第三十六話 久々の我が家とこれから
♪〜♪
なんの音…あ、これ最近ハマってたネトゲのBGM…。
「…は!?」
ガバッ
そこは薄暗い部屋の中。
俺が寝ていたベッドの横にある机の上にはパソコンが光を放ち、軽快な曲を流していた。
壁一面にはVtuberのタペストリーやらゲームのポスター、漫画とか映画の付録がおびただしく貼られている。
床には所狭しとゲームソフトや本体、箱が転がってた。
「ここ…俺の部屋じゃん。」
そう、ここは俺の部屋だったのだ。
かなり久々に見たこだわりのグッズやゲームたちを見て少々感傷に浸っていたが、段々と意識が戻り始め、事の重大さに気づいた。
「あれ…!?俺なんでここに…!?アストラは!?」
先ほど、大魔王アストラに体を真っ二つにされて意識がなくなったと思ったら…どう言うことなんだ…?
「ハハ…まさか夢オチなんて言わないよな…?」
ベッドから降りて部屋を出る。
向かう先は台所。棚から百均で買ったガラスのコップを取り出して蛇口を捻る。
ジャー……
「ん…ん…ぷはあ…。」
一体なぜだ…?俺はなんでここにいる…?
生ぬるい水が身体中に行き渡り、じんわりと記憶が鮮明と蘇り始めてきた。
「あれ、そういえば…!!」
ダッ!!
ふと疑問が頭をよぎった俺は急いで洗面所へと走り出し鏡に飛びついた。
普段鏡なんか見ない俺ん家には鏡が風呂の中しかねえ。
がららら
少し床が濡れていたから履いてた靴下がひんやりと濡れたがお構いなしだ。
「な、なんでここにいんのに…!!」
鏡に映し出されたのはボサボサな髪に眠たそうなショボい目をしている以前の俺じゃない。
写っていたのは…燃えるような赤髪を後ろで結んだ子ども…その目は青と紫のオッドアイ。
この姿はまさしく俺の異世界での肉体、マナそのものであった。
ーーーー
「どういうことだ…?これ…夢なの…?」
これが現実だとはにわかには信じ難い…だけど…
「う、うまい…美味すぎる…!!!!」
クッソ久々に食べたカップラーメン…トびそうなぐらいうめえ…!
それに…
「そこ!射線切って…裏取ろ!ナイスナイス!!良いエイム…よおし!!!!」
マナの体には大きいが元々持ってたヘッドセットを装備してfpsゲーへといざ出陣。
流石にこの体だと声が違いすぎるので身内は誘えないから野良で仲間を集い、今までやれなかった分ひたすらやりまくる。
「ああ…楽しい…っぱ最高だなゲームは…。」
そうだよ、やっぱり俺は命賭けて戦うよりもこうやってゲームやってた方が楽しんだよ…
ピロリン♩
「ん?通知?」
通知が来たらしいので確認してみるとそれはかつての俺の数少ない視聴者の一人、‘’風邪引いたカカシ‘’さんだったのだ。気になる内容はというと…
『マドカさん!!急にごめんなさい!でも最近突然オフラインになっちゃって…でも今見たらオンラインになってるじゃん!ってなって勢いでゲーム内メッセしちゃいました!w今までどうしてらしたんですか!?また配信始まるの楽しみにしてます!』
''マドカ''というのは俺の配信者名でもあり現実での本名だ。そんでこの人は配信でやってたゲームで知り合ったゲーム仲間。
口ぶりからして女の人かな。
もし男でも多少キツイが仲良くなれると思う。
「もし異世界に転生して戦ってたなんて言ったらなんて言うかなあ…信じてくれるかなあ?それとも嘘だって言うかな。」
…異世界…か。みんなどうしてるんだろうなあ…。
「聖女様大丈夫かな…それにあのまま倒れっぱなしだったジャックとカーフェも…それに村長や村の人たち、父さんと母さん……そして…。」
「アンドロメダ…。」
ツウー………
「あれ…?俺、こんな事やってて…良いのかな…?」
涙と共に伝わってきた思い。
俺は…行かなきゃいけないんじゃないのか…?
戦わなきゃ…やらなきゃ…みんなを…!
ピロリン♪
「また…通知?」
二件目の通知。内容を見てみると…
『マナ…マナ!大…大丈夫…!?』
脳内にアンドロメダの声が響く。
「アンドロメダ!?俺だ!マナだよ!俺は大丈夫!生きてる!どうやってそっちに戻れば良い!?」
そうだ、行かなきゃ。
こっちの世界に俺を必要としてくれる人がいるようにあっちにも俺を必要としてくれる人が俺を待ってるんだ!
