第十七話 趣味悪ダンジョンをぶっ壊せ!
「にゃあ!?お前たち弱すぎるにゃ!もっと遊ぶにゃあ!起きるにゃあ!」
俺は今、兵士たちがボコボコに殴られて辺り一面に血の海を作っている光景を目の当たりにしています。
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話は遡り少し前。
俺、アルゴー、ベル、カーフェ、ジャックの一行は地下八階層の看守の元へと辿り着いた。
「なんだキサマら!!どうやって牢を抜け出した!!」
看守は他の奴らと同じく、黒い鎧を装備していたが胸に赤色で王家のマークをデカデカしく入れていた。
''I''のマークがおあつらえ向きに主張されているので敵なのは間違いない。
あいつらの後ろ…階段だ。
「みなさん、あれ。」
「うん。階段があるね。こいつらで間違いなさそうだ。」
カーフェが相変わらず眠たそうな眼で俺の指差した方を見た。
「どうする?大したことなさそうだがぜんいんでやるか?」
アルゴーが提案した。
「ベルがやるにゃ!!一人でやりたいにゃ!」
勢いよくベルが名乗りを挙げた。
「確かに全員でやるよりも一人でやった方が効率が良さそうですね。体力は温存しておきたいですし。」
俺も同意する。
「ボクもマナ君に賛成だね。そもそも全員で相手するような敵じゃない。彼女一人で余裕じゃないかな。」
「やっほー!んじゃ戦ってくるにゃあ!!」
ジャックも賛成したのでベルはめちゃくちゃ喜んで看守の前に出て行った。
「なんだ?我らを相手に一人で挑むつもりか?バカなヤツだ!!どうせキサマらは皆殺し!!まずは獣人!キサマから殺してやる!!」
看守さん、それ殺されるヤツのセリフですよ。
だってベルさん、恐ろしく強いもん。
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そして今に至るわけである。
彼女が動いた瞬間、看守たちは血しぶきをあげてぶっ倒れた。
哀れなり。
しかし当の本人はあっけなさすぎてガッカリしてる。
もう死んでるだろうに叩き起こそうとしている。
…ひでえ。
てか俺もベルの動きを目で追うことすらできなかった。
懐かれて良かったあ…。
もし敵として出会ってたら瞬殺されてるだろうな。
「流石だな。''野獣''の名を冠しているだけはある。」
「なんです?その野獣って。」
これは聞いたことある。
多分アレだな。
「む?お前、''二つ名''を知らないのか?」
やっぱり二つ名か。
またファンタジーっぽいのが出てきたなあ…。
かっこいいから俺も欲しいけど。
「二つ名は腕の良いヤツに与えられるものでな。だから二つ名持ちは他の持ってないヤツらと天と地の実力差があるようなものだ。ほれ、そこのカーフェは''死神''、ジャックは''狂人''の名がある。つまりここにいる全員はかなりの強者揃いということだな!ガハハ!!」
「な、なるほど…。」
ガハハじゃねえよ…。
じゃあこの三人、冗談抜きで強いんじゃねえか!
いや、強いのは分かってたけどそこまで強いと認知されていたとは…。
それに''死神''と''狂人''って……。不穏だ。
「ちなみにアルゴーにはあるのですか?」
「おおあるぞ!俺は''巨人''というぞ。」
ここ、バケモノの集まりです。
怖い…。
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「とりあえずみなさん、先を急ぎましょう。」
声をかけると全員から賛成の返事が来たので階段を上り地下七階層へ。
「はやくっはやくっやりたいにゃっ!」
走ってる最中にも言ってるよ。
バトルジャンキーめ…。
しっかしこの地下牢獄、クソデカいな…。
どんだけ作ったらこうなるんだ?
「助けて!!お父さん、お母さん!!」
しばらく進んでいくと、突然たくさんの声が聞こえてきた。
「…子供?」
声の正体は牢の中にいた大勢の子供たち。
俺は驚愕してしまい、走る足を緩めた。
「イタイタスは自分に逆らった者は皆捕える。それがたとえ子供であってもな。」
アルゴーが俺を見て教えてくれた。
しかし彼の顔も暗い。
自分の子供のことを考えているのだろうか。
「…なんだよそれ。」
なんて胸糞悪い話だ。
泣き叫ぶ子供たちを見るたび心が痛む…。
あの王子は…悪だ。
「みんな…絶対に僕たちが助けますからね…!」
近くの牢にいた女の子二人の側に寄り手を握る。
牢から伸ばされた手はとても冷たかった。
「ごめんなさい…行きましょう。」
俺たちは再び看守の元へと向かう。
道中、ベルが頭を少し撫でてくれた。
優しいがツメが痛い。
身に染みて分かる優しさだ…。
—————
七階層の看守室に到着。
「さっきみたいに一人ずつ戦うで良いよね?お互いの戦術が分かって連携がとりやすくなると思うんだ。」
ジャックがみんなに向けて言った。
なるほど。
体力温存以外にもそういった利点があったのか。
理にかなってるから言うことはない。
「僕は大丈夫ですよ。」
「私も賛成〜。そっちの方が楽だしね。」
「俺も良いぞ!ガハハ!」
「ベルも!」
全員賛成。決まりだ。
「よし、じゃあそうしよう。それじゃ誰が今から戦る?」
「ベル!!」
「ベル、キミはさっき戦ったからお預けだ。まずはみんな一巡してからだよ。」
「えーー!!」
ふむ…ジャックってまとめるのが上手いな。
最初はただのヤバいヤツかと思ってたけど、正直見習いたいレベルだ。
年齢は…19とかぐらいか?
