第二十四話 悪魔子
目の前で起きた光景。
アルゴーとアルルを庇うようにして立つオシリス。
イタイタスはニタニタと見下している。
俺が知っているオシリスは臆病な子。
しかし家族思いで、震えながらもきっと立ち上がっただろう。
だが…俺が見ているのは違う。
「よぉてめえがアルゴーのガ……」
ドゴオオン!!!
ヘラヘラと近づいてきたイタイタスの胸に一発のパンチを食らわせ、俺やジャックですは思うようなダメージを入れれなかった相手をぶっ飛ばしたのだ!
ガララ…。
「ぐ、グハッ…!?何が起こった…!?」
既に崩れつつある城内の壁に衝突し、瓦礫の山に埋まるイタイタス。
何が起こったか分からず、ワケがわからんという顔をしている。
「あの子。ドワーフ四人分ぐらいの力を持ってるね。それを体格には出さずに全て内の筋肉に集中してる。」
カーフェがジーッとオシリスを見てそう説明した。
「四人分…?どう言うことですか…?」
俺の疑問に答えてくれたのはベラクレス。
「''悪魔子''だよ。稀に生まれてくる子供が兄弟や親の力を奪って生まれるんだ。種族特有の能力値や身体能力が格段に上がっているから文字通り悪魔のように強くなるってことからそう言われている。」
オシリスが…''悪魔子''…。
確かにそれならアルルの体がドワーフなのに細いのにも頷ける。
四人分…ってことはアルルとアルゴー、お母さんさんか?
後一人は誰なんだろう。
「そして…そこにいる兄上も悪魔子なのだよ。」
ベラクレスが憎々しげに言う。
「え…?」
「ここロゴス王国は神の国家でね。過去に神が統治していたんだ。その血筋の者には代々神の力を継いで生まれる。」
「それじゃあベラクレス様にも…?」
すると力なく笑った。
「いいや、僕はただの人間さ。兄上は僕の力も奪って生まれた悪魔子さ。だから神の力を二人分持っているが故のあの力を誇る訳だ。単純な力ならこの世界で神を除き一番かと思っていたが…あの子、オシリスはもしかすると兄上に匹敵するかもしれないな…。」
不思議なものを見るような目でオシリスを眺めるベラクレス。
まさかイタイタスの強さにそんな理由があったなんてな…。
そしてそれ以上に驚いたのはオシリスにほこまでの力があったこと。
俺なんかよりも全然強い子だったんだな…。
「マナ…!!あなた賢者様になんてことするんですか!?」
タタタっと聖女様が俺の元へと走ってきた。
「聖女様…。」
…なんて言ったら良いんだよ。
あなたのお父さんを今からもう一度殺そうとしています、か?
いや、俺はほんとにアイツを倒せるのか…?
必殺の一撃、勇者の力まで使用した魔術はいとも簡単に防がれてしまった。
俺と奴には…魔術師としてのレベル差がありすぎる…!!
「全く。子供一人にこのザマか。使い物にならないなイタイタス。」
賢者がチラと倒れるイタイタスの方を見てさらりと言う。
まるで壊れた物に対して言葉を向けるかのように無表情で冷たく、冷徹だ。
「チッ…うるせえなクソジジイ…!あんなガキ、今すぐ殺してやらァ!!」
ドオオン!!
オシリスの元へ再び向かい、拳を握りしめて攻撃を仕掛ける。
ゴオオン!!
イタイタスのパンチは確かにオシリスに直撃した。
しかし動かないのだ。一歩も。
オシリスは微動だにしないどころかイタイタスの拳を掴み返す。
「よくもアルルとお父さんを…!それにマナお兄ちゃんまで…!!」
涙を流しながらオシリスはイタイタスを持ち上げ地面へと叩きつける。
オシリスの姿はまさに鬼神の如く圧巻だった。
父、アルゴーの名に恥じぬ力。圧倒的だ。
既に割れていた床が更にイタイタスを中心としたクレーター状のヒビが入りやがてバキバキと壊れる。
イタイタスは地面へと倒れ込み静かとなった。気絶したんだ。
するとオシリスもふらりとし倒れそうになる。
そこをベラクレスがキャッチし、そっと地面へと寝かした。
「はあ…。」
一部始終を見ていた賢者は大きくため息をつく。
「やはり力だけの能無しは嫌いだ。使えた物じゃないな。」
「賢者…!!」
再び賢者へと視線を向ける。
「マナ君、あの男は?」
ジャックがそっと質問する。
「……敵です。イタイタス以上の…!」
「なるほどね。連戦も悪くないじゃないか。」
上手く説明が出来なかったが分かってくれたようだ。
「わーい!また戦えるにゃ!」
「気をつけてねベル。普通そうじゃないよこの人。」
二人も力をかしてくれる。
「マナ…?やめてください…!なぜ賢者様と戦おうとするのですか!?あの人は敵じゃありません!やめて下さい!!」
聖女様は俺を必死に止めてこようとする。
とても…苦しそうな顔で…。
「すみません聖女様…。」
本を開き、眠らせる魔法''ヒュプノス''をかける。
「な…んで………」
バタッ。
聖女様は俺の腕の中で眠りに落ちた。
目元に涙を浮かべながら…。
「絶対に…あなたを守ります…!」
オシリスとアルルを寝かしている隣へそっと置き、俺は賢者の元へと向かう。
「聖女様に…手を出すな…!」
かなりの声量が出た。
俺の激しい叫び声に賢者はつまらなさそうに答えた。
「ステラーの''太古の魔術''は必要だ。手は出さん。彼女の持つ''神の采配''こそが全てを超越するのだ。悪いが家族の問題に顔を突っ込まないでくれ。そして…。」
賢者は俺の持つ本をまじまじと見つめる。
「私の…''神の書物''を返してもらうぞ。子供よ。」
その言葉からは限りなく広がる邪悪の波動を感じられ、体に寒気が走る。
「みんな…力をかしてくれますか…?」
震えながらも声をかける。
「もちろんさ。おもしろそうだしね。」
「同意。」
「やるにゃあ!」
全員が快く答えてくれたことで勇気が湧く。
スウー…。
もう一度勇者の力を呼び起こし、体に力を纏う。
「…手を煩わせおって。さっさと''神の書物''を返してもらうぞ。」
賢者の一言が合図となり、戦いが始まる。
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