第八話 そして星になる
村長の一撃はロックスの右腕を砕いた。
しかし村長は…死んでしまった…。
頭に流れるのは村長の姿。
出会ってまだ日は浅いが彼がどれほどの人格者なのかは分かっていた。
いつもニコニコしていて、村のみんなに優しく、俺たちのために命まで捧げてくれた男の姿を。
俺はそんな村長にどこか憧れていたのかもしれない。
かっこいいなとかすげえなとかの安直な感情だが心のどこかで尊敬できる人だと思っていた。思っていたのに…。
「うおおおおおおおお!!!!」
何もできなくても良い。何かしろ。
死んでもヤツに一杯食わしてやるんだ。
このまま村長の死を無下になんて出来ないだろ…!彼が何のために命を賭けてくれたのかを考えろ…!
俺が…俺が彼の代わりに村を守るんだろ!
腕を突き出し魔法を撃つ構えをとる。
湧き出す怒りと使命感に本も俺の思いに共鳴したのか、先程の村長と同じような水色の光を放ち輝き始める。
『アンドロメダァァァ!!』
呼びかけに応じて本は更に輝きを増し、体に通う魔力量がぐんぐんと増加する。
「な、なんだこの魔力は…!?しかもこのオーラ…これはまるで…!」
ロックスに初めての動揺が見えた。
チャンスだ。今しかやれる時はない!
ただで死んではやらないぞ。
俺は過去にネットの掲示板で生きた身。
最初に手出ししてきたのはお前らの方だ。
だったら反撃されるのも覚悟の上だろ…!
「死ね…!ロックス…!!!!」
体全身に溜めた全魔力をロックス目掛けて思い切りぶっ放す。
なんの魔法を使ったのかも分からないがヤツに傷をつけれるなら何だって良い。
水色に輝く魔法は周辺の大気、地面、全てを飲み込んで飛んでいく。
大地が揺れ、光が照らす。
魔法がロックスに触れた瞬間、世界を轟かす轟音が鳴り響き、まるで星と星の衝突かの如くエネルギー爆発を巻き起こした。
地面が割れ、まともに立ってもいられない状況。
だが、俺は走った。
もう動く力なんて残ってない。
魔力もない。
それでも走った。
動くたび全身に激痛が飛び交うがそんなもの気にしてなんかられるか。
走れ、走れ、走れ!!
—————
「ぐふっ…今の魔術…!あれはなんだ…!?人間が使用できる領域を遥かに超えている…!!なんなのだあの少………!!??」
ロックスが言葉を止めたのは先ほどの魔術によって生じた爆風から突然俺が現れたからだ。
お前があれぐらいで死なないのは予想済みだ…!!
俺の技で死ぬようなやつが村長を殺せるはずがないからな!
「なっ…!?お前は…!!」
「村長の仇だ…!!」
俺はそのまま飛び出した勢いでヤツを殴り飛ばした。
魔術が直撃していたため、体のあちらこちらにヒビが入っていた。
だから俺の弱いパンチでも体が粉々になるぐらいにはロックスは弱まっていたのだ。
ピシピシと骨身が割れ、ヤツの体はバラバラに砕け散った。
しかし俺も先ほどの大魔術で魔力を使い果たし、魔力切れでロックスの頭蓋骨及び残骸の横へと倒れた。
上出来だ…。
まさか倒せるなんて思ってなかった。
命賭けて頑張ってみるもんだな人間って。
「少年…。見事であった…。名は?」
「…マナだ。」
「ではマナよ。私を楽しませた褒美に教えてやろう。ホシは死んではいない。急所を外したのだ。回復魔術をかければ起き上がるだろう。…私にも情というものがあったのだ。」
ふっと自虐的に笑うロックスだが、俺は目を見開いた。
村長が生きてる…?
コイツ、わざと殺さないでくれたのか?
「い、生きてる…?」
「私とて好き好んで人間を殺したい訳じゃない。魔王様の命故に仕方なく行っていたのだ。ホシは私の良きライバルでもある。友を失う訳にはいかぬだろう。」
あれ…。コイツ、そんなに悪いやつじゃないのか…?
まあ良いや。今は村長が生きてる事を喜ぼう。
俺の頑張りも多少は報われた、よな。
いでででで…。
安心したら体中に痛みが流れてきたな。
「そうか…。良かったよ。安心だ。」
とりあえずホッとしてため息をつくと近くから足音が聞こえてきた。
聖女様かな…?それにしてはなんか音がドスンドスンしているというか、ベタベタしているというか…。
「ケッ!なにが安心しただよゴミども!」
一ミリでも聖女様かと思った俺を罰してくれ。
現れたのはゴブリンとオークの群れ。
先頭に立つ背の高いゴブリンがニタニタと気色悪い顔を浮かべて俺たちを上から見下ろしている。
がコイツも言語を理解しているとなると相当な手練れなのかもしれないな…。
「人間のガキと死に損ないのジジイも殺せねえ役立たずのホネが!使い物になりゃしねえぜ!」
「キサマら…。死にたいのか…?」
「何が死にたいのか?だよ!頭だけでどうやって殺すんだ?ガイコツさんよお!?なあお前ら!?」
群れから笑い声がどっと起こる。
その笑い声はなんていうか不快極まりない。
下品で野蛮な笑い声だ…。
それにコイツらロックスの言葉に従わない。
俺の体をドカドカと蹴り飛ばし、ロックスの頭蓋骨を足で踏みつける始末である。
このゴミ野郎どもめ…。
ロックスがやられたのを良い事にしゃしゃり出てきたのか…!