若いのに優秀だ。
まあそれはそれとして…嫌なことは先に終わらせておきたいよな。
「僕がいきます。」
「お?マナ君の戦闘、早く見たかったんだよねえ。気になってたんだ。ワクワクするなァ……。」
顔を恍惚とさせている。
前言撤回…やっぱコイツ、''狂人だわ。
「…あまり期待してガックリしないでくださいよ?」
「もちろんだとも。」
するとカーフェも身を乗り出す。
「私も見たいな。君、こんなに若いのにここにいるのは理由があるんでしょ。気になってたんだ。」
「マナ!頑張ってにゃ!」
お、おお…プレッシャーが…。
緊張するからやめてくれよ…。
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「キサマらだな!!八階から逃げ出した囚人というのは!キサマたちをイタイタス様の名の下、粛清する!!」
看守のお出ましだ。
さっきのヤツと同じく黒い鎧に赤いマーク。
強さも一緒ぐらいだろうな。
だが、さっきの光景を見た俺は…正直気分が良くない。
「僕は…あなたたちが許せません…。あんな小さな子供を捕らえておかしいと思わないんですか?」
イタイタスへの怒りは頂点に達していた。
ここまで誰が一人を憎んだ事はない。
コイツらは''悪''だ。
ためらう必要なんかない。
あの時、俺とロックスを殺そうとしたゴブリンたちと何ら変わらない。
本質は一緒、純粋な悪。
「フン!あやつらは偉大なるイタイタス様に刃向かったクズどもだ!生かされているだけありがたく思うのだな!だがキサマらは殺す!!覚悟しておけ!!」
兵士が一斉に剣を構えて俺に襲いかかる。
しかし俺は看守の言葉で完全にキレた。
『''神の書物''』
一言呟くと本が現れ手に握られる。
「ガキィィ!!死ね!!」
鎧が俺を囲み、剣が振り下ろされようとしている。
ザグッ。
すると鈍く輝く赤色の血が飛び散ったと共に何かが落ちる音と、カーンッという剣が地面に落下する音が鳴り響く。
「う、うわあああああ!!!!」
床に広がる血は俺のじゃない。
千切れた腕を押さえ、叫ぶ兵士のものだ。
遠くに腕が転がっている。
『''鋼蜘蛛''』
ヤツらの腕がなくなったのは今や俺の十八番となった''スパイダーウェブ''のせいである。
極限まで硬くした土魔術を火魔術で精錬し、水魔術で細くワイヤー状に整形した三つの魔術を使った贅沢技。
三つを同時併用するからかなり処理が難しかったな…。
だがコイツらに痛い目見してやろうと思ってやったので安いものだ。
俺には…殺すことはできなかった。
殺すのが怖いってのもあるし、こんなクズどもでも愛される家族が居る、と思うとどうしても手が動かない。
甘いと言われるかもしれない。
これで仲間に迷惑かけたりしたら…許されなくても仕方ないな…。
「な、なんだ!?何をした!?」
看守が動揺する。
ヤツはまず部下に小手調べさせたようだから俺のワイヤー圏内に入ってない。
クソみたいなやつだ。
しかしジャックたちは興味津々そうに見ていた。
「ああ…やっぱりボクの思った通りだった…!キミはとんでもない子だ!」
「あれどうやってるんだろ?」
「マナすごーい!」
仲間の余裕そうな声を聞き、兵士たちは焦る。
殺す側だったのが殺される側になった恐怖。
「や、やれ!!さっさと殺せえええ!!!」
看守は後ろにいたヤツらを含め、全員で突撃。
俺は腕をそいつらに向けて魔術を放つ。
『''炎雷''』
目にも止まらぬスピードで飛んでいき、雷魔術が鎧に帯電し、火魔術は鎧内部から体を燃やす。
「ぐわあああああ!!!」
外と内からの攻撃で兵士たちは丸コゲとなりバタバタとその場に倒れ始める。
看守も食らっていたようで同じように倒れている。
俺はいつのまにか地下七階層を攻略していた。
二十時過ぎに次の話投稿できたら良いなって感じです!
よろしくお願いします!