第二十一話 ''狂人''
ジャックとイタイタスが向き合い、構える。
構えると言っても二人はニヤニヤと笑うのみ。
どちらも恐ろしいレベルの強者。
しかしイタイタスは強者の一言で片付けられる相手じゃない。
奴は怪物だ。人間なんかじゃない。
「僕はアルゴーさんの治療をしておきます。終わったらできるだけ早くサポートに入りますね。」
「ありがとう。キミも自分の体を回復させておきな。多分骨がかなり折れてると思うよ。それまではカーフェとベル。できそうなところでサポートに入ってくれ。あ、でもやれそうな時で良いよ。」
後ろに立つ二人が頷いた。
「そうだね。下手に手を出したらこっちが危ない。」
「んにゃ…。あついのはいやにゃ…。」
俺には分からない会話だがもしかすると二人はジャックの力を知ってるのかもしれない。
「う…ぐ…。」
アルゴーが目を覚まし呻き声を上げた。
「アルゴー!大丈夫ですか…?今回復魔術をかけますね。」
アルゴーは小さく目を開いた。
相変わらず目は輝いておりまだまだ諦めてはいないようだ。
「マナ、ジャックの能力は危険だ。お前も気をつけろ…!」
「…?分かりました。」
アルゴーも危険視してるということはかなり危ない能力なのかも。
つかあの時は脳筋仲間かと思ってたがジャックにも能力とかあったんだな。
「ハッハッハ!''狂人''!!お前の能力など知らんがさっさと死んでもらうぞ。そこのガキを殺さねばならんからな!」
「生憎だが彼はボクと戦う約束をしているんでね。殺させるワケにはいかないナ。」
イタイタスの言葉にまだニヤけた顔を続けるジャック。
次第にイタイタスもイライラし始めている。
「そんなに死にたいなら殺してやるよ!ジャッッッック!!!!」
イタイタスの叫び声と同時に魔力が放出される。
オーラのようなものでダメージこそないがそれに触れただけで恐怖が引き立てられる。
ビリビリと伝わりその振動で城が小刻みに震える。
それでもジャックは笑っている。
この状況を楽しんでいるのか…?
「マナ君。ボクもキミほどじゃないが魔術はそれなりにできてね。中でも火魔術に自信があるんだ。」
「死ねェェェェェェ!!ジャック!!!」
イタイタスが地面を踏み締めるとそこは粉々に砕ける。
そしてその推進力でジャックめがけて攻撃を仕掛けてくるも…。
「な、なんだ?」
俺は何を見ているんだ?
目にした光景はイタイタスがジャックを殴ろうとしたのだが全く別の場所を殴ろうとしているのだ。
「''狂人''…!なにをした…!!」
イタイタスの言葉に相変わらずのニヤけた表情。
「自分の周りをよく見てみると良いよ。」
俺もその言葉に従いイタイタスの周りを見る。
すると…奴の周りの空間が歪んでいるかのように見える。
例えるなら暑い日に道路がうねるような、それのもっとぐにゃあっと歪んだバージョン。
空間そのものが湾曲してしまっているかのようである。
「ボクは自分で決めた範囲の空間を火魔術を用いて熱で歪ませることができるんだ。ほら、熱いだろ?そこ。」
確かに奴の周りからは凄まじいほどの熱気を感じる。
俺は割と離れたところにいるがここも熱いぐらいだ。
「うっとおしい技だなァ…!!」
イタイタスは空間中心部でふらついている。
「すごい…。火魔術をここまで極めるなんて…!」
「普通の火魔術でも強くやればこれくらいかもうちょい弱めたものなら出来るよ。見せかけだけはね。だけどボクは空間そのものを歪ませてるから、そうカンタンには出られないだろ?」
く、空間を歪ませてる…?
そんな事まで可能なのか…!?
