第三十二話 ''凄惨のライザック''
「な、なんだこれは…!何が起ころうとしているんだ…!!」
ロゴス国第二王子ベラクレスは第一王子イタイタスの騒動から一ヶ月あまりが過ぎた今、またも窮地に立たされていた。
「王子サマ。この感じ多分魔族がくるよ。国の人を守りたいならどこかへ避難させるべきだ。」
「この反応、かなりの数だ。軍勢だよ。」
ベラクレスにそう伝えたのは後ろからやってきた二人。
あれ以来、王子に雇われたボディーガードの''狂人''のジャックと''死神''カーフェ。
「にゃに?また戦えるにゃ?」
ぴくりと大きなもふもふの耳を反応させたのは同じく三人のボディーガードの一人、''野獣''のベル。
「ま、魔族だって?それにさっきのあの老人のような声…。あれは前にマナ君を殺そうとした男の声にそっくりだった…。何か関係しているのか…?」
ベラクレスはベルに国民を避難させてもらうよう頼み、思案に耽った。
しかし突然、大地が揺れた。
「…ベラクレスサマ。ここに向かってきてる。それもとんでもなく強いヤツがね…。ボクたちの後ろに隠れててよ。カーフェ。」
「うん分かってるよ。」
ジャックとカーフェが構え、ベラクレスの前に立つ。
玉座の間はガタガタと振動し、家具や天井に吊るされた明かりが落下する。
「…来る…!」
バリイイイイイン!!!!
大きな窓ガラスが轟音をたてて砕け散り、何か王の間へと足を踏み入れた。
「''凄惨''のライザック見参ッ!!!」
禍々しく入り組んだ二対のツノ。
大きく開かれた口から見える鋭く光るキバ。
そして体中の至る所に描かれた魔法の術式のような紋様。
「おでまし…のようだ。」
ベラクレスら三人の前に立ちはだかるは魔族の軍勢。
その先頭には明らかに他の者とは異質な魔力を放つ者がいる。
「''凄惨''のライザックかあ…。かなりの大物がきちゃったね。これを私とジャックと…あとそこの兵士さんたちだけで相手をするのはきついねえ…。」
カーフェが苦い顔をして言う。
「カーフェ…あいつを知ってるのか?」
「知ってるも何も言わずと知れた大魔族だよ。あれの体にある紋様、あれは魔術の術式が刻まれているんだよ。」
ベラクレスの問いに淡々と答える。
「ほう?なんだエルフ?我を知っておるのか?」
''凄惨''のライザックと名乗った魔族が興味深そうに聞く。
「…君には昔世話になったからね。」
「ハハハ!!お前あのエルフ村の生き残りか!なら我を知っておるな!そして憎んでおるな!良いぞ!我はお前のような奴と戦うのが存外好きなのでな!」
「ささ、話はそこまでにしようじゃないか?それで君たちはあの賢者の声と関係があるのかい?」
ジャックが話を遮った。顔にはいつもの余裕そうなニヤけ面がない。
「その通りだ。我ら魔族、魔王様に自由にしてよいと許可されてな!さあ!思う存分暴れさせてもらうぞ!!」
「構えろ!!」
戦いが始まった。
—————
「フハハハハ!!やるな!人間!!」
ライザックに能力''アトリエ''を使用したジャック。
確かに効果はあるが、全てを破壊する奴に対してはさほど意味がないように見えた。
「チッ…あまり効いてないな。」
「次はこちらの番だぞ!!」
ライザックが腕をジャックへと向ける。
『ディアスフィンドネーゼ!!』
グシャアアアア!!!