『あのね!まさかとは思うんだけど…!君は死んでないんだ!生きてる!君が元いた世界と私たちの世界は一緒だったんだよ!!』
「…え?」
何…言ってんだ?あの異世界と俺が居た世界は一緒…?どゆことだ…?
『うーん…私もよく分からないけど…とにかく!簡単に言うと君の世界とこっちの世界は別の星なだけで同じ宇宙にあるんだよ!そして多分、私が元々居た世界はマナ!君の世界と一緒だ!』
「同じ…宇宙にある…?」
…は?マジで?じゃあ俺がいるこの世界にある宇宙にあの異世界があったって言う事なのか…?マジかよ…意味わからん…!
「と、とりあえず!アンドロメダ!俺はどうやったらそこに戻れる!?」
『えっとね…!あっちでの君の魂が傷つきすぎてこっちの世界に戻ってきちゃったらしいんだ!だからもう一度!''神の書物''を呼んで!!』
「分かった!」
よし…イメージしろ…。
何度も一緒に戦ってきた俺の相棒''神の書物''の姿を…!
「ふーっ…。」
思い出せ…共に戦ってきた日々を。
村長と共に戦い、牢屋に入れられ、ジャックたちと出会って強敵を倒し、そして…アンドロメダと出会った日々を…!
決意しただろ…アンドロメダを助けるって…賢者をぶっ殺すって!
全部終わらせるまで…呑気になんか出来ねえだろ!
「ごめん…カカシさん。俺、もうちょいあっちに行ってくるよ。」
スウウウ……。
体から青く輝く宇宙のようなオーラが流れ始める。オーラの中で煌めく星々は赤や白、青や黄と色とりどりに輝いていた。
しかしその全てが神秘的で神々しい。
「これは…」
これはまさしくあの時見た…
『''神星闘気''…!』
アンドロメダも驚いている。
俺は手のひらに本のイメージを集中させ、''神の書物''を具現化させようとする。
すると''神星闘気''が手に集まり、形を形成し始めて、やがてそれは光り輝く一冊の分厚い本、''神の書物''となったのだ!
手に握られた本のページが突然開き、またも眩い光が薄暗いリビングを照らす。
「…!」
目の前に立っていたのは…青く輝くドレスを纏ったアンドロメダだったのだ!
彼女は俺に微笑みかけ、そして俺の元へと飛び込んできた。
「マナ…!マナ…!良かった…生きてて!」
「言っただろ?君を助けるまで死なないって。だけど流石にあれは死んだと思ったな…。」
冗談っぽく言ったけどアンドロメダは泣いたまんまだ。
だけど俺もまた会えて良かった…。
「アンドロメダ、あっちに戻ろう。どうすれば良い?」
するとアンドロメダは手を差し出してきた。
「私の手を握れば行けるよ。てゆか多分、本が本の形じゃなくて人の形の私になったから魔法も私と触れてれば出来ると思う!」
「おっけー…それじゃ準備は良いか?」
こくりと頷くアンドロメダの澄んだ紫紺の目には俺の姿も写っている。
たはは…もれなくアンドロメダと瓜二つ。
両眼も紫紺となり、赤色の髪だけが原型をとどめていた。
「よし…じゃあ戻ろう。戻ってアストラをぶっ飛ばすんだ!」
差し出された小さくて白い手を握り返す。
キュイイイイン…!!
周りがスターオーラで包まれ、俺の視界にあった我が家が段々と消え始める。
「大丈夫…俺は俺。マナでもあってマドカでもあるんだ…。また戻ってこれるさ。」
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しばらくし、オーラが晴れ、外の景色が見えた。
「ッ!ジャック!」
すると見えたのは先ほどまで俺とアストラが戦っていた崩れたロゴス城跡。
アストラがジャックとカーフェを持ち上げ、止めを刺そうとしていたところだった。
「お前は…本の虫!?それにその子は…アンドロメダ…!?」
アストラがこちらを見る。
その顔は初めて見る驚きの表情が浮かんでいた。
「お前、どうやってあそこから復活した?おもしれえ!だが戻ってきたところでさっきの二の舞だぜえ!」
アストラの体に眩く光る''神星闘気''が流れる。
「やるぞ…アンドロメダ!」
「うん!」
俺たちは再び手を握る。
俺とアンドロメダの握られた手から青く美しいオーラが二人の体を覆う。
「なっ!?お前らそれ…スターオーラじゃねえか!!」
「覚悟しろよアストラ。俺はケトスを殺す。そして聖女様を返して貰うぞ!」
「…ハハ…ハハハハハハ!!おんもしれえ!やってみろ!スターオーラ対決!いいじゃん!おもしれえじゃねえかあ!!マナァ!!」
頂上対決、ここに始まる……。
引き続きよろしくお願いします!