「ぐっ…!」
俺とロックスが戦えばこんなヤツら相手じゃない。だが、今はお互い動けない。
うつ手がなくなってしまった…。
これは…俺のミスだ。
怒りに我を忘れて村長が生きているかも確認せずにロックスを攻撃してしまったがために起こった事故。
クソ…。なら俺はどうしたら良かったんだよ…!!
「へっへっへ。このホネを殺せばボスの地位はオレ様のものだ!なあそうだろうお前ら!?」
「ボース!ボース!ボース!!」
「そういう事だ!だからさっさとオレ様のために死にやがれ!!」
歓声が沸き起こり熱気が俺たちを包む。
どうしてこうもゴブリンってどの異世界でもクソヤロウばかりなんだ…!
スライムの国のゴブリンを見習ってくれ。
「すまないマナ…。私の直属の部下ではないが故の失態だ…!」
「……。」
ロックスがこう言うということは、どうする事も出来ないということだろう…。
嘘だろ…?こんな奴らに殺されて俺の異世界生活は終わるのか?いやだ…。いやだ…!
「遅くなりましたね。」
一人の女神が戦場に舞い降りた。
—————
『神なる力は我が力。愚かなる愚者に死の裁きを与えん。』
「あ、あがあああああ…!!!」
馬鹿騒ぎしていた魔物達が突然苦しみ始めやがてバタバタと倒れ始める。
泡を吹いているところを見ると…死んでいるようだ。
「マナ!!大丈夫ですか!?」
声の主は聖女様だった。
ああこの声この顔は安心するなあ…。
聖女様がいるだけで場があったかくなる。
今まで震えてたのが嘘みたいだ。
しかし今は急を要する。
「聖女様…!僕よりも…村長様を!」
「…!分かりました!」
聖女様は村長の治療を始めた。
これで村長は助かった…。
ああ…。良かったあ。
魔物は全滅、ロックスも無力化した。
村は救われたんだ。
「お前は…。聖女か…!姿が消えたと思っていたが生きていたか。」
「お久しぶりですロックス。…あなたが相手では今のホシなら厳しいですね…。」
「そうでもない。私はホシに勝てたとは言えぬからな。最後の一撃は若かりし頃よりも見事なものであった。守るものがある…というのがヤツの強みなのだな。」
「ふふ。そうですよ。」
聖女様とロックスは面識があるらしい。
まあ村長は昔から聖女様と一緒にいたらしいし知り合いでもおかしくないだろう。
しかし意外にも親しげだ。
やっぱりあんまり悪いやつじゃないのか?
「そしてマナ。お前も素晴らしかったぞ。
発送、技術、特筆すべきはその勇気。どれを取ってもお前は良かった。自分の力を誇り、磨け。」
「え?あ、ああ。」
なんかさっきまで命を懸けて戦ってた敵に褒められるのは不思議な感じだけど…。
悪くない気分だな…。
今のロックスを例えるとしたら勇者と魔法使いの少年に惚れ、人間の良さを知ったあのワニの魔物、といったところか。
—————
しばらくして村長が目を覚ました。
「ぐぬ…。完敗だロックス。格段と腕を上げたな。」
「お前もだホシ。だが私に止めを刺したのはお前ではないぞ。」
村長は俺の方を見る。
「ああそうだな…。マナよ。お主には助けられてばかりじゃな。すまぬ…。」
「い、いえそんなことは。」
「謙遜することはない。なにせお前は今までホシが倒す事ができなかったこの私を倒したのだ。」
な、なんだよコイツ。
急に褒めてくれるじゃんか。
ホントにクロコ○イルみたいになっちまってるじゃない…。
まあだけど俺もコイツのことはあんまり嫌いじゃない。
圧倒的強さ、カリスマ、正直憧れるぐらいだ。
村長を殺さないでくれてた時点で他の魔物と違うというのは分かってたんだ。
だけど、村を破壊したのは許せない。
それは別の話。許されるものじゃない。
「なあ、ロックス…さん。俺はまだアンタのこと恨んでる。村を傷つけやがって。何人被害にあったと思ってるんだ。…だけど強さについては尊敬してるよ。俺に足りないこと気づかせてくれた。だからありがとうだ。」
こう言うことは素直に言っとくべきだろ。
俺がまだまだ弱いということに気づかせてくれたのも事実だし。
感謝は伝えるに越したことない。
相手が魔物でも、な。
「ありがとう…か。」
「ロックス、そこは素直に喜ぶべきですよ?」
聖女様は村長の回復が終わり俺を回復してくれている最中に言った。
「そう、だな。では私からも言っておく。きっとこれが私の最期となる。今まで世話になったお前らには言うべきだろう。聖女、ホシ。お前らとは長い付き合いだ。ライバルであってくれたことに感謝する。そしてマナ。村の事、すまなかった。だが最後に楽しい時間をありがとう。」
言い終えた時、ロックスは前触れもなく消えていった。
体が灰のように散り散りとなって空に飛んでいく。
「アイツめ…。粋なことして勝手に消えおって…。」
村長はいつのまにか夜となっていた空を見上げながら呟いた。
その顔は嬉しそうであり少し寂しそうだった。
夜空に一つ、星が輝いた。
明日も投稿あります!
よろしくお願いします!