「ジャックはね。」
俺の前にいたカーフェが口を開いた。
「ああやって目の前を歪ませて笑いながらトドメを刺しにくるから''狂人''って呼ばれてるんだって。」
「…なるほど。」
想像した。
チビりそう。
「チッ…。ここにいるのはめんどくせえ!」
ジャックの能力圏内から逃れようと走り出したイタイタス。
「おっと。逃げるとは良くないねェ。」
一言言うとジャックは腕をイタイタスへと向ける。
『''アトリエ''』
すると再び逃げた先の空間がぐにゃりと歪み始めた。
「クックック。どこへ逃げてもムダだよ。ボクはキミを殺すことはできないかもしれないが魔力が尽きるまで一緒に遊ぶことはできる!」
すごい…あの男にここまで一人でやれるなんて。
あの魔術、とんでもないレベルまで鍛えられたものだ。
「うにゃあ〜…。あついにゃあ…。」
ベルは暑さが苦手なようでぐったりとしている。
確かにこの部屋の温度は急激に上がり続けている。
一番遠くで観戦している俺たちの場所でも四十度近くはあるだろう。
中心部はとんでもないことになってるんだろな…。
「ならばこの空間ごと破壊してしまえばいい!!」
突然イタイタスは自分の周りに落ちていた大粒の瓦礫や石を拾い上げ四方八方へと投げつける。
「グアハハハハハ!!見えぬなら全て破壊するのみだ!!」
天井に当たった石は、キラキラと輝くシャンデリアを落下させたり破片を落としたりしてジャックに牙を剥いた。
衝撃で天井も崩れ落ち、ジャックに落下する。
そのまま飲み込まれてしまい舞い上がった砂埃と共に消えていってしまった。
「ジャック!!」
「フン!造作もない。所詮小細工など俺様には通用せんのだ!!」
だがジャックがいた場所から何やら音がする。
ジュウウウ…。
なんだ…?この音?
ジュウウウ…。
音は止まない。
何かが溶けるような…。
「確かに周囲が歪むならそのエリアごと壊すのは正解だね。けどボクにはそれも通用しない。」
おびただしいほどの湯気を纏い下から這い上がってきたのは無傷のジャック。
「……''狂人''…!!」
「『ユグドラシル』。ボクの体の熱を極限まで上げて周辺のもの全てを溶かしてきたのさ。」
「ほざけ…!!」
手に持っていた石をジャックに向けてぶん投げたイタイタス。
その速度は優に音速を超えていた。
だがジャックの近くに来た瞬間、ジュッ!と音を立ててドロドロになり地面にべちゃりと落ちていく。
「ふふ。知ってるかい?火は命の灯火。だからこうして体の熱を上げると…。」
言葉を言っている最中に姿が消える。
一瞬、俺の前を突風が横切るとそこからは凄まじい程の熱気が体を焦がした。
ジャックはイタイタスの目の前に現れ、顔に一撃パンチを入れた。
ドゴオオン!!
イタイタスの体は大きくのけ反り、体勢を崩す。
…奴は初めてダメージを負った。
「こうやって速く動けるようにもなるんだろねェ。」
しかしすぐさまイタイタスは体勢を立て直しジャックの首根っこを掴んだ。
手はジュウジュウと音が鳴り煙が噴き出る。
「俺に殴り合いで勝てるとでも思ったか?ジャックゥ…!!
歯を剥き出しにして笑っている…。
目はギラギラとしてジャックだけを見ていた。
「ぐっ…良いね…!今ので勝てたら拍子抜けさ…!さあまだまだ楽しもうよ…!!」
ジャックもニヤッとする。
「おもしろい男だ!さあ来い!殺してやる!!」
そのまま壁に向けて投げつけられるがその前にジャックは器用にも体を曲げて上手く地面へと着地した。
「うーん。どうやらボク一人ではキビしそうだな。そろそろいけるかい?マナ君。」
「…はい!!」
あれだけ渡り合えたジャックが一人では無理だと判断した。
俺にできる事はあるのか…?だが今はやるしかない…!
俺たちは再びイタイタスと向かい合い、構える。
俺、ジャック、カーフェ、ベルの四人でもう一度アイツと戦ってやる…!!
二十時に次の話投稿します!
よろしくお願いします!