここまでやってもバレているんですの?」
「そりゃバレますよ。さっきまでドアを叩く音がしてたのにいきなり音が消えたら。」
「そうなんですのね。今度から気をつけますわ。」
さてはこの人また来る気だな。
「えっと、なんであなたは私の部屋に?」
「あなたじゃなくてフィオナですわ!」
「それは失礼しました、それでフィオナ様はなんで私の部屋に?」
「遊びに来たのですわ!」
「そうなんですね。」
フィオナ・レコード、シルバーベール王国4大公爵家の一つレコード家の令嬢だ。まずい人物に目をつけられたな。
少し話してわかったが、彼女は自分から私に関わってくるような性格じゃない、恐らくは親であるレコード公爵に私に関わってあわよくば取り込んで来いとでも言われているんだろう。
公爵も可哀想なものだ、こんな純粋な娘では後を継いでも苦労するだけだろう。
とりあえず話が変な方向に向かないようにしよう。
「セリアナさんはどんなお菓子が好きなんですの?」
「そうですね、甘めのクッキーとかでしょうか」
「わかりましたわ!今度来る時は必ず持って来ますわね」
この人本気でまた来る気だな。とりあえず要件を直接聞いてみるか。
「その気持ちはとてもありがたいんですが、なんでフィオナ様は私のところに来たんですか?」
「お父様がセリアナさんと仲良くできると言っていたからですわ。」
思った以上に素直だな。もしかして彼女は政略とか何もわかってないんじゃないだろうか。
もしかしたら何も分っていないふりをして私から情報を抜き出そうと言う魂胆かもしれない。しばらくは警戒をしておこう。
「そういえばなんでセリアナさんの所はノックをしてもドアが開かなかったのかしら?」
「多分、いきなり公爵令嬢のフィオナ様がいらっしゃったので驚いてしまったんだと思いますよ。ほら、あそこで小さくなっていますし。」
私が指を刺した方をフィオナは見る。そこには何故か縮こまっているセイの姿があった。
まぁ、噂に聞いていた公爵令嬢がこんなに距離を詰めて来たら怖いよね。私は気配で気づけたからいいけど。
「あれ、フィオナ様?近づくと余計怖がらせてしまいませんか?」
「いいのですわ、こういう時は話すのが1番手っ取り早いんですわ」
そう言ってフィオナはセイに近づく、心なしかセイの震える速度が速くなったような気がする。
「そこのメイドさん。そんなにこわがらなくてもいいんですわよ?」
「そこのメイドって、私しかいないですよね。」
セイは恐る恐るフィオナの方を向く。顔には恐怖がにじみ出てる。
「なんでそんなに私のことを怖がるんですの?」
「それは、フィオナ様に何かあったら私の首が飛ぶかもしれないからです。」
待て、家のメイド怖がってる割に物凄く本音を言ったな。
「そうでしたのね、だったら私フィオナ・レコードの名で約束しましょう。
私は何があってもあなたの首は飛ばさせません。
それでいいですわよね?」
「は、はい。」
なんだろう、家のメイドもそうだがフィオナもだいぶ、いやかなり変だな。
貴族社会において家名を使って約束するのは命をかけるのと同義なのだ。この人って多分賢い馬鹿なんだよね。
テストだとよく成績上位者で名前出てるし、貴族の礼儀作法も完璧だ。つまり今の行動は多分無意識で行われている。
もしかしたら家のメイドはそのうち懐柔されるかもしれない。
1人のほうが色々やりやすいか、だったら懐柔されてもいいのかもしれない。
でもやっぱりセイの入れた紅茶が飲めなくなるのはちょっと嫌かも。懐柔されないほうがいいな。
そう思いながら、すでに打ち解けつつある2人をベッドの上から見るのだった。