第三十話 魔王達は遊びたい
「おのれあのガキィィ!!!!」
怒りを爆発させた賢者ケトスの様子を見守るのは聖女様ステラー。
心配そうな気持ちと同時に少し疑問を抱いていた。
(なぜ…賢者様はマナにあそこまでお怒りなのでしょう…?それに殺そうとも…い、いえ…きっと何か理由があったのでしょう…でも…マナ、どうかご無事で…!)
「よぉー!ステラーちゃん!」
すると後ろから一人の男がやってきた。
センター分けの真っ青な蒼髪、チラリと見える八重歯に胸元を開けた黒い服。
見るからにチャラそうだ。
「アストラ様!お久しぶりです。」
そう、この男こそが世界で最強に君臨する魔王が一人、''大魔王アストラ''なのだ。
二十代のような見た目をしているが中身は万年の時を生きる大魔族である。
「あいつ、なんであんなに怒ってんの?」
ケトスの方を指差したアストラがステラーに問う。
「私も…あまり詳しくは存じませんが帰ってきてからずっとあの様子で…。」
「はあ…。」
アストラは大きくため息をつくとケトスの方へとツカツカ歩いていく。
「おいケトスゥ!お前ステラーちゃんに迷惑かけてんじゃねえぞ!」
声に気づいたケトスはムッとした表情で顔を上げた。
「…アストラか。何の用だ?」
「ヒマだヒマ!テュポンとシッダを呼んで遊ぼうぜ!」
当然だろ?って顔で問い返すアストラ。
ケトスはめんどくさそうな顔をしている。
「今お前の暇つぶしに付き合う気分にはなれん。帰って三人で遊んで…ろ…。いや、まてよ。
何か閃いた様子。
「どうした?」
「よしアストラ。良い事を思いついたぞ。だが人間には内密にしたいのでな。場所を変えても良いか?」
アストラはニヤっとしてケトスと肩を組んだ。
「お前はクズだけどそのノリの良さが最高だぜ親友。じゃあ場所はあそこで良いな?アイツらにも言っとくわ。」
「すまんな。」
「おう。んじゃ俺、先行ってるからお前もすぐ来いよ。あ、ステラーちゃんにも迷惑かけたこと謝っとけよ。」
そう言ってアストラは自分の前の次元を歪ませ、中に入っていった。
「思わぬ展開だ…!良いかもしれぬぞ。」
アストラが去ると一気に静かになったケトスの部屋。暖炉がパチパチと言っている。
「ステラー、すまなかったな。それと部屋を開ける。しばらくの間留守を頼んだぞ。」
隅にいたステラーに声をかける。
アストラに言われた通り…確かに少々迷惑をかけたので一応謝っておく。
アイツのいう通りにするのは癪だったが。
「い、いえ!私は大丈夫です!留守も任せてください!」
「うむ。では頼んだぞ。」
ケトスは頷くと同じように空間に歪みを発生させて中に入っていった。
一人残されたステラーは…不安そうに見送った。
—————
「んあ?なんじゃこりゃ。」
先に目的地へと到着したアストラが見たのは人だった。
うじゃうじゃといる人。
「予想外だ…。こっちの人間がここまで増えているとは。テュポンかまきたらマズイんじゃないか?これ。」
そう思った矢先、空がバチバチと唸り始め大きな亀裂が入る。
「ドラララ!!!今度は何を思いついたんだァ。アストラ!!」
宙から巨大な竜が現れる。
一つ一つが山ほど大きい四本足を地につけ着陸。
皮膚は漆黒なのに対し、二つの眼は真紅に染まっていた。
この化け物こそが…''竜王''テュポンである。
「よォテュポン!!相変わらずイカれた笑い声が最高だなァ!今回は俺じゃなくてケトスが考えたんだ!もうじきアイツも来ると思うぞ!」
逃げ惑う人々、叫び声や悲鳴を聞きアストラは深く考えるのをやめた。めんどくさいのだ。
テュポンは一度周りをぐるりと眺めた。
「ケトスがか!アイツのはお前と違って手が込んでおるからな!楽しみだ!しかしこっちの人間はこんなにいたものだったか?千年ほど前に来た時は僅かだったはずだが。」
「それ、俺も思ってたとこだ。確かここ…なんて名前だったけ?出てこねえな。」
アストラがうーんと首を傾げる。
「余も分からんな!忘れてしまった!ドラララ!!」
「パルテノン神殿だ。アホども。」
するとテュポンの後ろからケトスがやってきた。
「そう!それだ!ここは何かと俺とケトスに優しいから重宝してたんだが…。」
アストラがぐるっと見渡す。
「あの時いたヤツらの子孫はもういねえのかな?」
「あれから千年以上経ったからな。我々には短くとも奴ら人間にはもはや太古の世界だ。当然、歴史は変わっておろう。しかし子孫はいるかもしれんな。」
アストラの問いにケトスが返す。
「あとは…シッダだけか。」