「…ッ!!!!」
ライザックの腕から飛び出た真空波のような魔法がジャックの右腕へと命中。
すると、腕は音を立てて肉が裂かれていき血がブシャァと噴き出す。
「ほう。力を加減したとはいえ死ぬことはおろか体の形も保っているとはな!おもしろい!!」
「ふうん…。厄介や魔法だ。」
「ごめんごめん言うの遅れてた。あいつの体に刻まれてるのは相手を''八つ裂きにする魔法''だよ。よく生きてたね。」
「お、おそいな…。」
服をビリッと破り、血が垂れる腕に巻き付ける。応急処置だ。
「さてさてここからが本番だよ。''ユグドラシル''」
ジャックの体を熱が帯び、周辺の空気すらもジュゥゥと焦がす。
「ほほう!神級クラスの火魔術か!あれで終わっていれば興醒め!さあいくぞ!!」
再び激しい攻防が始まる。
「隙あり…!」
二人がかりでライザックを攻めている時、カーフェが一瞬の隙を突いた。
わずかながら意識がジャックに傾いた瞬間をだ。
「甘い!!」
しかし大鎌ごと奴の大きな手に掴まれてしまう。
『ディアスフィンドネーゼ!!!』
バキ…バキバキ…!!
「ちっ…!」
カーフェの大鎌は粉々に砕かれ、その余波は腕にまで広がり、鎌から手を離さねば引きちぎられていたかもしれない。
「どけ!」
隙を突いた隙を突く。
ジャックがカーフェの真上から現れ、''ユグドラシル''で最大まで溜められた太陽の如く拳をライザックへと振り下ろした。
ドジュウウウ!!
鈍い音と溶かす音が混ざり合い、対象を焼き尽くす。
ジャックから溢れ出した熱を受け背後にいる魔族すらも弱い者から順に灰になっていった。
「ハハ…ハハハハハハ!!やるなァ!!人間!!」
轟々と燃え盛る火柱の中心から笑い声がし始めたと同時に何かが投げ飛ばされる。
その正体はジャックだ。
能力を解除していない彼は壁にぶつかるたびに熱で溶かしていき、ついには外へと放り出されてしまった。
「…これはキツイなァ…。」
即座に方向転換し、能力を解除。
宙で壁を蹴り再び戦地へと戻る。
「ここまで強い人間は久方ぶりだ!惜しいなあ、お前たち。魔族になれば更に強くなれる。人族と魔族では根本的な強さが違うのだ。魔族にはその種固有の能力がある。我のこの魔術''ディアスフィンドネーゼ''もそうだ。」
ライザックが手のひらに小さな竜巻を発生させる。
「我も元はこのように竜巻を発生させる能力を持っていた。それを何千年、何万年とかけて研鑽し、高めるのだ。だからこそ魔族は強い。」
二人は話を聞いていた。
なぜかは分からない。
体力を温存し回復を図るためかもしれない。
もう勝てないと悟ったのかもしれない。
目の前の圧倒的な強者に魅されてしまったのかもしれない。
「お前たちと最初に戦ってしまったのはミスだったな…。後が物足りなくなってしまう。しかし…仕方あるまい。強き人間の戦士ジャックとカーフェよ。さらばだ!!」
ライザックが腕を向け、魔法を唱えた。
『ディアスフィンドネーゼ!!』
放たれた真空の刃は二人に命中するはずだった。
グイイイン…。
しかし魔法は突然現れた一人の魔族に衝突。
「愚かな!!キサマ何をしている!!」
ライザックはその切れ長の目を大きく見開いてそいつを見る。
燃え盛るような赤髪を後ろで結んだ少ね……いや、少女か。
しかし待て。
コイツは我の魔法を食らったはずなのになぜ生きている?
分からない…奴がどの種族すらも分からぬ。
「ああ…来てくれたのかい?」
「…遅いよ。」
ジャックとカーフェが顔を上げる。
その表情には安心感が広がっていた。
「すみません二人とも。後は俺がやります。任せて休んでてください。」
そう言うとライザックの方を向き、腕を上げる。
「お返しです。」
シュオオオオン!!
そこから放たれたのはまさにライザックの技
『ディアスフィンドネーゼ』。
呆気に取られたライザックはそれを避けることができずに直撃してしまう。
全身から血の雨が噴き出した。
「こ、これは…我が魔法ではないか…!!どうひてキサマが…!!」
万年の時を生きる大魔族''凄惨''のライザックは初めて目の前にいる敵、本を携えた紫紺と碧眼のオッドアイの人間に…恐怖を感じた。
ここからは展開が大きく進む章、
大戦編へとなります…!
ここまで読んでくれた方、本当にありがとうございます!




