第十九話 開戦
ー聖女様視点ー
マナが連れ去られて一日が経過…。彼のおかげでなんとかオシリスとアルルの二人を連れて逃げる事ができましたが…大丈夫でしょうか…。
いや、彼はこれまでも誰より上手く危険を切り抜けてきた子です。
私は彼が心配しないようにこの子たちを守りましょう…!
「おねえちゃん…マナお兄ちゃん大丈夫かな…?」
アルルが私の裾を引っ張りながら不安そうな顔で見上げてきた。
「マナは強いですからきっと大丈夫です。」
なるべく心配させたくない…。
できる限りの笑顔を努めて言う。
ここは国から外れた森の中。
兵士がここまで追ってくることはよっぽどないと思うのですが…。
「聖女様…僕たちのせいでごめんなさい…。」
下を向きながらオシリスが小さく呟いた。
「オシリス、あなたたちのせいだなんて私もマナも思っていませんよ。だから顔を上げてください。ね?」
二人はゆっくりと顔を上げた。
その顔はとても暗い…。
子供にこんな顔をさせるなんて私がとても申し訳なく思いますね…。
優しくオシリスとアルルの頭を撫でた。
—————
「いたぞ!!奴らを囲め!!」
突然大勢の足音が響き渡り、いつの間にか私たちは包囲されてしまった。
金属のガチャガチャとする音…正体はロゴス国の兵士…!
「お前たちを捕らえよと王子の命が下っておる!!我らと来てもらおうか!」
「おねえちゃん…!」
アルルがぎゅっと服を握る。
震えている…。
「…なぜここが分かったのですか…?」
なるべく時間を稼ぎ彼らを逃す策を考える。
どうすればここを切り抜けられるか…。
「そんなことはどうでも良い!そこの二人は元より捕えろとの話!それにお前が加わったというわけだ!」
兵士の一人が剣を二人に突きつける。
「うう………。」
「アルル…!」
アルルは泣き、オシリスは妹を抱きしめて庇おうとしている。
私は…どうしたら…。
''太古の魔術''を使えば彼らを倒すなど造作もないこと。
しかし仮にも王国の兵士。
手を出せばこちらが捕えられる口実となりうるかもしれません…。
それにマナも危ない…。
もう手立てはないかもしれない…。
「…分かりました。ですがこの子たちには手を出さないで下さい…。お願いします。」
「ふん!約束は出来ぬ。そこのガキは殺せとの話だしな。おい、お前に会いたいという人間がいる!王子の客人だから態度には気をつけろよ!!」
「私に…?」
兵士たちの奥からやってきた一人の男。
他とは違う威厳のある圧倒的なオーラ。
長いマントに身を包み、こちらへとやってくる。
「そこの君。私の娘にどういう態度だ?」
先ほどまで私と話していた兵士に視線を向けて一喝した。
「は…?娘…?こ、これは失礼しました…!」
懐かしい…。
私はこの人の事をよく知っている。
「ステラー。久しぶりだなあ。元気にしておったか?」
「おねえちゃん?知ってる人?」
アルルが不思議そうな顔で見る。
だが、私にはもうさっきまでの不安がない。
なぜなら世界で一番安心できる人がやってきたのだから。
「二人とも、もう大丈夫ですよ。なぜならこの人は私の___________」
—————
ーマナ視点ー
「イ、イタイタス…!!」
扉を開けて部屋に入ってきたのはベラクレスではなく、イタイタス。
流石にこの状況は全員にとって想定外だった。
話が違うじゃないか…ベラクレス…!
まさかアイツ、本当にグルだったのか…!?
「ククッ…。奴の言う通りだぜ…!本当にあの牢獄から出てきやがった!はっはっは!!おもしれえ!!」
「…ベラクレス様はどこだ、イタイタス。」
アルゴーが威圧的に言葉を向ける。
この様子だとかなりキレている。
「よォアルゴー。久々だなあ。お前も出てきやがって、捕まえるのには一苦労したんだぜ?なんせお前はかの有名な勇者ホシのパーティが一人、''巨人''のアルゴーだからなあ!!」
あ、アルゴーが村長のパーティの一人…!?
しかしだとしたらこの強さにも頷けるし面識があるのも分かる。
話を聞くだけでも二人が仲が良いのはよく伝わってくる。
しかしアルゴーはイタイタスの言葉に微塵も耳を傾けていない。
「もう一度問うぞ。ベラクレス様はどこだ?」
面白くなさそうな顔でイタイタスはてかてかとしたオールバックの髪を撫で付けている。
「まあそう焦んなよ。ベラクレスならもうそろそろ来るはずだぜ?それに今はアイツも忙しいだろうからな。ガキ、お前の連れの聖女とアルゴーのガキを捕えろ、とこの俺直々に命じたからなァ!今頃俺の取引相手が抑えてるとこだろうよ!アイツも阻止に向かってるんじゃないか?」
は?
俺はイタイタスの言葉を聞き、理性の紐がプツンと切れる音が脳内に響き渡った。
聖女様を捕える?
殺してやる。
今すぐにこの腐った笑顔を浮かべる外道を殺してやる…!
「待て!マナ君!」
ジャックが止めようとしてきたが知るもんか。
俺はコイツを殺す。
絶対にだ…!!
「クソ!殺してやるぞイタイタス!!」
だがいつの間にか俺はジャックとアルゴーに取り押さえられていた。
「マナ、気持ちはよく分かる。俺もステラーの事は心配だ。だがな…。」
「マナ君、怒りで我を忘れるのは良くない事だ。今突っ込めば君の仲間より先に君が死ぬことになるよ。それにみんな考えてる事は同じさ。一度冷静になるんだ。」
ジャックに諭される。
「はっはっは!!そんなに聖女が大切なのかガキ!?」
「イタイタス…!!」
クソ…!
ジャックの言い分もよく分かる。
だけど遅くなったら聖女様が危ないかもしれないじゃないか…!!
「マナのキライなヤツ…ベルもキライ!!」
ベルが毛を逆立てて威嚇する。
「そうだね。私もお前殺したかったし良い機会じゃん。協力するよマナ。」
カーフェも賛同し、二人が俺の隣に並ぶ。
「マナ君。君は一人じゃない。ボクたちもいるだろ?」
ジャックが優しく言う。
この人…こんなに優しい顔出来たんだな…。
みんなの優しさに触れて若干怒りが引いていき、冷静になる。
「みなさん…手伝っていただけますか…?」
そう言うと全員が笑顔で頷いてくれる。
「よし…全員でアイツを…!殺す!!」
今日は二十時投稿出来ないかもしれません…。
なるべく投稿できるようにするのでよろしくお願いします!




