第二十六話 俺の聖剣がない
「…ふんふーん。」
誰かの声が聞こえる。
そしてトタトタと小さな足音もする。
ガバッ
目が覚めた。
「どこだここ!?聖女様は…!?」
無防備にも寝ていたらしく急いで立ちあがろうとするも、逆にこてんと地面に転がってしまった。
「あててて…。そっか…俺、右腕無いんでだった…。」
あの時賢者に腕を千切られてしまい、魔術どころか自分が生きているかも怪しい。
「てか、ほんとにどこだよここ…。」
俺がいた場所は…
「…図書館?」
目の前に並ぶおびただしい棚の数々。
やっとのことで立ち上がり、少し周辺を歩いてみたがその全てに本がぎっしりと詰まっている。
小さいものや見たことないぐらい分厚いものもあれば、とんでもなく古そうな古文書まで。
途中途中に机や椅子まで用意されているからマジで図書館みたいである。
歩いていると、今までの戦いの傷で体がひどく痛み、一旦休憩。
椅子に腰掛ける。
「ふー………。みんな、大丈夫かな…。聖女様も無事だと良いけど…。つーかマジでここどこなんだ?賢者の魔法…という線もありそうだけど俺だけにかけられたのか?いやでも無限に広がってそうだしみんなもいるのかも……?」
考えても考えても謎は深まるばかり。
見渡す限り全てに本棚が見えるから出口もわからない。もしかしたら終わりなんかないのか?
うーん…。
どうしたものか。
「あ。」
俺には能力があるじゃないか。
状況が呑み込めず頭が回っていなかったようだ。
ここは図書館だとしよう。
なら本について分からないことは本で調べれば良い。
きっと''神の書物''も、ggrksと言っているだろう。
よし、そうと決まれば早速行動だ。
「''神の書物''」
…………。
しーん…。
何も起こらない。
おかしいな、今まで俺の呼び声一つで手に握られていたはずの我が愛本が姿を見せない。
もしかして俺が弱すぎるから拗ねてるのか?
それとも俺ってもう死んでるのか?
…いやいやいやネガティブな考えはよそう。
信じろ俺の能力を。
「''神の書物''」
「…はーい。」
……。
「''神の書物''」
「はーいってば。」
………。
「''神の書物''」
「だから返事してるじゃん!」
う、うーん……。
実はさっきから聞こえてます。
だけどにわかには信じがたいからあえてフル無視させてもらっているのだ。
先程、トタトタと小走りでやってきて俺の呼びかけに応える少女。
俺の隣に座ってじれったそうな顔をしている。
そろそろシカトはマズイかも。
「えー…っとどちら様で…?」
恐る恐る声をかける。
「だから私が|アンドロメダ《・・・・・・
》って言ってるじゃん!」
「え?」
この女の子が''神の書物?
俺の堅くて分厚い信頼の''神の書物はいずこへ?
丁度その女の子が持ってきた本を拝借し、説明を試みてみる。
「僕の知ってる''神の書物''はこんな本なんだけど…。君は同じ名前の子なの…?」
すると女の子は身を乗り出し、俺の顔のすぐそばに自分の顔を近づけた。
この子、ノースリーブのタンクトップのようなものとパンツしか履いてないからすごく目のやり場に困るなあ…。
ああ、ほらかがむと服の隙間から成長途中のお胸が見えちゃ……見えた。
不可抗力。
そして輝く銀髪が顔に少しかかりこそばゆい。
瞳は紫紺と水色のオッドアイ。
神秘的で宇宙を宿すような美しさに思わず一瞬、心を奪われた。
「だーかーらー!私が''アンドロメダ''って言ってるじゃん!君が言ってるその''神の書物も私なんだよ!」
「はえ?」
普通だったら信じるはずないよな。
だけど…なんか俺、この子の言葉はすごく信じてしまってるんだ。
俺の能力、とんでもない美少女だったのかもしれない。
—————
驚きで開いた口が閉まらない。
ワ○オになっちまった。
そんな俺の顔を見て少女アンドロメダは安心そうにホッと胸を撫で下ろしていた。
「やあっと私がアンドロメダだって信じてくれたんだ。君、死にそうで危なかったんだからね?もうちょっと助けるのが遅かったら死んでるとこだったんだよ?」
それを聞き、言葉にかなり信憑性が生まれた。
この子は俺が死にかけてたことを知っている。
しかも助けたとも言ってる。
この子はあの場にいなかった…なら信じるしかないんじゃないか?
「じゃ、じゃあ君がアンドロメダだとしてここはどこですか?」
「ここ?ここは本の中だよ。うーん、本っていうか私の頭の中かな?」
「あ、頭?」
さらーっと言っていくので話がつかめん。
なんだ頭の中って…。
「そうだよ。あの本、''神の書物''は私の頭の中の情報を形にしたものだからね。本の中にいるってことはそうなるんじゃないかな?」
うーん……?
本の中にいるってのも理解不能だが''神の書物''はこの子の頭の情報?
さっぱりワケワカメ…。
「てゆうか。」
アンドロメダがニヤニヤと俺を見てくる。
なんだ?
「君、女装似合うじゃん。男の娘ってやつ?」
「え?」
彼女に言われて自分の体を見てみると…
「な、なんじゃこりゃあああああ!!??」
俺が着ていたのは今までの村の冒険着なんかじゃない。
白と黒を基調とし、フリフリのフリルが散りばめられたあの正装…!
頭にカチューシャ、短いスカート…。
「おかえりなさいご主人様♡」と言わんばかりのこの服…!!
「そ!メイド服!鏡見てみる?」
アンドロメダが指をパチっと鳴らすと鏡が目の前に現れる。
「あれ…意外とかわいい…。」
じゃなくて!
そこじゃなくて!もっと別に思うことがあるだろ!
目だ!俺の瞳もオッドアイになってるぞ!
左が紫紺、右が青。
アンドロメダとは全くの逆になっている。
「俺の目…カラコン?」
冗談で言ってみた。
「カラコンはこの世界にないから違うよ。私と一部が融合してるからね。力が君に行ってるんだよ。」
「え?カラコン分かるの?」
なんで知ってるの?
「もちろん!私に知らないことはないからね。んーと…。ホラ!私って図書館にいるからベア○リスみたいでしょ?」
「…ホンモノだ…!」
リ○ロも履修済みだと…!?
一体どうやって…!?
「君の頭の情報も私に流れてるからね。ぜーんる分かるんだっ。」
なるほど…俺たちは能力の域を超えて一心同体なのか…。
スッキリとし再び鏡に目を向ける。
俺、この子の言葉信じすぎかな?
まあ良いや、今はそれしか道がないし。
「ん?」
突如違和感を覚える。
「どうしたの?」
「いや、なんか大切なモノの気配がしないような…。」
「大切なモノ?」
急いでスカートを下ろす。
なんかかなり複雑だったから脱ぐのに苦労したがやっとの思いで脱げた。
女の子って大変なんだな。
そして勢いよくパンツをまくり、中を見る。
すると……
「ぎゃあああああああああ!!??」
「な、なに!?どうしたの!?」
アンドロメダが近づいてきて俺のパンツの中を覗く。
「あーーーー……。」
「お、俺の…エクスカリバーが…なくなったあああああああああ!!!???」
第三章開幕です!
マナの戦いはより一層激しいものとなっていきます!