「あやつはいつも遅刻してくるな。愚鈍な人間だった頃のクセが治っておらぬのではないか?ドラララ!!」
「誰が愚鈍じゃて?テュポン。」
突然声が響く。
そしてテュポンの背から一人の女が現れた。
「その声はシッダ!?キサマ、いつから余の背に乗っていた!!」
するとシッダはふっと笑った。
「愚鈍な〜からじゃ。今回は早かったじゃろう?わっちとて毎度遅れるわけにはいかぬのでな。」
「愚鈍……かなり直近ではないか!!キサマが一番遅いことには変わらぬわ!!」
「くくっ。どうとでも言うが良いさ。」
そう言いながらシッダはテュポンの背から降りた。
彼女はグラマラスなボディに浴衣を羽織っている。耳は福耳になっていた。
唯一人を超越した生物、''神王''である。
「よし、これで全員揃ったな!」
アストラが全員を眺めた。
テュポンはシッダを睨みつけ、それをニヤニヤと見ているシッダ。
カールになった後ろ髪を手でくりくりとしている。白色のまつ毛がとても妖美だ。
ケトスはうるさい奴らが増えてやれやれといった感じだ。
「それじゃ会議といこう………」
「まさか、貴方はゼウス様ですか…?」
アストラは言葉の方へと顔を向けた。
見てみれば老人を先頭に後ろから恐る恐るとなにやら四角いものをこちらに向けている人間たちがいる。
「その呼び方、久々に聞いたな。お前、誰だ?」
アストラは自分のこっちの世界での名を久々に聞き、興味が湧いた。
「失礼しました。私はギリシャ王、エピロスの直系の子孫であります。あなた様のことは先祖代々伝えられてきました。『ゼウス様にもし会ったら盛大にもてなしなさい』と。」
「エピロス!アイツの子供だったのか!いやあ懐かしいなあ!奴は元気にしてんのか?」
この言葉にケトスがため息をつく。
「アストラ、さっきも言ったが人は何千年を生きられん。エピロスは死んだのだろう。」
「おお…そちらはポセイドン様ですか…?あなた様とゼウス様にはギリシャを救っていただいた恩があります。ささ、どうぞ神殿を使ってください。」
「すまんな!ところで…その黒い四角いのはなんなんだ?」
アストラが人々が手に持つ箱というには薄っぺらいものを見て言った。
「私と気になっていたところだ。それで何をしているのだ?」
ケトスを興味があるようでみようとしている。
「おお、これはスマートフォンという物ですじゃ。ご覧になりますか?」
そう言ってスマホを一台、アストラに渡してくれた。
「お、おお!す、すごいぞケトス!これ見ろ!」
「なるほど…!液晶に映像を投影しているのか!小型で持ち運びもしやすい…考えたな。」
「人間、進歩したんだなあ。」
アストラとケトスが染み染みとしている中、シッダはふふーんと誇らしそうな顔をしている。
「なぜお前が嬉しそうにしている?」
テュポンが聞く。
「なぜって人間は我が子だからのお。我が民が賢くなっていてわっちも鼻が高いのじゃ。」
「なるほどのォ…。」
パシャ!
「わっ!なんだ?」
シャッター音にアストラが驚いた。
「これはスマートフォンのカメラ機能というものです。簡単に言えば…場面を切り取って保存する、というものですな…。みなさまもやってみますか?」
「良いけど俺たちはどうすれば良いんだ?」
「そこにいるだけで良いですよ。えー…テュポン殿も入りますかな?」
老人は怖がりながら聞いた。
なぜならテュポンは神話においての怪物だからだ。
しかしその実態はただのアストラとの戯れで、こっちの世界で遊んでたら人に目撃されて神と怪物の戦いだと勝手に解釈されてしまい、神話へと発展してしまったというなんとも言えないエピソードなのである。
「もちろんだ!!入れさせてもらおう!」
首を低くしアストラ達のところまで持ってきた。
「わっちがセンターが良いぞ!」
「んだようっせえな。じゃあシッダがセンターな。」
「私はここで良い。」
「端すぎだケトス!もっと寄れってジジイに言われてんだろ!」
「おお!良いですそれで待っていてくだされ!それじゃ撮りますよー…はい、チーズ。」
カシャッ!!
「「おーーーっ!」」
こうして魔王たちはしばらくの間、遊び続け既に夜となっていた。
「それじゃ、会議を始めよう。ケトス、お前の案を聞かせてもらおうじゃないか!」
「ああ。」
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「よし!なら一ヶ月後だな!そこまで全員楽しみにしておけよ!」
アストラの声で会議は終わった。
一体彼ら、ケトスの案とはなんなのだろうか…。
ブクマ等よろしくお願いします!




